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昭和の時代、様々な持ち主を渡り歩く3カラットのダイヤモンド。それを手にした者は常に殺人事件に巻き込まれる。そんな不吉なダイヤの流浪を描いた連作短編小説。
ダイヤが目撃する日本昭和史は著者の体験したものなんだろう。戦争を経て、敗戦社会、高度経済成長と、めまぐるしく変動する昭和だが、著者の描く社会はなんとも陰気くさい。それが庶民の本当の姿なのか、著者の偏った感じ方のせいなのか。
庶民と時代を優雅に移動する堂々としたダイヤに比べて、殺った殺られたに一喜一憂する人間は貧しい存在だなと思う。
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3カラット純白無疵のダイヤモンドの指輪が流転するなかで次々と巻き起こる殺人事件。戦前から高度経済成長期に至るまでの期間、妖しく輝くダイヤモンドを手にした人々は、欲望と悲哀に溢れる事件に巻き込まれてゆく。持ち主に災いをもたらす呪いのダイヤモンドという話は、都市伝説ではごくありふれている感があるが、人間の深層心理を丁寧に描く名手である松本清張の腕により、読者を否応なしにミステリーの世界へと誘っていく。昭和の世相も細部まで描写されているので、歴史的な観点からも興味深く読める秀作。
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昭和初期、九州の炭坑成金、ダイヤ。。。
もう既に、何かが起こりそうな匂いぷんぷんです。
黒澤明の映画と松本清張の小説に共通して言えることは、「つかみが巧い」ということです。ものの5分、ものの1ページで、連れて行かれてしまう。
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タイトルがいいですね。つい引き付けられて買ってしまった。ミステリーとしてのおもしろさは正直なところほとんど感じなかったけれど、昭和を感じられるという点で、おもしろかった一冊。戦時中と敗戦直後の部分は、時代の暗さと、その時代に生きる人間のたくましさが出ていて凄みがあるな。
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プラチナ台の3カラット・ダイヤモンドが、時代とともに人々の手を渡り歩いていく。それが、12編の短編連作という構成になっているのが本書。12編とはいえ、2篇ずつ登場人物は同じ。それぞれの短編は、著書の『半生の記』を彷彿とさせられる舞台設定となっている。
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「松本清張」の連作ミステリ作品『絢爛たる流離』を読みました。
『渡された場面』に続き「松本清張」作品です。
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3カラットのダイヤの指輪が引き起こす不思議な12の事件
昭和初期、九州の炭鉱主が愛娘に買い与えたダイヤの指輪。
3カラットのダイヤは、高度成長に沸く東京で、工事現場に働く少年のポケットを経て息をのむ結末を迎えるまで、次々と持ち主を変えて数奇な運命をたどる。
戦前から戦後への昭和史を背景に、ダイヤの流離の裏にひそむ人間の不幸を描く12の連作推理小説。
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純白無疵3カラットのダイヤモンドリングを手にした女性の身の回りに起こる不幸な物語、、、
以下の12篇で構成された連作ミステリ作品です。
■第1話 土俗玩具
■第2話 小町鼓
■第3話 百済の草
■第4話 走路
■第5話 雨の二階
■第6話 夕日の城
■第7話 灯
■第8話 切符
■第9話 代筆
