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書店員レビュー一覧

丸善・ジュンク堂・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。120件目をご紹介します。

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ジュンク堂 難波店店員

書店員:「ジュンク堂書店難波店」のレビュー

ジュンク堂
ジュンク堂|難波店

憲法第九条−大東亜戦争の遺産 元特攻隊員が託した戦後日本への願い 上山 春平 (著)

憲法第九条−大東亜戦争の遺産 元特攻隊員が託した戦後日本への願い

「過去の遺物」ではなく、未来に向けて発信すべき「遺産」

昨年12月に刊行された『憲法第九条‐大東亜戦争の遺産 元特攻隊員が託した戦後日本への願い』(上山春平著 たけもとのぶひろ編集 明月堂書店)は哲学者上山春平が一九六〇年代に思考した憲法論であるが、今ある凡百の無思想な暴論や弥縫策に比べ、未来を見据えて遥かに瑞々しい。
上山が、日本が1945年に敗れた戦争を「太平洋戦争」ではなく「大東亜戦争」と呼ぶのは、林房雄(『大東亜戦争肯定論』)のように、かの戦争を肯定するためではない。「太平洋戦争」はあくまで戦勝国アメリカの視点に立つ呼称であり、我々日本人がそのような視点に立つことによってアジア大陸への侵略的行為を含めた一連の出来事を自ら免責・忘却することなく、「あくまでもそれを戦ったこちら側の集団の一人として反省する立場を貫く」ためである。
一方、戦争当事者による東京裁判を、上山はそもそも認めない。東京裁判は、「連合国=正義/枢軸国=悪」という単純かつ誤った図式で、戦勝国が敗戦国を裁くものだったからだ。どちらかが一方的に良くて、どちらかが一方的に悪いような喧嘩や戦争は無い。東京裁判、そして戦後の世界秩序を決定したのは、実際には力の論理にしたがいながら倫理的な偽装をほどこそうとする「戦勝国」アメリカの欺瞞であり傲慢であり、それは数十年後に「テロとの戦い」と称した侵略行為で馬脚を現す。
だが同じ占領期に制定された日本国憲法については、「アメリカ政府の『俺たちは平和愛好国民だ』という独善的な前提に立脚」していると断じながらも、“押しつけられた憲法だといいきるほうがいいのではないか。なぜなら、その意思のなかには、日本だけの意思ではなくて、国際的な意思が入っている”とむしろ肯定的に評価し、“占領下につくられた私たちの新しい憲法は、その生い立ちの異常さに由来する外形の見にくさにもかかわらず、まともな生い立ちとまともな外形をもつ他の国々の憲法を画然としのぐ美点をもっている。それは第九条の不戦の規定である”と言い切る。第一次大戦後全世界的に感じられ始めていた「戦争放棄」の必要が、「第九条」に結晶した「国際契約」と捉えるのだ。“私は、あの憲法が、大西洋憲章→連合国宣言→国連憲章→ポツダム宣言→連合国対日管理政策という一連の国際的協定を前提とし、しかも、日本の議会の決議と連合国の日本管理機構の承認を経て作製された国際的文書である、という事実に着目したい。”
上山は、幣原喜重郎が要求する天皇制維持の代価として、マッカーサーが戦争放棄条項を憲法に挿入することを呑ませたのではないか、と想像する。“両者のふれあいには、やはり戦争という名の愚行を克服する道を最もまじめに考えつめた瞬間にふさわしい何ものかがみとめられるように思う。”と上山が語るとき、そこには、人間魚雷「回天」に乗り込み、決死の覚悟で戦争と対峙した哲学者の、紛うことなき平和への希求が強く感じられる。
朝日新聞の記者として上山の謦咳に接した柴山哲也は、実際に新憲法草案の作成にかかわった米国人には、戦争体験を共有した上山と同世代の人が多く、新憲法の中にはある種の人類的な理念と希望の共有があると思うようになった、と言う(『新京都学派の人々』平凡社新書 2014年)。
また、常に「九条」との齟齬が取りざたされる自衛隊について、上山は「天災や人災(戦争も最大の人災の一つである)にたいしてとりくみながら、自然と人間との共生体系を積極的に改善して行くことを根本の目標とする」公共奉仕隊への移行を提案する。“わたしのしろうと考えでは、たとえば、日本社会にとってとくに重要な気象観測と風水害対策業務を大幅に軍隊で担当し、さしあたっては現存の気象関係官庁との協力を密接にしながら、いつでも非軍事化への移行ができる態勢をととのえておくこと、公共土木建築事業をできればすべて軍隊が担当し、これも転換可能の態勢にしておくこと、その他、運輸・通信などの公共事業にかんして、それぞれ、非軍事的業務への移行の工夫をおこない、戦争にしか役だたないという隊員は一人もいない状態にしておくこと、等々の措置が考えられる。”阪神淡路大震災や東日本大震災を経験した我々には、十分リアリティのある提言である。
上山春平は2012年8月、91歳で鬼籍に入った。だが、今も我々は“「A級戦犯だけに戦争の罪を押しつけた、自分たちの歴史認識は間違っていました。私たち全員が当事者です。私たち全員が加害者です。日本はもう一度そこに立ち返って、そこからもう一回戦争について、平和について考えます」、そこまで言えば、変わりますよ。言うべきですよ。”(『クラウド』(dZERO)刊行記念トークイベント 2014.21.13.ジュンク堂書店難波店)と語る森達也や、“日本の非武装を要求しているのでなく、日本国が非武装を選択できる世界の創造を要求している”「憲法第九条」の「創造力」を受け継ぎ、育んでいかねばならないという木村草太(『憲法の創造力』NHK出版新書 2013年)を持つ。
「憲法第九条」は、敗戦国が押しつけられた「過去の遺物」では決してなく、日本が世界に向け、未来に向けて発信すべき「遺産」なのである。

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