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書店員レビュー一覧

丸善・ジュンク堂・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。120件目をご紹介します。

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ジュンク堂 難波店店員

書店員:「ジュンク堂書店難波店」のレビュー

ジュンク堂
ジュンク堂|難波店

紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場 佐々 涼子 (著)

紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場

紙とともにつなげられる出版人の矜持

011年3月11日、東北地方に未曾有の被害を与えた東日本大震災は、世界屈指の規模を誇る日本製紙石巻工場にも壊滅的な状況をもたらした。
日本製紙がこの国の出版用紙の約4割を担っていること、その主力工場が石巻にあることをその時初めて知ったノンフィクションライター佐々涼子は、「自分たちの迂闊さにあきれた」と言う。不明を愧じるその思いを、ぼくも共有する。『紙の本は、滅びない』などと叫びながら、その紙がどこから来ているかも知らず、そのことを問おうともしなかったのだから。
震災から二年後、彼女は石巻に入り、日本の出版を支える製紙工場が辿った運命を取材、『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(早川書房)を書き上げる。
災害からの復興は、時が経てば自然になされるものでは無い。復興に携わる人たちの強い意志と不屈の闘志が不可欠だ。
「これから日本製紙が全力をあげて石巻工場を立て直す!」被災地に入った日本製紙社長の芳賀義雄は、早々と英断した。芳賀は、トップがどれだけ勝利を強く信じることができるかで勝負は決まる、ということを知っていた。工場長の倉田博美は、「期限は半年」と宣言する。倉田は、早期の目標を立てなければ再生は進まない、と直感していた。振り返れば、震災のとき、津波に飲み込まれた石巻工場にいた全員が奇跡的に生き延びたのも、総務課長村上義勝の冷静かつ決然としたリーダーシップによるものであった。
芳賀と倉田の判断は、正しかった。
7月12日、塩水と汚泥に埋もれていた電気設備に、電気が通る。
8月10日、濃黒液と呼ばれるドロドロの燃料を作業員が懸命に掻き出したボイラーに、火が入る。
併行して、大量の瓦礫の処理、敷地外にも流出した巻取りの回収作業が、連日連夜続けられた。
社長と工場長の英断と号令は、復興の可能性と共に、社員全員に生きる活力の源を与えたのだ。「半年復興」という目標は、明るい話題のない被災地で、彼らがすがることのできる唯一具体的な希望だったのである。
そして、ついに、半年後の9月14日。石巻工場が誇る8号マシンの再稼働の日がやってきた。およそ100人が見守る中、倉田工場長がスイッチを押す。8号マシンは、記録的なスピードで「一発通紙」を果たした。大きな歓声と拍手が起きた。作業員たちはみな、目を赤くしていた。
「通紙」とは、パルプがメッシュのワイヤーの上に勢いよく吹き付けられてから、最後のリールに巻きつくまでの一連の作業である。同じことを、「紙をつなぐ」ともいう。震災から半年間、石巻工場の作業員たちは、あたかも「紙つなげ!」と叫びながら、復興の作業をつないでいった。それは、その作業に携わったすべての人たちを、つないだ。
ここがゴールではない。8号マシンがつないだ紙は、待ち望んでいた出版社に運ばれ、書籍へと形を変える。そして、全国の読者に届けられる。出版社が、取次が、書店がつないでいくのだ。ぼくたち書店人は、石巻工場の人々の血と汗と涙の結晶を、一冊たりとも疎かにはできない、と思った。
著者の佐々涼子は、問いかける。「もし石巻工場が閉鎖となったら、出版業界はどうなっていただろう。電子書籍化に拍車がかかり、出版は電子化へとなだれ込み、新しいメディアの時代がやって来ただろうか。それともほかの工場にシェアが移っていただろうか。」
ぼくたちが「紙か、電子か?」と机上論争に明け暮れていたまさにその時に、ぼくらが想像もしなかった具体的な形で、紙の本は大きな危機を迎えていたのだ。
8号マシンの責任者佐藤憲昭は、誇らしげに言う。「8号が止まるときは、この国の出版が倒れる時です」。恐らく、石巻工場の奇蹟的な復興を完遂させたのは、そこに働く人びとの矜持だったに違いない。
書物における紙は、そこに載せられたコンテンツの乗り物である。読書行為における背景であり、文字通り物質的な媒体(メディア)である。本の内容にのめり込んでいるとき、読者は紙の存在すら忘れているだろう。
しかし、電子書籍端末と違って、出版用紙はその書物の正確に応じて極めて多様である。そこに「本をつくる」人びとの工夫とこだわりがある。たとえば辞書に使われる紙は、極限まで薄く、いくら使っても破けないという耐久性を持つ、しかも静電気を帯びないように、特殊加工が施されている。雑誌に使われている用紙は、読んでいて楽しさや、面白さを体験できるもの、しかも1冊の中に、たいてい異なる手触りのページが何種類か含まれている。めくる時に、新たな興味を抱いてもらうための演出である、という。コロコロコミックの紙は、小さくて柔らかい手でページをめくっても、決して手が切れたりしないように工夫されている。
オーストラリアや南米、東北の森林から始まる長いリレーによって運ばれた木材を使って製紙会社の職人が丹精をこめて紙を抄き、編集者が磨いた作品は、紙を知り尽くした印刷会社によって印刷される。そして、装幀家が意匠をほどこし、書店に並ぶ。多くの人々のこだわりと思い入れの籠った書物は、単一の画面にコンテンツが入れ替わり立ち代わり仮住まいする電子書籍とは、やはり別物であると思う。

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