honto+インタビュー vol.22 阿部和重&伊坂幸太郎

注目作家や著名人に最新作やおすすめ本などを聞く『honto+インタビュー』。
今回は、合作小説『キャプテンサンダーボルト』文庫化を記念して阿部和重さんと伊坂幸太郎さんが登場。

「本当におもしろいエンタメ小説を探している人にも、きっと満足してもらえるはず」

読み始めれば、あとはノンストップ。何かおもしろいものを探しているのなら、これを手に取れば間違いなし。そんな小説が、2014年刊行の『キャプテンサンダーボルト』。
純文学の旗手・阿部和重&ミステリー界の人気作家・伊坂幸太郎による完全合作としても話題を呼んだ。
同作がこのたび文庫化されて再登場と相成った。それを機に、作者のおふたりによる対談が実現。著者みずからが語る作品の魅力とは。

―ふだんの執筆にはない独特の緊張感があった

阿部 文庫化にあたって読み返してみると、こんなにいろんなネタやアイデアが盛り込まれていたのかと改めて驚きました。
伊坂 刊行されてすでに3年。自分たちで書いたとはいえ、僕らも一読者として読めるほどには時間が経っていますから新鮮に感じますよね。改めて読んでみたら、本当におもしろいエンターテインメントを探している人に、ぜひおすすめしたくなる小説でした(笑)。
阿部 この作品のつくり方としては、全体の構成をふたりで話し合ってから、章ごとにどちらかがひと通り書いて、それをもうひとりが書き直し、という作業を繰り返していきました。ということは、僕が書くたびに伊坂さんが最初の読者になる。つねに伊坂さんの目を意識しながら書いていったから、ふだんの執筆にはない独特の緊張感がありました。
伊坂 それは僕も同じです。ただ、ふたりとも「自分の色」を主張するよりも、作品をベストのかたちにするにはどうすればいいかを考えるタイプだったので、実際にそれほど困るようなことはなかったですよね。

―緻密に組まれた小説ゆえ改稿がたいへんに

阿部 今回の文庫化という機会を得て、細かいところも含めて文章を練り上げて加筆し、さらに、あるアクション場面には新しい要素を入れ込みました。より完全版といえる内容に仕上がったと思います。
伊坂 直しの作業は思いのほかたいへんでしたね。読む人が「変わった」とはっきり認識できるのは、おそらくそのアクション場面くらいで、その場面だってガラリと展開が異なるわけじゃないのに。
阿部 僕も伊坂さんも小説を細かく組み立てていくタイプの作家。そのふたりが力を合わせてつくったものなので、構造が緻密で複雑なんですよね。そこに新しい要素を入れようとすると、なかなか難しいことになってしまう。
伊坂 少しでもいじると、全体に影響が出てしまったりしますからね。僕らはもともと小説の好みなんかも似ていて、この作品がどこへ向かえばいいのかはしっかり共有できていたと思うので、方向性で迷うようなことはなかったんですが。
阿部 「直し」に苦労した我々ですが、文庫ではさらに、上下巻それぞれの巻末にボーナストラックを掲載しています。
伊坂 『キャプテンサンダーボルト』にまつわる掌編を書き下ろしたものです。アイデアをふたりで話し合って決めるのは本編と同じですが、そのあとそれぞれが書いたものを取り替えっこして書き直すことはしていません。
阿部 どちらがどっちを書いたのか、あれこれ想像しながら楽しんでいただけたらうれしいです。

―併せて楽しみたい、絵本と電子書籍の新作も!

「大学生のときに初めて最後まで書いた短編が、この作品のもとになっています。以前それをリメイクして発表したことがあって、クリスマスの話だから絵本のかたちにするのがいいかもねと、編集者と話していたんです」
計画は具体的に動きだす運びとなった。絵本化するにあたっては、だれに絵を描いてもらうか。あれこれ考えた結果、フランス語圏の漫画「バンドデシネ」作家・マヌエーレ・フィオールさんに依頼することに。
「雰囲気に合ったすてきな絵を、たくさん描いていただくことができました」
物語の舞台はドイツで、探偵カールがクリスマスの夜に不思議な男と出会うお話。オールカラーの美しくて楽しげな本だ。
「何しろ初めて書き上げた作品だから、僕の小説のエッセンスが詰まっている。絵本と銘打っていますが、もちろん大人の方にも読んでいただけたら」
阿部さんのほうは、電子書籍『阿部和重の漫画喫茶へようこそ!』。当誌連載「漫画覚書」でもおなじみの通り、漫画好きで造詣の深い阿部さんが、数々のコミックの第1巻を読んで大いに語るという同名ウェブ連載を、一冊にまとめた。
「長く連載していたのですごいボリュームですが、語り下ろしなので、柔らかくて読みやすいかと」
電子書籍だけの特典もある。
「『アオハライド』や『ストロボ・エッジ』で知られる漫画家・咲坂伊緒さんとの対談を収録してあります。自作について咲坂さんがここまで語ったことはないのでは? というほど充実した内容になっていますよ」

新刊のご紹介

キャプテンサンダーボルト

キャプテンサンダーボルト

阿部和重,伊坂幸太郎

出版社:文藝春秋

蔵王に隠された秘密を知った小学校以来の悪友コンビを追う冷酷な破壊者。2人は世界を救うために走る! 小説界最強タッグ、阿部和重と伊坂幸太郎による冒険活劇。本編の1時間前を描く書き下ろし掌編も収録。

著者プロフィール

阿部和重(あべ・かずしげ)

1968年生まれ。山形県出身。
1994年、『アメリカの夜』で第37回群像新人文学賞を受賞しデビュー。
『無情の世界』で第21回野間文芸新人賞受賞、
『シンセミア』で第15回伊藤整文学賞・第58回毎日出版文化賞をダブル受賞、
『グランド・フィナーレ』で第132回芥川賞、
『ピストルズ』で第46回谷崎潤一郎賞受賞。
他の著書に、『ミステリアスセッティング』『クエーサーと13番目の柱』『□(しかく)』『Deluxe Edition』などがある。

著者プロフィール

伊坂幸太郎(いさか・こうたろう)

1971年生まれ。千葉県出身。
2000年、『オーデュボンの祈り』で第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。
2004年『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞、『死神の精度』で第57回日本推理作家協会賞短編部門受賞。
2008年『ゴールデンスランバー』で第5回本屋大賞、第21回山本周五郎賞を受賞。
他の著書に『PK』『アイネクライネナハトムジーク』『キャプテンサンダーボルト』(阿部和重との共著)『火星に住むつもりかい?』『AX』などがある。

主な著作

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