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注目作家に最新作やおすすめ本などを聞く『honto+インタビュー』。
今回は、最新作『サブマリン』刊行を記念して伊坂幸太郎さんが登場。
――『チルドレン』刊行は2004年。家庭裁判所調査官の陣内や武藤ら、強烈なキャラクターが印象的でした。12 年の時を経て、また陣内らの躍動する小説が生まれることに。いま、なぜ続編を?
あ、じつは僕のなかでは、『チルドレン』と『サブマリン』が続きものだという意識が、そんなにないんですよ。いまの自分が書きたいお話を書く、というのが僕の考えていることのすべてで。こういう話を書きたいなと考えているときに、たまたま以前に起用したことのある「役者」である陣内たちにまた声をかけたくなって、いろいろ演じてもらったという感じですね。
――作者としては、続編との位置づけではない?
そうです。陣内たちの役者としての味は好きなので、「前回みたいに演じてよ、頼みます」という気持ちではありましたけど、作品としての雰囲気は両作でずいぶん違っているんじゃないですか。『チルドレン』が好きだった人には、「なんだ、期待していたものと違うじゃないか」と怒られるのではと、ちょっと心配になるくらいです。たとえ登場人物や舞台設定が同じだとしても、毎回まったく違うものを書きたいという気持ちが強い。次はいったい何を書くんだろう、この人は? と思われるようになりたいんですよね。
――陣内や武藤は家庭裁判所の調査官という、少々変わった職業に就いていますね。その仕事ぶりはどうやって取材するのですか。
大学時代の友人が家裁調査官になっているので、彼に話を聞いたりはしました。少年犯罪の報道なんかで伝え聞くことと、実際にそういう立場の少年たちと接している彼の捉え方はやっぱり違っていて、すごく興味を引かれました。
そうはいっても僕の場合、社会問題について作品で解決策を提示しようということは、していないんですけどね。せいぜい、なにごとも先入観を持たずにもう一度考え直してみようよ、と言ってみるくらいで。たとえば少年犯罪や冤罪が取り沙汰されたときに、単純にテレビのワイドショーで言っていることを信じてしまうと何か違うんじゃないですかね、とか。
当然のことですけど、僕がそうした大きな問題に対して答えを持っているわけじゃない。いろいろ考えて書いてみましたけど、すみませんやっぱりわからないです、ということを毎回作品でやっているような気がします。
読者の方が、ひょっとして生きるヒントみたいなものを作品のなかに求めているとしたら、たいへん申し訳ないです。そういうものは僕の小説には含まれていないので。その分、エンターテインメントとしておもしろいものにしようという努力は、最大限しているつもりなんですけどね。
――『サブマリン』でいえば、交通事故にまつわる問題が取り上げられて話が進みます。
そう、交通事故ってほんとうに、やりきれない気持ちが残ってしまう。そこを描く話にしたかったんですよね。でも、交通事故の問題点を告発することが主眼では決してない。ある事故があって、事故の以前にはこういう出来事があって、じつは密接に関係している。さらには、その以前の出来事についてもまだ明るみになっていない事情があって……。時間をさかのぼりながら、出来事がずっとつながっている、そういう小説を書きたいというのが動機でした。話の展開や構成をまずは思いつかないと、僕は書けないんですよ。
――たしかに、あっと驚く展開に触れたり、ここがこうつながるのかという発見をすることが、伊坂作品を読むときの楽しみです。登場人物がみな魅力的なのも特長ではありますが、人物の個性から話をつくっていくわけではないのですね。
人物のキャラクターが先にあるということはないです。小説や映画のつくり手で、よく「人物が勝手に動き出す」という人がいますが、僕はそういう経験がまったくない。書いていくうえで、登場人物とは長い付き合いになるから、せっかくならワクワクする人がいいなとは思って、名前を決めたり会話の調子を考えたりと肉付けはしていきますけどね。でも基本的には、お話のなかで魅力を発揮する人形でいてくれたらいいという考えです。
――「人物が勝手に動き出す」ということにしたほうが、そこに創作の秘密や神秘が潜んでいるようで、「箔がつく」気もしますが……。
そうかもしれない。でも、ほんとうにそうならないから、しょうがないんです。嘘をつくわけにもいかないし、できるだけ正直でいようと。ある先輩作家の方から、「かっこいいと人に思わせることは、言ったりやったりしちゃだめだ」と教わったことがあって。その言葉を守ることにしています。
――同一人物が登場するシリーズもので、ご自身の作品以外のおススメなどありますでしょうか。
島田荘司さんの、探偵・御手洗潔のシリーズが以前から大好きです。学生時代には、発売日の前月から書店に通い詰めて、ひょっとして今日もう出ているんじゃないか、やっぱりまだ出ていない……、ということを繰り返していたほど。そのとき待ちに待って手に入れた『暗闇坂の人喰いの木』は、他の人が持っているものより、苦労した分だけ僕の本だけは5割増しでさらにおもしろくなっているんじゃないかと思いますよ(笑)
伊坂幸太郎(いさか・こうたろう)
1971年生まれ。千葉県出身。
2000年、『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。
2004年『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞、『死神の精度』で第57回日本推理作家協会賞短編部門受賞。
2008年『ゴールデンスランバー』で第5回本屋大賞、第21回山本周五郎賞を受賞。
他の著書に『PK』『火星に住むつもりかい?』『陽気なギャングは三つ数えろ』『キャプテンサンダーボルト』(阿部和重との共著)などがある。