書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「MARUZEN&ジュンク堂書店札幌店」のレビュー
- ジュンク堂書店
- MARUZEN&ジュンク堂書店|札幌店
坂の途中の家 角田 光代 (著)
家族の光と闇
「最愛の娘を殺した母親は、私かもしれない。」
主人公の里沙子は、2歳の娘、文香を育てている時、乳幼児虐待事件の補助裁判員になる。子どもを殺した母親、水穂の証言にふれていくうちに里沙子は、幸せだと思っていた自分の家族が、実は偽りの幸せだったのだという事に気づき愕然とする。
「幸せだと思っていたものは偽者だった。」主人公が心の中で呟く言葉は重く読者にのしかかる。義祖母の優しい言葉には悪意があり、最愛の夫の言葉も裏返せば里沙子に劣等感を植え付けてくるものだった。
家族の光と闇をテーマにしたこの小説は、読んでいると息苦しくなる。他人事と割り切って読み終わりたかったのに、それが自分の身近にもごく普通に潜んでいる心の闇なのだと気づいた時、心が凍りつく思いがした。
文芸書担当:島守