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書店員レビュー一覧

丸善・ジュンク堂・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。120件目をご紹介します。

検索結果 100 件中 1 件~ 20 件を表示

ジュンク堂 三宮駅前店店員

書店員:「ジュンク堂書店三宮駅前店」のレビュー

ジュンク堂
ジュンク堂|三宮駅前店

魔法書の姫は恋をする はじまりのキス (角川ビーンズ文庫)薙野 ゆいら (著)

魔法書の姫は恋をする はじまりのキス(角川ビーンズ文庫)

魔法書の姫は恋をする

この物語を読み終えたとき、きっと今より「本」がもっと好きになっている。

この物語の舞台は、中世ヨーロッパを思わせるアングリア王国。
主人公は、ソフィア・エイヴァリー。魔法が生きていた時代から続く、古き民の末裔である。
このソフィア、エイヴァリー家の伯爵令嬢であり、兄のフィンレイが大好きないわゆる「ブラコン」の、深窓のお嬢様である。まともに領地の外へ出たこともほとんどない。
しかし、そんな彼女が兄の失踪の手がかりを求め、大学都市ランダルベリーに向かうところから物語は動き出す。
伯爵令嬢が領地を長期間空ける理由として、「大学に入学する」という表向きの立派な理由を用意した上で、ソフィアは兄捜索のために<闇の書庫>と呼ばれる大学図書館と通じる地下組織に潜入し、そこで<鍵の騎士>アレクシスとの出会いを果たす。

この物語の魅力は、何と言ってもソフィアのこの行動力にある。
元々好奇心は旺盛だが、引っ込み思案な彼女は、世界に触れ、人と出会い、友を得て、恋を知り、みるみる人としての輝きを増していく。

こう書いていると、まだよくある少女向けレーベルのお姫様冒険譚に聞こえるが、この物語の――そしてこの物語に限らず、この作者・薙野ゆいらの作品は、いずれも主人公が何か熱狂的なものを持っている。
デビュー作「神語りの玉座」シリーズでは、紅茶を思わせる「紅灑茶(カーテ)」。
二作目「金蘭の王国」シリーズでは「毒」(!)
そしてこの「魔法書の姫は恋をする」シリーズでは「書籍・本」――ありとあらゆる本である。
このフェティシズムに溢れた、丹念な、しかし物語の進行を妨げず、むしろよりいっそう盛り上げる描写が、薙野ゆいらの作品の全編にうかがえる。
その確かな描写力は、もちろん、主人公たちの興味の対象物を描くに留まらない。
街角の石畳のひんやりとした硬さ。
瞳が痛くなるほどの夕陽の赤さ。
書物に囲まれた空間特有の紙の匂い。
そして凝る闇の重さや密度までもが、その文章の端々から立ち昇る。
ページを一枚めくるごとに、目の前に見たことのない世界が、鮮やかに織り上げられていく。
この快感は、ハイ・ファンタジーならでは、そして薙野ゆいらの彩り豊かな感性と筆力あってこそだろう。
世界がきらめいて華やかで、しかししっかり、土の香りもしてくるのだ。

さて、このシリーズ「魔法書の姫は恋をする」は、<真書>という強大な魔法の力を秘めた魔法書をめぐっての物語である。
<真書>に限らず、本を愛し、守りたいと願い人々の戦いであり、兄様大好きで狭い世界しか知らないソフィアが世界を知り、自分を知り、恋を知っていく成長の物語だ。

張り巡らされた何気ない伏線が、一本の縄のようにあざなわれ、散らばったピースがぴたっとあるべき場所に収まっていく物語の構成は、痛快だ。
そしてそこにひとしずく垂らされた、胸をときめかせるようなソフィアの甘い初恋。

話の詳しい筋は、ぜひ読みながら確かめてほしい。
登場人物はいずれも魅力的である。
ソフィアの兄で、騎士物語の騎士はかくやという完全無欠の(しかし重度のシスコンな)フィンレイ。
やたらワケありなスキルの高い、ソフィアの忠実な侍女・ネリー。
ひとくせもふたくせもありそうな、謎の司書・シリル。
本作のマスコットキャラクター的存在である、黒い子狼のリコス(これが本当にかわいい)。
そして<鍵の騎士>としてソフィアと共に護書官の任に当たり、ソフィアの世界を拓いていく青年・アレクシス。
必ず好きなキャラクターが見つかるだろう。
そして、頑張り屋で、ひたむきで、才気溢れる勇敢さを秘めたソフィアを、きっと応援したくなる。

読み終えたとき読者もきっと、本をこよなく愛し、本を護るために戦うソフィアのように、「本」がかけがえのない愛しい存在になっているはずだ。

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