紙の本
人間関係における永遠の命題「1+1=X」
2006/02/24 20:55
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:栗太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ミステリ作家「岡嶋二人」は、井上夢人氏、徳山諄一氏の二人からなるコンビ名だ。28冊の本を世に出し、18年と言う活動期間をもって解散にいたった。本書は、岡嶋二人の1人である井上氏が、その18年間を中心に描いた自伝的エッセイである。
副題が「岡嶋二人盛衰記」とあるように、本書は「盛の部」「衰の部」2部構成になっている。盛の部は、コンビ結成から黄金期まで、衰の部は、円熟期から衰退期、消滅期が描かれている。注目すべきは、盛の部の最終ページは、岡嶋二人が江戸川乱歩賞受賞の電話を受ける、まさにその瞬間で終わっていることだ。そして衰の部は、受賞式のため出版社に出向くところから始まる。つまり受賞作(デビュー作)が書店に並ぶ頃、ミステリ作家岡嶋二人は既に破局への道を歩んでいたのだ。これは謙遜や自虐、皮肉の類でなく、紛れもない真実なのだろう。江戸川乱歩賞受賞を小説家としての就職試験と見なす2人は、顔を突合せ、とことんまで話しあい、作品を完成させていった。だが最大の目標に到達してしまった時、2人の間で何かがズレ始めたのだと思う。
プロとしてこなすべき仕事量に追いつかない作業速度、から回るモチベーション、役割分担の不公平感、性格的な齟齬、パソコン通信導入により遠くなる互いの距離、苛立ち、苦悩。よくここまでと言うほど赤裸々に描かれている。本書は、井上氏の目から見た岡嶋二人だ。徳山氏の言い分が入っていないという点では、一方的な視点となるのだが、これが意外な程、2人の姿が見えてくる。「悪者」がいたのではなく、ただ、2人で続けることができなくなったのだと。
さて問題は、本書は、岡嶋二人の作品を読んでから読むべきか? そんなこともないと私は思う。確かに本書では、岡嶋二人の作品が各所で取り上げられ、その創作過程が明かされているから、ネタばれの危険はある。もとの作品を読んでいれば、舞台裏を覗けて面白いだろう。だが、岡嶋二人の作品を一冊も読んだことがない人、ミステリに興味のない人でも、「おかしな二人」は十分に楽しめる。人間に興味がある人なら、必ず。ちなみに私は、それまで「チョコレートゲーム」しか読んだことがなかった。
本書を読むと、単に、岡嶋二人というミステリ作家の盛衰だけでなく、あらゆる人間関係の盛衰を感じることができるだろう。2人はミステリ作家でなく、漫才コンビでも、音楽ユニットでも、野球のバッテリーでも良いのだ。夫婦でも恋人でも……つまり、価値観の違う他人同士が、同じ目標に向かって、どう進んでいくか。その光と影を見ることができる。単に頭数の問題なら「1+1=2」であるが、そこで生み出されるものは「3」かもしれないし「1」以下かもしれない。人間関係は難しくて、興味深い。
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「岡嶋二人」として、数々のミステリーをモノにした著者。「岡嶋二人」は著者ともう1人の合作ペンネームであった。この本は合作の始まりから、コンビの解消までを綴ったエッセイ。好きなのに上手くいかない・・・。男性同士ではあるけれど、それはまるで恋愛であるかのように切ない。伝えたいことが上手く伝わらないもどかしさ。何度読んでも、ちょっとだけ寂しい気持ちになってしまう。
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二人ってうまくいかないんだなぁ。もう一人の弁明も聞きたかったけど・・・。元夫に対する愛が感じられなかったのは残念。夫婦もうまくいかないのが当たり前・・・ってこと?
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岡嶋二人のファンなら誰しも興味があるであろう、二人がどのようにして出会ったのか、どのように創作していたのか、など、もう岡嶋二人のすべてが載っている本です。もう必見です!でも残念ながら絶版なんですよね。いや、是非古本で見つけてください。
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井上夢人さんと徳山諒一さんがコンビでやっていた、「岡嶋二人」というミステリー作家の誕生から消滅までが、包み隠さず描かれている。コンビという特殊性より、全くの素人から芥川賞を受賞するまでの苦悩・成長の過程がリアルに書かれていて、とても興味深い。電車で正面の人の顔をスケッチするとか、短編小説を分解して分析する等、努力で作家になるヒントがいっぱい。大先生の「文章〜」「小説家になるには」みたいなのより全然おもしろい。小説家を目指す人にオススメ。
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大好きな「岡嶋二人」さんのエッセイ。
二人で1つのPNで活動していたのですが今は解散してしまいました。その二人の様々なエピソードが描かれています。ファン必見の1冊。
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2人が出会って多くの傑作ミステリーが生まれた。そして18年後、2人は別れた――。大人気作家・岡嶋二人がどのようにして誕生し、28冊の本を世に出していったのか。エピソードもふんだんに盛り込んで、徳さんと著者の喜びから苦悩までを丹念に描いた、渾身の自伝的エッセイ
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岡島二人はおかしな二人です。
片方の井上夢人さんの書かれた 内訳話。
話の作り方から書いてあるので 小説家を目指す人が読めば すごく勉強になると思います、
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これって、よく考えるとすごい本なんじゃないかって思う。
あたし個人でいうと、井上夢人さんの小説から入った。
最初は、メドゥーサ、鏡をごらん、だったかな?
