書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「書標(ほんのしるべ)」のレビュー
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- ジュンク堂書店|丸善ジュンク堂書店 書標編集室
死してなお踊れ 一遍上人伝 栗原康 (著)
丸善ジュンク堂書店のPR誌「書標」2017年3月号より
扉を開くと、目次から文字が躍っている。頁をめくると、栗原の紡ぎ出す文章が跳ねている。
衆生が成仏しない限り自らも仏にならないと願を立てた阿弥陀仏の「侠気」に惚れ、ひたすらその名を唱え続けるのが、一遍の念仏である。修行も損得打算もない。何もかも捨てて、念仏に徹する時、人はそれまで積み重ねてきたものが崩れ去る音を聞き、自分を縛りつけていた一切合財から自由になる。いまある自分を殺し、からっぽになって、ゼロから人生をやり直すのだ。
その時、からだはピョンピョン踊り出す。身体にしみついている現世を、おどってはねてふりおとす。一晩中、時には何十日も。おどりは周囲の人々に伝わり、その輪がどんどん大きくなっていく、念仏の声が轟きわたる。
女性も非人も病者も分け隔てはない。もらった食べ物で炊き出し、「おなじ釜の飯を食う」。ふくれあがる時衆集団を引き連れて、一遍は全国を巡る。
「仏の声を鳴りひびかせろ。この世の地獄を浄土にかえて、あらゆる富を燃やして捨てろ!」
時あたかも、元寇の頃。「国土防衛」を振りかざして、悪党、海賊、流浪民という「ゴロツキども」を鎌倉幕府がぶっつぶそうとしていた時代。一遍教団の行脚は、権力が最も恐れる民衆のエネルギーの爆発だったかもしれない。
同じく外国の脅威が言挙げされ、「国土防衛」のために人びとの自由がどんどん締め付けられている今の世に、一遍の高らかな念仏が届く。