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この世界の片隅に、確かに彼女は生きていた。
(映画『この世界の片隅に』片渕監督インタビュー 前編)

クラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」で、3,374名ものサポーターから当初の目標金額である2160万円を大きく超える、39,121,920円もの出資金を集めた、劇場用長編アニメ作成プロジェクト発の長編アニメ映画。『夕凪の国 桜の街』で数々の賞を受賞し、児童書から青年誌まで幅広く執筆活動を行う漫画家・こうの史代が、戦中の広島を舞台に描いたマンガが原作。原作者のこうの史代と片渕監督は、NHK「花は咲くスペシャル〜復興を願う心のうた〜」で、「花は咲く」のアニメーション版キャラクターデザインと、その監督としてタッグを組んで以来の再集結。主人公のすずを演じるのは、劇場アニメ初主演の女優・のん。

劇場公開される前からあらゆる方面で話題を集めていた、劇場版長編アニメ映画『この世界の片隅に』が、いよいよ来る11月12日(土)に全国公開されます。

こちらの作品の公開に先駆けて、「この作品を映画化するにあたり、沢山の資料を自費で買い込み、読み込んだ」という片渕監督が抱く『この世界の片隅に』という作品、さらにはこうの史代作品への想い。どんな資料をめくりこの作品が出来たのか、そしていよいよ公開を迎える『この世界の片隅に』というアニメ映画作品への想いを、メールインタビューにて語っていただきました。

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(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

『この世界の片隅に』のすずさんの姿を通して、『マイマイ新子』の母親の姿が見えてきた

―― まずは、こうの史代さんの原作である『この世界の片隅に』というコミックと出会ったきっかけ、そしてそれをアニメ映画化しようと思ったきっかけについて、教えていただけますか。

片渕須直監督(以下、片渕) このひとつ前に作った、髙樹のぶ子さんの作品『マイマイ新子』を原作とした映画『マイマイ新子と千年の魔法』は昭和30年の山口県防府市を舞台としていたのですが、昭和35年生まれである僕にとっては、昭和30年くらいまでの世界は子ども時代の記憶と照らし合わせて十分イメージ可能なものでした。また、この作品の細部を求めて一部昭和10年頃のイメージを取り入れてみたのですが、少なくとも人々の風俗に限れば昭和10年と30年はそのまま直結させても構わないほどの一続きな感じがしました。けれど、そのことからかえって、間に挟まる昭和20年を中心とする前後10年が不可思議で断絶した時代であるように思われてしまいました。自分の体験と照らしあわすこともできず、人々の着ている衣服ですら違う得体の知れない時期として意識されるようになりました。

マイマイ新子と千年の魔法』の主人公新子の母・長子という登場人物は、作中年齢29歳という若い母親だったのですが、女学生の雰囲気の抜けない、どこか子どもっぽく、それでいておっとりとやわらかな人物として造形していましたのですが、ふと気がついたんです。この長子さんは10年前にはモンペに防空頭巾という格好で空襲警報の下にいたはずだったことに。長子さんの人となりを考えると、そんな姿がどうも思い浮かびません。その時ふと思ったのは、この長子さんという人物を延長してみることで、自分にとっては断絶の時代である昭和20年頃のことが、もうちょっと等身大に捉え直せないかということでした。髙樹のぶ子さんのほかの著作の自伝的なところからこの家族の前史を読み取ろうとしてみたり、主人公・新子のモデルはご自分であるとおっしゃる髙樹さんご自身にお母さんのことをうかがってみたりもしました。

そんなことを思い浮かべていた折に、知人からこうの史代さんの作品を紹介されました。その一冊『この世界の片隅に』を手にとって読み始めてみたところ、主人公のすずさんが長子さんと1歳違いであり、同じように戦時中に二十歳前の10代でお嫁に行った人であること、そして、どこか子どもっぽく、それでいておっとりとやわらかな人柄であることが目に入ってきました。このすずさんを通じて、自分にとって得体の知れない時代に分け入っていけたら、と思うようになりました。

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この世界の片隅に1

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常に新しく、新鮮。片っ端から読み漁ったこうの史代作品から見えてきたもの

―― こうの史代さんのコミックは、『この世界の片隅に』以外には何かお読みになられていましたか?

