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今回は、伊坂幸太郎さんとの合作『キャプテンサンダーボルト』(11/28発売予定)を発表した
阿部和重さんが登場。合作執筆のエピソードなどお話をうかがいました。
-おふたりの出会いから、合作をつくることとなった契機、その後の経緯などは公式サイトでの対談に詳しくあります。かなりスムーズに合作づくりは進んだのですね。
二〇一一年、伊坂さんと初めてお会いした日からすでに、いっしょに何かやりましょうと言い出すほど意気投合しましたからね。二度目に顔を合わせたときには、どんなものにしようかというところまで話が進んだ。作品に盛り込んだキーワードの七割方は、ここで出ていましたよ。『キャプテンサンダーボルト』というタイトルだって、そのすぐあとのメールのやりとりで決まっていました。
-ひとりで創作するときより早いくらいの進展なのでは?
そのときによりますけどね。ただ、誰かと何かをするとなったら、必ずもっと手間がかかりそうじゃないですか。そういう停滞感は、まったく感じなかった。
伊坂さんとだと、よけいな説明や、コンセンサスを得るための時間が、必要ないからです。お互いに共通点が意外なほど多かったし、フィクションはどのように組み立てられているのかという構造への意識、小説をどうつくるかという基本線がほとんど同じだったからですね。
ここさえ決めておけば、こういう展開に持っていけるよね、じゃあこれでいきましょうと、すんなり話が進む。お互い、いちいち説明しなくて済んだ。同業者だからといって、誰とでもこううまくいくわけじゃないですよ。そのあたりの認識が、まったくズレていることだってあります。
-阿部さんといえば、一作ごとに緻密な構成と練り上げた文体を駆使する純文学界の旗手。かたや伊坂さんはエンターテインメント小説出身で、軽妙な会話やあっと驚くしかけを満載した作風が人気。一見、タイプは大きく異なると思えるのですが、共通点が意外に多いのですか?
もともとそんな予感はしていましたが、実際に会って、合作をともに進めてみると、思ったよりも重なるところがありました。
世界は見た目通りとはかぎらない――。根本にそんな思いがあるということが、まずは共通点として挙げられるでしょうね。わかりやすくいえば、陰謀論的な思考ということです。われわれの目に見えている世界の背後には、邪な考えがうごめいていて、表の世界を裏から操作しているのだ、という発想をふたりともするのです。
世界への不信、そこからくるある種の人間不信、裏にある何かを読み取ろうとする意思。そういうものがいつもあり、作品に反映されているんですね。
また、小説をつくるうえで、形式的な発想をする点も同じですね。たとえば、遠く離れたものの同一性を見出し、結びつけることによって物語を組み立てていく。ふたりとも、そうしたやり方を常に模索しています。
伊坂さんはとりわけ、遠いものをつなげる発想と、そのアイデアを具現化する力に秀でています。伊坂作品の楽しみとして、みなさん驚きや意外性があることを挙げますね。これとこれがつながるのか! と。
デビュー作の『オーデュボンの祈り』にしても、「案山子」と、それが「しゃべる」ということを、荒業で接続してしまった。『PK』に収められた作品「密使」では、「タイムトラベル」と「ゴキブリ」ですよ。誰も結びつけて考えそうにないものを、見事につなげるのは伊坂さんならではです。
僕は、伊坂さんほど遠く離れたものをつなげたりはしませんが、ある異質なもの同士の共通点が見えた瞬間に、物語ができるな、とは考えます。
たとえばデビュー作の『アメリカの夜』では、ブルース・リーと哲学を結びつけています。ブルース・リーの映画スターとしての一般的なイメージからは外れる、哲学というものをぶつけることで、ブルース・リー像をずらす。『インディビジュアル・プロジェクション』なら、フリオ・イグレシアスの歌詞を、別の意味に解釈してずらしていく。もともとある世界の問題に対してベタに付き合って物語をつくるのではなくて、意味を反転させて接続させようとしたりする。ひじょうに形式的な発想を、いつもしますね。
-そうした共通点は、いったいどこからくるのでしょう。
なぜだろうとふたりで話していて、ひとつ気づいたのは、われわれは「冷戦時代の子ども」であるということ。
伊坂さんと僕は三つ年の差がありますけど、まあ同世代といえる。子ども時代を過ごした一九七〇~八〇年代は、冷戦の時代です。いつ核爆弾が降って来るかわからないとメディアは伝え、危機が煽られていた。漫画や映画はもちろん、テレビのワイドショーなんかでもそういう話題がよく取り上げられていました。日常のすぐ裏に、危機を抱え込んでいたんです。
僕の経験で言うと、一九八〇年、モスクワオリンピックのボイコットはひじょうに大きな衝撃でした。開催が近づいてきて、テレビでは「モスクワまであと何日」、柔道・山下選手の調整の様子は、などと放送していたのに、いきなりアフガニスタン侵攻のニュースが流れ、西側諸国はボイコットとなった。え、そんなことがあるんだと驚いた。
一方で、ノストラダムスの大予言のような話も生々しく語られ、世界は終わるということばかりを我々は刷り込まれていた。その話をしたら、伊坂さんも同じことは感じていたようで、世代的な共通意識は間違いなくあると確認した次第です。
そうした意識はいまだに僕にも伊坂さんにも残っていて、作品に反映されてしまうのでしょう。ノストラダムスの予言は当たらなかったし、「2000年問題」もたいしたことなかったわけですが、それでも世界の危機は回避できたかといえばそんなことはない。二十一世紀になっても9・11があり、日本では3・11があった。
世界全体の崩壊はないものの、散発的・局地的なカタストロフィは何度も起こっている。世界史的に見ても、現在は過渡期という印象がありますね。中東の混迷、テロの危機増大、感染症・伝染病の恐怖も迫っている。冷戦期に見聞きしていたサブカル的な終末は去ったかもしれないが、もっと現実的な終末感はリアルにそこにある。僕らが冷戦期に養った陰謀論的空想は、いまやもっと真剣に考えるべき問題として目の前に現れているのです。
今回の『キャプテンサンダーボルト』にも、ふたりのそれぞれの持ち味は、ちゃんと出ているはずですよ。遠く離れたものを結びつけながら、「冷戦の子ども」的な想像力が全開になった作品になっていると思います。
キャプテンサンダーボルト
阿部 和重(著), 伊坂 幸太郎(著)
いったい何が起きたのか?
阿部和重と伊坂幸太郎、現代を代表する人気作家の二人が、四年を費やして執筆した合作書き下ろし長編900枚。
2010年代、最強のエンターテインメント作品。
阿部和重(あべ・かずしげ)
- 1968年生まれ。山形県出身。
- 1994年、『アメリカの夜』で第37回群像新人文学賞を受賞しデビュー。
- 『無情の世界』で第21回野間文芸新人賞受賞、
- 『シンセミア』で第15回伊藤整文学賞・第58回毎日出版文化賞をダブル受賞、
- 『グランド・フィナーレ』で第132回芥川賞、
- 『ピストルズ』で第46回谷崎潤一郎賞受賞。
他の著書に、『ミステリアスセッティング』『クエーサーと13番目の柱』『□(しかく)』『Deluxe Edition』などがある。
次回は伊坂幸太郎さんが登場!阿部和重さんとの合作『キャプテンサンダーボルト』について、
伊坂幸太郎さんにもお話をうかがいました。11/20(木)更新予定、お楽しみに!!