書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「丸善 丸の内本店」のレビュー
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オオカミと森の教科書 朝倉 裕 (著)
オオカミの悪いイメージを払拭すべく、オオカミの生態に迫る
オオカミほど悪者扱いされている動物はいないかもしれない。子ぶたの家を吹き飛ばしたり、可愛い赤ずきんちゃんを食べたりと、邪悪、獰猛、残忍といったイメージがつきまとう。それゆえ世界各地で駆逐され、日本のように絶滅してしまった地域も多い。だが著者は声を大にして言う、「オオカミはとても賢く愛情深い、美しい生き物だ」と。本書ではこれまで根付いてしまったオオカミの悪いイメージを払拭すべく、オオカミの生態に迫る。
オオカミはシカを捕食するが、そうすることでシカが草や樹木を食い尽くさないように調節するという生態系の中で重要や役割を担っているのである。欧米では1970年代頃からオオカミの生態系の中での役割に気づき、駆除から保護へと方向転換した。生態系の中でのそうした存在を生態学用語で「キーストーン種」という。キーストーンとは石組みのアーチを頂点で支える石で、それがないとアーチが崩れてしまう重要な石のことである。アメリカのイエローストーン国立公園では、オオカミがいなくなったことで崩れた生態系のバランスが、オオカミを再導入することで見事に復活し、オオカミがキーストーン種であることが証明されたのだという。
モンスーン気候の日本では森が再生しやすいというが、やはり増えすぎたシカのせいで再生が遅いという。日本でも森からオオカミの遠吠えが聞こえる日が再びやってくるのだろうか。
(評者:丸善丸の内本店 理工書担当 工藤誠也)