書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「丸善天文館店」のレビュー
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航路 上 (ハヤカワ文庫 SF)コニー・ウィリス (著)
今夜はこれで泣く
2015年最大の収穫は、コニーウィリスに出会えたことだ。オックスフォード大学史学部シリーズを経て、本作にたどり着いたわけだが、読書の喜びを味わえる、幸せな日々を過ごすことができた。
主人公のジョアンナは、臨死体験を研究し、科学的に解明しようとしている心理学者。医者のリ チャードと協力し、擬似的に臨死体験を作り出し、聞き取り調査をするが上手くいかず、ついには自ら被験者になる。仮死状態のなかで見た世界は、見覚えのある光景だった…。
一度読み始めたら止めることは難しい。ある謎を中心に、同じシチュエーションを何回も繰り返し、伏線を張り、驚きの展開で読者を困惑させ、感動のクライマックスへの準備を着々と積み上げていく。
ウィリスの魅力はたくさんあるが、最大の特徴は、この圧倒的なリーダビリティの高さにあるといえる。 もう一点、見逃せないのが子供のキャラクター造形の上手さだ。本作に登場するメイジーは、心臓病患者ながら災害おたくでおませな女の子。また他作品ながら「ドゥームズデイ・ブック」に出てくるコリンも元気で生意気な少年だ。二人ともストーリーを引っ掻き回す貴重な存在であり、読者を感動へと導くキーパーソンとなっている。まさかこの二人にあそこまで泣かされるとは思ってもみなかった。
熱心なSF読みではないとはいえ、ウィリスを読み逃していたことはとても恥ずかしい。だが未読の作品が残っていることが、こんなにも嬉しくなる作家もまた珍しい。至福の時間はまだまだ続きそうである。