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【記念試合】 室積光さん
旧制七高造士館(現・鹿児島大学)野球部の創部百年を記念して、宿敵五高(現・熊本大学)との対校試合の開催が決定。太平洋戦争前夜、七高のエースだった上田勝弥は、記念試合開催に向けての取材で当時の記憶を語り始める。
旧制高校から帝大に進んだかつてのエリートたちは、私欲に走る小賢しい秀才を軽蔑し、国家や社会のためにひたむきに生きることを目指した。太平洋戦争の終盤、学徒出陣で徴用された多くの学生が戦死し、生き残った者たちはその遺志を継いで、国の再興に力を尽くした。英霊たちに見守られながら、今、七高と五高の記念試合が幕を開ける!(本誌裏表紙より)
☆
貴重な青春時代を戦争によって潰されてしまった若者たち。軍部の無策から多くの若者が無駄に命を散らし、生き残った者にも強烈な罪悪感を残した。上田勝弥もその中の一人だ。生き残ったコトが死んでいった仲間に申し訳ない。その思いから上田勝弥は故郷の地を訪れるコトを禁忌とした。しかし彼が背負い続けた十字架は、孫の勝男に自分の思いを語り継ぐコトによって和らげられ記念試合を機に、勝弥は数十年ぶりで故郷の地を訪れるコトになる。そして対校試合では英霊たちもがグラウンドに集い、かつてのプレーを披露する。
老い先短い老人たちは、再び若き日の仲間がプレーを目にするコトが出来た。戦中、戦後と苦労をし、常に先に旅立った仲間への罪悪感を背負いつつ生きてきた老人たちも「これで、思い残しがなく死ねる。」と思ったコトだろう。。最後にそう感じるコトの出来る本でした。