紙の本
「生命倫理学」のよって立つ倫理を問い直してみよう。
2001/11/24 23:57
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投稿者:ちひ - この投稿者のレビュー一覧を見る
加藤尚武氏は哲学者であり、日本のバイオエシックス(生命倫理学)研究では第一人者である。著書に『バイオエシックスとは何か』(1986年、未來社)、『生命倫理学を学ぶ人のために』(1998年、世界思想社、加茂直樹氏と共編)などがある。
著者は「あとがき」で「国民の誰もが知っておくべきバイオエシックスの知識をまとめておく、最近の傾向を鋭く突き出して日本のバイオエシックス研究にとって刺激となる、大学や高校の教科書に使えるという条件を満たす本を作ろうと思った」と書いているが、その願いはほぼ完璧に実現されている。本書は専門的な知識がそれほどない者にも非常に理解しやすく書かれており、随所に散りばめられた解りやすい例(あるいはジョーク?)の助けもあって異常なほどに読みやすい。だがそれでいて専門的な問題は一切割愛されていないのだ。非常に希有な本である。
バイオエシックス(生命倫理学)という学問は、1970年代に始まった、比較的まだ新しい学問である。それが最大の目的としているのは、医療現場で用いられるべき倫理的思考基盤の整備であり、医療技術の進展に伴って続々と提示されはじめた臨床的な諸問題、つまり「医療行為はどこまでなら許されるのか?」という疑問への解答を求め、早急に一定の線引きを行うことである。具体的には、本書のタイトルに明示されている問題の他に、不妊治療や人工妊娠中絶、性転換手術、安楽死、インフォームド・コンセント、クオリティ・オブ・ライフ、アクセス権などを扱っている。もちろん本書でもそれら難問への、現時点での解答が示されている。
本書の読者は、バイオエシックスをとりまく状況は現在も刻々と変化しつつあるという当たり前の事実を改めて知ることとなる。「ヒトゲノム(ヒト遺伝子に組み込まれた30億の塩基対)解析」という、殆どSFと見紛う研究が現在世界中で行われている事実を事実として受容せざるを得ないこと、つまり我々の医療技術は引き返せない段階に突入したこと、よって我々に最早「○○絶対反対」という選択肢は用意されていないことに思い至った読者は、愕然とするとともに、バイオエシックスへの興味をかき立てられ、著者の示す解答に、しばし満足するだろう。しかし本書は「そこで宗教がなすべきことは何か?」という問題には一切解答を示さないので、読者は自分の頭を使って考えることの重要性も知るだろう。
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タイトルのとおり、脳死とクローンについてコンパクトに書かれてあっていい本です。遺伝子治療は独立した章ではなく、脳死との関連で書かれているのが中心だと思います。特に、クローンについて反対意見が簡潔にまとめてあって勉強になりました。根拠をもってクローンに反対するのは至難の業です。
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うろ覚えのレビュー。
臓器移植・遺伝子治療・クローンが医療技術の進歩により可能になりつつある中で、それぞれの医療行為が倫理的に許容されうるか議論している内容。
これらの医療行為の問題点として挙げられるのが
・医療を受ける決定を行うのが患者本人で無いことがある(障害を持つと診断された胎児 etc.)
・遺伝子疾患は患者数が少ない物も多く医療費、研究費配分が不平等になり得る(数人しか患者のいない疾患は研究費が集められないetc.)
ということ。
この本の中で何かしらの「結論」を述べているわけではなく、多様な視点から実際に起きた事例を挙げつつ問題を考察している。
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フォトリーディング& 高速リーディング。性転換についての意見に納得。実に論理的かつ聖書的。速読しないなら積ん読になっていた本。医療を倫理面から論じた書。
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生命倫理学におけるひと通りの議論は網羅できた。主張内容そのものに同意できるというのではなく、議論の叩き台として適切だったように思う。
最終的には自然主義的帰結になり、またそこに至る過程も腑に落ちない流れであったように思う。
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[ 内容 ]
「成人で判断能力のある者は、自分の身体と生命の質について、他人に危険を加えないかぎり、自己決定の権利を持つ」というのが、従来のバイオエシックス(生命倫理学)の原則であった。
しかし、私の遺体についての決定権を持つのは私なのか家族なのか?
クローン人間の製造はなぜ規制されなければならないのか?
等々、最新技術が提起する様々な課題は、もはや、従来の自由主義・個人主義では判断ができない。
本書では、これらの問題の複雑な論点を整理し、バイオエシックスの新たな枠組みを提示する。
[ 目次 ]
序章 バイオエシックスとは何か
第1章 脳死と臓器移植
第2章 性と生殖の倫理
第3章 クローン人間の練習問題
第4章 患者の権利
第5章 遺伝子治療と人類の未来
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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11/07/14。
バイオエシックスは、自由主義思想の延長にある。しかしそれでも問題を抱えている。さてどう解決すべきか?という問題。
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生命倫理学の基礎として、医学者以外の立場で整理したものとして貴重である。
医療については、医者が専門家なのだから、医者が決めるという傾向が強かった。
自己決定権の大切さを提起している。患者の権利の章もある。
本書は、一つの立場であるので、医者、看護婦の医療従事者の視点での情報も合わせて読むとよい。
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倫理的な議論をするときに、個人の好悪なのか、倫理的な観点なのか、法律的な観点から話をしているのかきちんと区別をしておかないと議論がまとまらないことがわかった.特に脳死の話.
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サブタイトルが「バイオエシックスの練習問題」となっています。初出が1999年なので、最新の話題というわけではありませんが、生命倫理を考える良い手引書だと思いました。
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タイトルになっている脳死・クローン・遺伝子治療について、生命倫理学の基本的な考え方を解説している本です。
具体的な問題から倫理学的な原則がどのように抽出されるのかを手際よく説明しており、「バイオエシックスの練習問題」というサブタイトルが示すように、読者にとって啓発的な内容になっているように思います。
脳死・クローン・遺伝子治療といったテーマは、いずれも非常に具体的で私たちの実感に訴えかけてくるような問題であるだけに、小松美彦や森岡正博らのラディカルな生命倫理学批判の議論に感心させられてしまうことが多いように思います。本書には、それらの論者のような派手さはないものの、生命倫理学の基本的な考え方がどのような枠組みに基づいているのかということを一つひとつていねいに確かめていくことのできる良書だと思います。