片渕 『この世界の片隅に』をアニメーションで映画にしたい、とプロデューサーに進言したのは2010年8月のことでした。原作の出版社に問い合わせてみるから、といわれてからこうの史代さんの著作は手に入る限り手に入れて、片端から読んでみることにしました。ずっと以前に『名探偵ホームズ』に携わっていたころ、コナン・ドイルの原作は全部読んでみて、さらには同じ著者の『失われた世界』までも読み直して脚本のヒントにしたことがありました。そういうふうに始めたことではありましたが、原作がある場合、原作者の本は出来るだけ読むようにしています。同じ人が書いたものを通して、作品への理解が深まることが多いのです。

―― 作品研究が徹底されてますね! それでは、『この世界の片隅に』以外で読んだ作品を教えていただけますか。また、片渕監督が感じるこうの史代作品の魅力というものがありましたら、そちらも教えてください。

片渕 こうのさんの場合は『ぴっぴら帳』『夕凪の街 桜の国』『さんさん録』『街角花だより』『こっこさん』……と読み進め、同人誌を持っている友人からそれらも借り、挿絵だけ描かれたものや絵本も見ています。最近になって発表されたものもほぼ目を通しています。 こうのさんにキャラクターデザインをお願いしたNHK復興支援ソング『花は咲く』アニメ版では、数が多すぎてデザインをお願いできない町の人たち大勢は、こうのさんの漫画全体を見渡して、こうのさんらしい人物デザインをこちらで作りだすことにもなりました。

こうのさんが描かれるものは、それぞれが個性的で、同じことを繰り返しません。常に新しいフィールドと表現に挑んでいく作家であると見えました。新作ごとに常に新しい息吹きが訪れる新鮮さが大好きです。

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すずさんの物語は、実は僕たちと同じ時代を生きている人の物語かもしれない

―― 『この世界の片隅に』を読んで感じた感想など、教えていただけますか。

片渕 実は、『この世界の片隅に』はこうのさんとしては珍しいことに、『夕凪の街 桜の国』からの繰り返しがあるように読んでしまいました。ひょっとしたら、こうのさんの意図とは違った読み方になってしまっているのかもしれないと思います。

具体的にどこが繰り返しかというと、それは、『夕凪の街 桜の国』に登場する京花さんに『この世界の片隅に』のすずさんと通じるものを感じてしまったのです。働き者でお裁縫が得意、ちょっととろいといわれるくらいの素直さ。この京花さんは戦後期の時代のエピソードに登場するのですが、1980年代の場面にも突然登場したりもします。

ひとりの人間はある時代だけに縛られた存在ではない。京花さんを眺めて抱いたこうした思いを、すずさんの上にも重ねてみると、映画作りを志した2010年の時点で、すずさんは85歳でまだ健在かも知れないということになるのです。戦時中という断絶された遠い時代を描いたはずの『この世界の片隅に』は実は、僕たちと同じ時代を生きている人の物語でもあるということだったのでした。

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さんさん録1

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街角花だより

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(インタビュー後編に続く)

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(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

プロフィール

 

片渕 須直

アニメーション映画監督

アニメーション映画監督。1960年生まれ。日大芸術学部映画学科在学中から宮崎駿監督作品『名探偵ホームズ』に脚本家として参加。『魔女の宅急便』(89/宮崎駿監督)では演出補を務めた。T Vシリーズ『名犬ラッシー』(96)で監督デビュー。その後、長編『アリーテ姫』(01)を監督。TVシリーズ『BLACK LAGOON』(06)の監督・シリーズ構成・脚本。2009年には昭和30年代の山口県防府市に暮らす少女・新子の物語を描いた『マイマイ新子と千年の魔法』を監督。口コミで評判が広がり、異例のロングラン上映とアンコール上映を達成した。またNHKの復興支援ソング『花は咲く』のアニメ版(13/キャラクターデザイン:こうの史代)の監督も務めている。
最新作となるアニメーション映画『この世界の片隅に』が11/12(土)よりテアトル新宿、ユーロスペース他全国公開。
『この世界の片隅に』公式:http://konosekai.jp/

ライターについて

 

kujira

フリーライター。書籍・マンガといったサブカル系カルチャーにまつわる職を転々としながら、細々とフリーで仕事を請ける副業ライター。副業を本業にすべきかどうかで人生の迷子真っ最中

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