書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「ジュンク堂」のレビュー
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山本周五郎愛妻日記 山本 周五郎 (著)
山本周五郎はいかにして大作家…
山本周五郎はいかにして大作家になったのか。「青べか日記」と「~戦中日記」が既に刊行されていたが、本書はその間を埋める。
まず自分に訴えるような激しい口調が印象的である。「生活には進行か後退かの二つしかなく後退しまいとしたら必ず人は進んでいなければならぬ」「貧と孤独が本当の為事(仕事)を余に与えるだろう」とあくまで自らに厳しい。漱石の「明暗」を「ひどく勿体ぶって持って廻った」「自分の知識の中で自分と格闘しているだけ」とする痛烈な批評精神は周囲の人間にも向けられる。知人を「下司になった」と軽蔑し、病没した文学仲間の日記に「文学を志す者の眼」を見出せずその死を「通俗なる別離の悲哀でしかない」ときっぱり振り切る激しさには戦慄すら覚える。
大衆物を「恥かしい」「むだ費い」としていた周五郎が「金のために書こうと芸術のために書こうとしょせん出来るものは作家の素質でしかない」「面白く、そして真実を」と割り切るに至るのはひとえに妻の為である。出会いの場面、寝ている妻のやつれに闘志を新たにする若い作家の姿は作品の登場人物に多く重なる。山周ファンは必読だ。
黒書店員 D