■第10話 安全率
■第11話 陰影
■第12話 消滅
■解題 藤井康栄
■解説 佐野洋
『第1話 土俗玩具』と『第2話 小町鼓』の舞台は昭和初期の九州R市(北九州市か?)と東京、、、
3カラットのダイヤモンドリングは、宝石商「鵜飼忠兵衛」により谷尾鉱業の初代社長「谷尾喜右衛門」に売られ、その長女「妙子」に贈られる… 「妙子」は男女関係の縺れから邪魔になった夫を殺害するが、弁護士「北山」の巧みな弁護により証拠不十分で釈放される。
その後、「北山」との関係を持つが、「北山」が邪魔になった「妙子」は再び犯罪を… 悪女的な物語でしたね。
『第3話 百済の草』と『第4話 走路』の舞台は太平洋戦争末期の朝鮮半島、、、
3カラットのダイヤモンドリングは、宝石商「鵜飼忠兵衛」の元に買い戻され、次は鈴井物産の重役令嬢である「大野木寿子」に贈られる… 鈴井物産の技師「伊原雄一」と結婚した「寿子」は、夫の赴任地である朝鮮の全羅北道金邑(きんゆう)の社宅に移住する。
戦局の悪化に伴い夫は徴兵され、社宅に残された「寿子」は、南朝鮮軍司令部の高級将校に見初められて、関係を迫られた結果、高級将校を殺害してしまう、、、
その後、日本は敗戦… いち早く敗戦を知った将校や町の有力者等と朝鮮を脱出した「寿子」であったが、日本に向かう密航船の上で殺人事件に遭遇する。
魅力がある故に事件に巻き込まれてしまった女性の物語でしたね。
『第5話 雨の二階』の舞台は終戦直後の福岡と東京、、、
戦時中に福岡で軍需省の雇員として働いていた「畑野寛治」は、戦後、横領して溜め込んでいた軍需物資を東京で売りさばいて闇成金となり、3カラットのダイヤモンドリングは、朝鮮から逃げ帰った将校から「寛治」に売り渡され、妻の「秋江」に贈られる… しかし、裕福になった「寛治」は、外に女をつくり、邪魔になった妻をゴム長靴を使ったトリックで殺害。
真相は発覚せず、「寛治」は娑婆で暮らすが、「寛治」の成功を妬んだ元上官に殺害される… 妻殺しが発覚した方が幸せだったのかもしれませんね。
『第6話 夕日の城』と『第7話 灯』の舞台は戦後の東京と群馬、、、
3カラットのダイヤモンドリングは、またまた宝石商「鵜飼忠兵衛」の元に買い戻され、次は群馬の素封家「平垣富太郎」に売られ、長男「新一」の妻「澄子」に贈られる… 「澄子」は骨董屋を営む父親と懇意にしている元代議士「粟島重介」の仲人により「新一」と結婚したのだが、結婚後、「新一」に精神的な疾患があることが判り、不幸な結婚生活に耐えきれず離縁する。
その後、「澄子」は「粟島」の経営する政治経済研究所に勤めるが、「粟島」から半ば強引に関係を結ばされる等、憎しみが募り「粟島」を事故死に見せかけて殺害、、、
真相は発覚せず、「澄子」は実家の骨董屋で過ごすが、骨董屋と取引のあるかつぎ屋の男に言い寄られ… 不幸な一生を終えることになりました。
その後も、3カラットのダイヤモンドリングは持ち主を転々と、、、
『第8話 切符』では、骨董屋の愛人「米山スガ」に贈られ、『第9話 代筆』では、GI相手のオンリーである「神保なつ子」に贈られるが、いずれも金の縺れや男女関係の縺れから殺害される。
『第10話 安全率』と『第11話 陰影』は、六〇年安保の騒乱を背景にした作品、、、
3カラットのダイヤモンドリングは、東亜鉄鋼会長「加久隆平」から銀座のバー「コスタリカ」の経営者「津上佐保子」に贈られ、「津上佐保子」の周辺では男女関係を巡る不幸な事件が… そして、最終話『第12話 消滅』では、裕福な青年「崎川保範」からフィアンセの「宇津井登代子」に贈られ、「登代子」に憧れる工事現場の少年「宮原次郎」による犯行後、「宮原次郎」の手により永遠に葬り去られる。
ダイヤモンドリングが人から人へと流離するたびに事件が起こるのですが、一つひとつの作品が、それぞれ独立した形式になっているので、短篇集を読んでいる感じで愉しめましたね。