書店員レビュー一覧
丸善・ジュンク堂書店・文教堂書店の書店員レビューを100件掲載しています。1~20件目をご紹介します。
書店員:「ジュンク堂書店福岡店スタッフ」のレビュー
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- ジュンク堂書店|福岡店/MARUZEN 福岡店(文具)
白昼夢の森の少女 恒川光太郎 (著)
開けても、閉じても怖い
10の短篇が収められた作品集です。はじめに出てくる短篇、「古入道きたりて」は、むしろホラーとは思えないほど、これはもしかしたら単なるいい話なのではないか?と思わせるほどほのぼのとした老婆の語り口が印象的ですが、その中にあっても生と死が当たり前のように入り乱れるさまを読んで、背筋が冷たくなります。化け物や妖怪がいたのだとしても、この話ではむしろ化け物は心のよりどころとして描かれているようにも思います。戦争を生きるということ。「死体を見たわけではないが、彼は死んだのだと思う」という一文があらわしているように、生と死が表裏一体であることを何回も何回も、巧妙になぞっているから私たちは夜眠る前に恒川さんの作品を読もうと思うのかもしれません。目を開けずとも、開けてみても怖い。そういう瞬間が、たくさん詰まった本だと思います。