書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「ジュンク堂書店池袋本店」のレビュー
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- ジュンク堂書店|池袋本店
教誨師 堀川 惠子 (著)
教誨について語り尽くした
教誨師とは、宗教者として死刑囚との面会が許された唯一の民間人である。拘置所内で死刑囚と対話を重ね、死刑執行の瞬間にも立ち会う。そんな過酷な職務を半世紀に渡って勤め上げるも、マスコミに対しては沈黙を貫いていた住職、渡邉普相が、自らの死後に公開という約束の下で、教誨について語り尽くした。
面接の内容を細かく記録し、密かに保存していた教誨日誌。そこに記された言葉によって、死刑囚ひとりひとりの物語が見えてくる。自分を捨てた母を怨んで殺した者、一合の酒を飲むため看守を殺して脱獄した者、加害者であるのにも関わらず、動機に固執するあまり、被害者意識を持っている彼らを、静かな心境に至らせ、ひいては心からの反省を生じさせるため、渡邉は根気強く説き続けた。
渡邉が老年になり、アルコール中毒という自らの疾病によって、心身が立ち行かなくなったとき、死刑囚とのくだけた会話によって救われる場面がある。死を突きつけられた人間に対して、悪人正機の教えを説いて「救い」を与えることは難しいが、このようにして心を通わせることはできる。それこそが教誨という仕事なのだ……と、もがき苦しんだ末の答えが語られるところが、本書の白眉のように思う。死刑存廃の議論の前にまず、こういった心の問題に目を向けるような、寛容な社会であってほしい。
(評者:ジュンク堂書店池袋本店 実用担当 土居)