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書店員レビュー一覧

丸善・ジュンク堂・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。120件目をご紹介します。

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ジュンク堂 三宮店店員

書店員:「ジュンク堂書店三宮店」のレビュー

ジュンク堂
ジュンク堂|三宮店

別荘 ホセ・ドノソ (著)

別荘

グラミネアのささめき

 グラミネアと呼ばれる、数世代前に外国人によってもたらされた植物は、その猛烈な繁殖性で領土のすべてを覆いつくし、夏の終わりには、その穂先から飛び立つ大量の綿毛が地面はおろか空気までも白く染め上げ、誰も近寄せない不毛の土地へと変えてしまう。
 原住民たちが特殊な方法で精製した金箔を安く買い取り、外国人に高値で売り捌いてベントゥーラ一族は財を成してきた。戦いに用いる槍で造った柵に囲まれた広大な「別荘」に、ベントゥーラ一族の子供たち三十三人は、大人たちが退屈を紛らすために召使たち全員を引き連れて出かけた後に取り残される。
  
 子供たちの中から何人かのリーダーが生まれる。九歳にして機知と勇気と政治的指導力で子供たちの王国に革命をたくらむ美少年ウェンセスラオとその父アドリアノを襲う陰惨な悲劇、類い希なる美貌で男たちを掌握し、「公爵夫人は五時に出発した」と呼ばれる茶番劇を演じつづけるメラニア、彼女に焦がれ、柵から引き抜いた槍にメラニアと名付け、槍を抱いて眠るマウロ、自ら「おかま」と名乗り、子供たち全体のお目付け役を任されているフベナル。カシルダとファビオは大人たちの秘密の倉庫から大量の金箔を盗んで逃亡しようと計画し、挙げ句こぼれた金粉を全身に塗りたくって「真実の姿」を発見し、恍惚となる。

 「別荘」という名の王国、そこには、時間が無い。いや、その流れが一つではない、というべきか。
大人たちのいない間、子供たちは急激に成長する。大人たちが築き上げた富を、子供たちはまたたく間に吸収し、槍で出来た柵を抜き放ち、領土を広げ、奴隷を獲得しようと人間狩りに赴く。柵の外ではグラミネアの穂が実り、拡散の日に備えて綿毛を備蓄する。
 そして、異様に成熟し、大人たちの持つ悪徳を一身に体現した彼らのもとへ、大人たちは帰ってくる・・・・・・

 「公爵夫人は五時に出発した」という、ポール・ヴァレリーが用いたとされる十九世紀的ブルジョア小説を揶揄した言葉は、物語の枠組みの外へ外へと殻を突き破るように拡がっていくように思われる。子供たちの演ずる茶番劇は子供たちの住む異常な世界へ、さらに彼らを抑えつけようとする大人たちの世界、そしてこの物語の枠組み、途中で介入してくる語り手のおせっかいとも取れるくどい説明を含んだすべてへと。
 物語内に物語を生みだす「入れ子構造」と反対、まるで「逆入れ子構造」だ。
 
 そして最後にこの壮大な茶番劇に侵犯されない唯一のものが残る。常に物語の外にあり続け、黙して語らず、その銀白の穂先を実らせ続ける、「グラミネアのささめき」がすべてを死の灰で満たす。

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