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日本人はなぜ、戦争という「選択」をしていったのか

丸善とジュンク堂は、ビジネスパーソンや各界の専門家を主な利用者とする大手書店グループです。その購買データを分析すれば、ビジネスパーソンにとって「いま注目の本」が見つかるのではないか、というこの連載。今回は 8月の「ビジネスパーソン向け全書籍*」において、売れ筋のランキングを読み解いてみました。

8月のビジネスパーソン向けベストセラー。日本人はなぜ、戦争という「選択」をしていったのか

注目したのは、ランキング1位の『戦争まで歴史を決めた交渉と日本の失敗』です。8月初旬に出版された後、発売1ヶ月ほどで圧倒的なセールスを記録しています。ではなぜこの本がこれほど売れているのか。その理由と本の魅力を紐解きたいと思います。

丸善・ジュンク堂「ビジネスパーソン向け全書籍」2016年8月ランキング

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(2016年7月26日~2016年8月25日までのデータ、
*文芸書、マンガ、写真集、自己啓発書などは除く)

歴史は、平面的な記録ではない。

本書の著者は、東京大学大学院の教授で日本近現代史を専攻する加藤陽子氏です。加藤氏は歴史学者であり、歴史研究家。“常にいろいろなものの見方がある”という考え方が氏の特徴であり、それは、歴史学者としての活動スタンスにも結びついています。

加藤氏の名前は知らなくとも、2009年に出版された『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』を知っている人はいるのではないでしょうか。刺激的なタイトルですが、加藤氏はこの著書で、小林秀雄賞を受賞します。

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本の内容はというと、「日本が戦争へ至る道をテーマにして、高校生に行った授業の記録」でした。戦争へ至る道は不可避だった、というひとつの見方ではなく、史料を丁寧に読みこみ、当時の時代に身を置いて考えてみることで見えてくる、さまざまな選択肢・可能性を描き出していました。高校生が、その瑞々しい感性で投げかける問題意識に対して、当時の思考を再現、疑似体験させ、日本人がいかにして戦争という「選択」をしていくのかを描いたのです。

そもそも、加藤氏が歴史学者になろうと思ったきっかけに幼少期の体験があったといいます。思い切りのわるかった自分が、少し前に悩みながら決断した結果に対して、ふと「あの時こうしたのはなぜだったのだろう?」と思い、家族に話を聞いてみたそうです。すると、「このような理由で、あなたはこのように行動したのよ」と、ひとつのストーリーだけがまるで真実のように語られます。けれど自分は思い切りが悪かったため、他の選択肢もおおいにありえたことを知っています。それだけが真実ではないはず。この経験から、過去を振り返って語る言葉にひとつのストーリーしか話されないことに「違和感」を覚えていったといいます。

自分の身の回りのところで複数の見解があるということは、過去の出来事の真実もひとつだけではないということ。その思いは、やがて歴史の研究へとつながりました。加藤氏は、歴史とは平面的な記録ではないと唱えます。そして、史実とは、いろいろな要因がぶつかり合って構築される事実の集積であるということをダイナミックに描き出したのです。それが2009年の『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』を生みました。

小林秀雄賞受賞のベストセラー作品、続編が登場。

その、小林秀雄賞受賞作『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』の続編として今年発売されたのが、今回注目している『戦争まで歴史を決めた交渉と日本の失敗』なのです。ベストセラーの第2弾ということもありますが、売れている理由はそれだけではなさそうです

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前作は「高校生」を対象にしていましたが、本書は「中高生」27名に向けた講義の記録であり、会話に満ちた研究書となっています。前作よりも扱っている期間が短く、難解で退屈になりやすいところを議論方式を取り入れておもしろく読ませる手法はさすが。また構成も工夫されており、テーマを3つに絞ってシンプルに作られています。

歴史を動かしたものの正体を自らの力で考える。

3つのテーマとはそれぞれ、「満州事変におけるリットン報告書」、「日独伊三国軍事同盟」、「日米交渉」です。これらの3つの交渉は、結果として日本を孤立させ、戦争を生み出すことになりました。しかし、それぞれの結果は果たして必然だったのでしょうか。

3つのテーマを通じて加藤氏は、史科を読み解きながら、私たちが今まで持っていた「通説」を鮮やかに覆していきます。日本が置かれた政治経済的な状況を眺めた上で、政策担当者や知識人、当時の人々の思考をトレースしていくのですが、トレースすることで、読者である私たちの脳裏には「本当に戦争の道しかなかったのか?」「なぜこの結論になったのだろうか?」「他の選択はありえなかったの?」という疑問が浮かびます。そして、疑問の答えを自ら追究していくことで、歴史を動かしたものの新事実が明らかになっていくのです。

この本もやはり、加藤氏に対するのが中高生であることが、読みやすさ、分かりやすさに結びついています。加藤氏の質問と中高生の答え。次いで中高生の考えに対する加藤氏の解説。このように質疑応答が続く文章構成はまるで、プラトン哲学のような対話です。したがって、読みすすめるうちに読者自身も自分が生徒になったかのように考えさせられ、自ら真実に辿りつくことができるのです。

現代の問題と結びつけて歴史を学ぶということ。

誤った「選択」が悲惨な戦争を招いた歴史を読者の目の前に突きつける本書。そこでは、様々な制約や複雑な状況の中での選択において重要なことは、問題の本質をとらえた選択肢をつくり出すことであることと説きます。歴史は過去のものではなく、現代を生きる私たちの指針になり得るのだと教えてくれるのです。

これからあらゆる交渉が待っているビジネスパーソン。あるいは学生。経営者。選択や意思決定に臨む誰が読んでも刺激的な1冊になることでしょう。

さて、今月の「ビジネスパーソン向け全書籍」分野の注目本は以上です。9月以降、また新たな注目本がありましたら、ご紹介いたします。楽しみにお待ちください。

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プロフィール

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hontoビジネス書分析チーム

本と電子書籍のハイブリッド書店「honto」による、注目の書籍を見つけるための分析チーム。ビジネスパーソン向けの注目書籍を見つける本チームは、ビジネス書にとどまらず、社会課題、自然科学、人文科学、教養、スポーツ・芸術などの分野から、注目の書籍をご紹介します。

丸善・ジュンク堂も同グループであるため、この2書店の売れ筋(ランキング)から注目の書籍を見つけることも。小説などフィクションよりもノンフィクションを好むメンバーが揃っています。

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