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書店員レビュー一覧

丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。120件目をご紹介します。

検索結果 100 件中 1 件~ 20 件を表示

ジュンク堂書店 三宮店店員

書店員:「ジュンク堂書店三宮店」のレビュー

ジュンク堂書店
ジュンク堂書店|三宮店

服従 ミシェル・ウエルベック (著)

服従

ああ、あわれ、ウエルベック!

 一級の寿司職人ウエルベックが我々に差し出すのは一貫(巻)の握り寿司だ。シャリはもちろんブランド米を使用、熟練の技術で握ってある。特筆すべきはワサビで、この香辛料の効かせ方には並ぶ者がない。合わない者には名前を聞いただけで吐き気を催させるが、激辛のスパイスにハマった人びとは連日連夜、店に通いつめることになる。そしてネタは・・・
 ネタはのっていない。想像力で味わうしかないのだ。
 
 研究対象としての枠を超え、世紀の隔たりを越えてフランソワは作家ユイスマンスに心酔し、まるで本当の親友であるかのように文学的な対話をくり返す。論文が認められ、大学教授になってもそれは変わらない。やがて両親と死別し、恋人に去られたフランソワは孤独を深め、ユイスマンスの小説の主人公に倣うように宗教への帰依に傾く。
 背景にあるのは「イスラーム政権の誕生」。イスラーム過激派テロ組織によるクーデターが起きたわけではない。国政選挙の投票の結果、「穏健派」イスラーム政党が与党(正確には連立政権の最大党派)になった、ということだ。(この本の発売当日、実際にシャルリ―・エブド事件が起こってしまったため混同されやすいが、そうではない)。

 はじめて読んで思ったのは、物語の前景と背景がひっくり返っていること。光が(焦点が)当たっているのは背景のほうで、前景にいる人物たちは薄暗く、ぼんやりとしか見えてこない。いくらでも派手に、露悪的なくらいセンセーショナルに描くことはこの作家にとって朝メシ前であるはずなのに、わざと「地味に」、「スカスカに」書いてあるようにも思える。
 さらに皮肉なことに、スポットの中心にいるはずの、イスラーム政権成立前後の当事者たちの言動もまた描かれていない。噂や伝え聞きとして影響を与えるのみで、直接対話をすることもない。まるっきり中心が空白になっている。
 もしかしたらウエルベックほこの部分を別に書いていて、途中で削除したか、次作以降のためにとってあるのかも知れない。勝手な想像だが。作品自体の長さもこれまでの長編に比べると短めで、前者が約400~500Pであるのに対し、本作は290Pである。じゃあなぜ、ウエルベックはこんなことをしたんだろう。

 第二章の初めの部分、44Pにこんな記述がある。
 「『さかしま』に続く『仮泊』は期待はずれの作品で、それは避けがたい結果であり、(中略)にもかかわらず読書の快楽が完全には奪われないのは、この作家が、巧妙な仕掛けを思いついたからだった。それは、読者を失望させるしかない本の中で失望についての物語を書くことだった。」
 ゴンクール賞の栄誉に輝き、「アンチ・ウエルベック」な人びとからも絶賛された『地図と領土』の後で、フランソワがユイスマンスの主人公に倣ったようにウエルベック自身もまた作家ユイスマンスに倣う、という形でこの小説を構成したかったのではないだろうか。わざと「しょぼい」、「地味な」物語を前景に置くことで、政治、宗教のもとでは作品自体が「文学」のメタファーとなるような、オフビートな風味を持つ小説を考えたのではないだろうか。
 さらにもっと言えば、ウエルベックは「シャルリ―・エブド」のような事件が起こるのを予想していて、その事件と同時期に発表した『服従』という小説が後世に残り、「『しかしその内容は物語としては地味で精彩を欠く』、ウエルベック唯一の代表作」として文学史に刻まれることを狙っていたのでは?それにより自らの「文学的名誉」を「抹殺」しようと願ったのではないか?『トリストラム・シャンディ』の、かわいそうなヨリックのように?
 何を馬鹿な、と思われるだろうが、おっとどっこいウエルベックならやりかねない。
 
 ウエルベックは必ず小説の最後に「未来」を描く。または未来形の記述で終わる。たとえ主人公が死んでも、人類が滅亡してしまっても、必ず「それ」には続きがある。どんな空虚や絶望の果てにも「続き」はあって、ウエルベックはそれに「抗議」し、「復讐」する。

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