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書店員レビュー一覧

丸善・ジュンク堂・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。120件目をご紹介します。

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ジュンク堂 三宮店店員

書店員:「ジュンク堂書店三宮店」のレビュー

ジュンク堂
ジュンク堂|三宮店

砂丘が動くように (講談社文芸文庫)日野 啓三 (著)

砂丘が動くように(講談社文芸文庫)

真夜中道路に和服で正座。

 細々としたルポや記事を書き、時には代作の仕事などで生計を立てているフリーの<ゴースト>ライターが、途中下車して日本海沿いの地方都市の駅前に降り立つ。 
 駅前は適度に開け、ビルや近代的建築が並んでいる割に人影が少ない。歩くうちに盆栽を作る少年に出会い、海岸にある砂丘に案内してもらう。
 砂丘では砂防林のせいで砂は動かない。少年は特殊な力で蟹の大群を呼びよせ、男は砂丘を写真に撮る。
 男は少年の家を訪ね、少年の姉と出会う。盲目の姉の作った粘土で出来た卵のような造形作品に強く惹かれる。
 男はビッキーと呼ばれる奇妙な映像作品を作る人物を訪れる。女装の美しい若者ビッキーは男を寺の山門に連れて行き、そこで再び盆栽を作る少年と出会う。
 ここまでが第一章。<ゴースト>と呼ばれるライター沢一郎が視点人物で、「私」という一人称で語る。第二章はビッキーの視点が三人称で、第三章では作者は少年たちを三人称で語り、「宇宙的意識」は少年に「きみ」と呼びかける。

 長々とあらすじを書いたが、視点や場所や人物の違いは物語が進むほどに重要でないように思えてくる。いや、区別がなくなってくる。コンクリートやアスファルトや空缶や自動車の錆びたボディや、あらゆる人工物(だと思われているもの)を含めたすべてを「自然」と呼び、自然と人間が関わりあう営みとして無数のサンプルが世界を埋めつくす。
 印象深いのは第二章、ビッキーが真夜中に運転中、道路の真ん中に和服で正座している老女に出会う場面。老女はビッキーにお茶をすすめ、四十年前の空襲の被害をきのうのことのように心配する。異様ではあるが、この物語にはとても「ふさわしい」気がして、少し笑った。

 エピローグは少年の姉の視点。この一年を過ごした、時の移ろい、四つの季節の循環を、ゴースト、少年、ビッキーを含めた四人の時間をふり返る。

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