書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「ジュンク堂書店松山店」のレビュー
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- ジュンク堂書店|松山店
傷を愛せるか 宮地 尚子 (著)
救護者、立会人、予言者
旅先、臨床現場での出来事、感じ入った映画や情景をつづった、精神科医のエッセイ集だ。
タイトルに疑問を感じ手に取る。
傷は愛するものか。
治癒する側にとって、患者の傷を愛することは必要か。
なぜ問うのか。
問うて誰に何を確かめたいのか。
いざ読んでみると語り口は軽快で、視覚的で美しく、すいすい読める。決して「症例集」ではないことがそれを手伝い、読み手の層を拡げ、私のようなただの書店員も購読者になる。
映画「海を飛ぶ夢」、「春夏秋冬、そして春」など、目や心に静かに訴える作品が紹介されている。
味わい深いと思った装丁が何を模しているのか、読み進めるうちに知ることになった。
結局のところ、著者は永遠に自己に問い続けるだろう。その行為自体がアイデンティティーなのかもしれない。
問い、自分の座標を確認し、「傷を愛せないわたしを、あなたを、愛してみたい」と言う。
人間は人間であることから逃れられないがために苦しむ。
凄惨な爆心から目を背けず、痛みに寄り添い、和らげ、あなたは幸せになれるよと予言し、祈る、そんな著者の真摯な横顔は美しい。