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書店員レビュー一覧

丸善・ジュンク堂・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。120件目をご紹介します。

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ジュンク堂 三宮店店員

書店員:「ジュンク堂書店三宮店」のレビュー

ジュンク堂
ジュンク堂|三宮店

一休 改版 (中公文庫)水上 勉 (著)

一休 改版(中公文庫)

一休さんのクレイジー・クラウド・アンソロジー!

   すきすきすきすき、すきっすき/あ・い・し・てーる
   すきすきすきすき、すきっすき/いっ・きゅうー・さん

 子供の頃見たアニメのテーマソングだ。頭脳明晰で元気でちょっぴりいたずら好きな「一休さん」、「将軍さま」こと足利義満や「しんえもんさん」蜷川新右衛門を得意の「とんち」で手玉にとる、あのかわいらしい一休さんが、本当はこんな人だったなんて・・・・・・
 
 地震・大火・飢饉・強盗・姦淫・殺人・・・・・・室町から応仁の乱へと続く地獄図にも似た世界を生き、腐敗・堕落した寺院制度に背を向け、市井の中に入り込んで、禅の道を模索し続けた破戒僧にして詩人。きれいごとでは済まない。自らも淫坊に出入りし、男色にふけり、痛飲し、髑髏の柄のついた杖を振り回し、破れ衣で市中を彷徨い、奇矯な言動をくりかえす。そこから生まれた詩集が「狂雲集」。奇想と戦慄に満ちた雰囲気は、フランソワ・ヴィヨンやジョン・ダンみたいだ。

 そんな一休に肉迫するのだ。ただごとでは済まされない。著者自身仏門に在った時の青春の恥部をさらす。また多くの評伝を引用・参照するのはもちろん、自ら創作した「一休和尚行実譜」という江戸期の戯作者の作とする物語を並べ、時には疑いをはさみ、時には真っ向から否定してその真実の姿いと近付こうというのだ。
 なんと手の込んだことをするのだろう。あるいはこれくらいしないと「あの」一休の足元にも近寄れない、ということか。水上は、霊媒のように、自分の身体に乗り移れ、とでも言わんばかりに、一休の魂を召喚する。

 つまりこれは、一休という、肉体を持って実在する一人の人間との、愛憎の果ての、記録だ。実質著者が信用しているのは一休本人の著作である「狂雲集」のみ。その唯一無二の書から聞こえてくる声を、一休の肉声だけを頼りに手探りで進む。一休が生涯の最後に盲目の女性に出会うように、著者もまた、うつつの眼を捨て、暗闇の中で見ひらいた心の瞳で一休にめぐりあう。
 するとまたあの歌が聞こえてくる。今度はつぶやくような、少し野太い男性の声で。

   すきすきすきすき・・・・・・

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