書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「ジュンク堂書店難波店」のレビュー
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ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容 西田 亮介 (著)
ネット選挙は、民主主義の武器なのか?
2013年7月21日投票の参議院選挙に先立って公職選挙法が改正され、選挙運動におけるインターネット利用が解禁された。ソーシャルネットワーキングサービスなどの利用が認められたことを、特にインターネットのハードユーザーたちは寿ぐが、 「これで真の民主主義が実現する!」という快哉は余りにもナイーヴで、政策への民意の反映や、投票率の改善に、即結びつく訳ではない。“そもそも正確な表現でさえない「ネット選挙」という言葉が、ただ政治家やマスメディアのあいだで独り歩きし続けた”だけとも言われる。
何故今「ネット解禁」なのか?裏返せば、何故これまで選挙活動におけるインターネット利用が禁止されていたのか?
選挙戦においてインターネットが利用できなかったのは、ホームページやフェイスブックの画面が、公職選挙法142条で制限された「文書図画」に当たるからだ。日本では、各候補者が極力同じ道具を同じように用いることで、均質で公平な政治環境を選挙運動期間中形成しようとする。候補者が選挙民に配るチラシの枚数の上限は明確に定められているし、テレビの余りに無味乾燥な「政見放送」も、その結果である。
一方、アメリカでは、言論の自由の観点から、自由な選挙運動が目指され、実際ありとあらゆる手段で競うアメリカ型の選挙が総力戦の様相を示しているのは、たとえば大統領選挙を見れば分かる。そして、インターネットの設計思想=漸進的改良主義は、アメリカの社会や文化を暗黙に踏まえたものになっている。
今、求められているのは、「日本の政治を改善するために、インターネットはどのように使えるか」を考えること、と著者は言う。金権政治へのある程度の歯止めにはなった公職選挙法の理念を尊重しながらもそれに縛られず、かと言って、インターネットの利用が即人々の政治行動を促し、投票率の向上につながるなどという幻想、またインターネットを使えばお金がかからないなどという幻想を持たないこと。
すなわち、あくまでメディアであるインターネットに過度の期待を寄せず、インターネットがときに格差拡大の装置となってしまう危険を十分に踏まえた上で、より活発な議論、建設的な議論の場を形成していくために活用し、国民一人一人の参加という民主主義の理念そのものの実現を目指すことが大事なのだと思う。