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書店員レビュー一覧

丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。120件目をご紹介します。

検索結果 100 件中 1 件~ 20 件を表示

ジュンク堂書店 三宮駅前店店員

書店員:「ジュンク堂書店三宮駅前店」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|三宮駅前店

荒神 宮部 みゆき (著)

荒神

怪物よりも恐ろしいもの

宮部みゆき作品に多く登場する「悪」は仏教用語の「善悪不二」の「悪」のようだ。
「善」は善として「悪」は悪として二項対立的に描かれるのではなく、悪として描かれていても何らかの善の裏返しとして出てくる。

今作品に出てくる怪物。
蛇のような蝦蟇のような見たことのない姿で、巨大な体躯にもかかわらず動きは俊敏。
鱗で覆われていて、矢も刀も通じないし、口から出す粘液は人間の体をいとも簡単に溶かしてしまう。
一晩で村全体を壊滅させてしまうほど恐ろしい。

いかにも悪の化身だが、この怪物に関わる人々の思惑の方が、怪物自体よりも実は恐ろしいのではないか。

それは人の心が怪物よりも凶悪だということではなく、自分が正しいと思えればどんなに恐ろしいことでも実行できてしまうということ。
あるいは恨みを晴らすためならどんなに残虐なことでもできてしまう。
でも、実は、そこから少し立ち止まって、あるいは戻ってみて、振り返ることができたなら、「悪」は「善」に変わるかもしれない。

自分は正しいと思って行ったことが引き起こす悲劇。
自分が正しいと思って行ったことが、他者にとっては「悪」となりうると気づいたときの心の戸惑い。
そんな心の揺れや裏表が感じられるような描写の中では、一片の迷いもないような悪人も正義のヒーローも出てこない。
ただごく普通の人たち。自分もその立場に立ったなら同じことをしてしまうのではないかと思ってしまうような普通の人たちが出てくるだけだ。
その普通の人がこれほど恐ろしいことをやってのけてしまうということが、怪物そのものよりも恐ろしい。
でも、その普通の人がそんな悪を受け止めて、そして乗り越えようとしている。
「世界ははもっと豊かだし、人はもっと優しい。」という言葉が胸にしっとりと広がる。

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