パワーオフ、オルファクトグラム、もつれっぱなし、あくむ、風が吹いたら桶屋がもうかる、
ダレカガナカニイル、プラスティック・・と続けて、かなり気に入っていた。
並行して、基本的に賞をとる作品群にも惹かれていたので、岡嶋二人の名前も知っていた。
ただ、競馬とかボクシングとかが好きでなかったのと、なんかタイトルがもっさい(失礼)ので、
古くさい感じがして読んでもいなかった。
でも、たまたまクラインの壷がちょっと面白かったので99%の誘拐を読み、ちょっとamazon先生に伺った所、
なんと、なーんと、井上夢人さんと徳山諄一さんとの共同執筆じゃないですか!
で、最近たまたま手にしたこの本。分厚いし、ほれ、岡嶋二人はあまりすきじゃないし・・
って思って立ち読みモードではじめたら、止まんない。
これ、よっぽどそのへんのレンアイ小説よりもレンアイだ。
出会って、気があって、蜜月期で、倦怠期で、なんとかしようと努力して、ついに、わかれる。
細かいことのすれ違い。
大きな違いならばパーソナリティーの違いであると割り切れることも、
小さい故に声に出せずに溜って行き、でも結局溜ったところでひとつひとつは小さなことの集積だから、
それを持ち出して責めるのも気が引けて・・
結局フラストレーションが残り、暴発しては自分も相手も怪我をする。
キレのいい刀よりも、なまくら刀のほうがキレが悪い分、嫌な怪我をし、治りにくいのは言葉も同じらしい。
間に流れているのがレンアイ感情ではなくリアルな生活だとか相手の生活への配慮だから、
逆に痛々しくも生々しい。
おかしな二人をもじってつけた、岡嶋二人。それがすごく皮肉に聞こえるのは、なんだかねぇ。
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もの書き、としてと
人と働く、ってことで
いろいろと勉強になる。
あとは、まあ単純に面白いってのが大きい。
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小説ではなくノン・フィクションだと思う。二人がコンビを結成(というのか?)してから解消するまでのことを語っている。どうして別れたのかなって思ってたんだけれどこれを読んで納得。小説の書かれた経緯とかトリックを生み出したいきさつなども書かれているため、ネタばれ必須。先に小説読んだ方がいい。
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9月30日読了。徳山諄一・井上泉による共同名義の作家「岡嶋二人」の結成から執筆方法、解散に至るまでを井上氏・現在の作家井上夢人の視点から描く。徳山氏がアイデア・具体的なトリックを考案して井上氏がそれに応えてネタを「転がす」、収入などなく将来の展望などなくてもさぞ楽しい時間だったのだろうなあ〜と想像する。音楽(ジョンとポール)でもマンガ(藤子不二雄)でも共作で名を成した創作家は多数あれど、どのようにうまくプロセスが回っていてもいつかは終わりのときが来るものなのだろうなあ・・・。岡嶋二人の著作は何冊か読んでいるだけに、その創作の手順やアイデアのとっかかりなどをうかがい知ることができ、その意味でも大変興味深い本。
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わかり易く書けば「まんが道」の岡嶋二人版ですね。
読んでて楽しい前半部に比べ、愚痴が多くなる後半部は読んでて切なくなってきます。
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気分が落ち込んで、鬱っぽくなり、エネルギーを要することが自発的にできなくなったときに読む本がいくつかある。その多くは、例えば『まんが道』『プレイボール』などのマンガであったけど、今回は既読の本棚に並んでいた本書を手にとった。本書は、井上氏による「岡嶋二人物語」であり、ミステリ作家の自叙伝であり、一種のノウハウ本であり、青春物語であり、そして何度も読むことができる☆☆☆☆☆の傑作である。
解説の大沢氏と同様に、私は雑誌(『メフィスト』だったのだろうか? 当時の講談社の日本ミステリ専門誌だった)初出時に読んでおり、それもちょうど就職活動期で落ち込んでいたときで、忙しい時期だったにもかかわらず、あまりの面白さに一気読みしてしまったものである。だから、読むたびに、あのシュウカツの空気を思い出す。
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面白かったが切ない話。
まさか[盛]の部分が乱歩賞受賞までとは。プロの小説家になってから(と言うより授賞式の日から)[衰]が始まるとは驚く。数々の傑作ミステリーが全て[衰]の時期に作られている事に驚く。小説家とはいかに厳しい職業か。ただこの本は井上氏側から書いた本なので、ちょっと徳山氏が可哀相に思えるが、あえて徳山氏は反論本を出していないのが、なんともこのコンビらしい感じもする。まるで恋愛小説みたいな本。