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身近なところで若者が自ら命を絶った。著者からこの本を贈られたのは、その十日後だった。亡くなった若者とこの著者の二人から「メメント・モリ(死を思え)」と言われたような不思議な気持ちで読み始めた。
哲学者である著者が、慶應義塾中等部(中学校)の校長を務めたことから生まれた著作。
全編を通して、「まだ見ぬ時間」に向けての問いかけに溢れている。「このことを忘れないでおいてください」「最終的には、君たちの手に委ねられている」「ぜひ覚えておいてください」「その時まで・・・」。第五章「死と自由」には、「のっぴきならない死の手前にのみ、みずから選び取ることのできる可能性というかたちで、自由の余地が開かれている」とある。ここにも、時間の哲学が顔を見せている。清々しい中学生の瞳がこうした言葉を呼び寄せたのだろうか。(そもそも、人生を語るとは、時間を語ることなのかもしれないが・・・)
もうひとつの印象は、自然科学を越えた(踏まえたではなく)格調高い哲学(メタ・フィジクス)の言葉に満ちていること。ニュートン力学は言うに及ばず、素粒子論から天文学まで登場する。「生命と環境」では、エントロピー増大の法則まで援用されていて圧巻。自然科学と哲学の見事な融合を目の当たりにして、その美しさに感動を覚える。
読み終えて、谷川俊太郎の詩の一節を思い浮かべた。
本当の事を言おうか
詩人のふりはしてるが
私は詩人ではない
この詩をもじって言えば
本当の事を言おうか
この著者は「哲学者」のふりをしてるが
「詩人」であり
「自然科学者」であり
「教育者」である
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著者は慶應大学文学部教授で、去年まで系列の中学校の
校長先生を兼任していた哲学者。
難しいことを噛み砕き、心を尽くして
子どもたちに語りかけてきた数年間の記録です。
人生を輝かせるために「本当の自由」を手に入れなさい
と繰り返し語られています。
とっかかりとなる題材は「短すぎるスカート丈」
「なぜ勉強するのか」「いじめはなくならない?」など。
『スカートを短くしたい君はなぜそうしたのかな?
他人にかわいいと思われたいからかな。
(略)ゆくゆくはパートナーの彼に出会いたいからこそ、
君はスカート丈を短くしたんだ。
(略)赤ちゃんを産み、育てるのは、
人類の存続のための「命令」だ。
「スカート丈を短くしたい」という君の思いは
そもそも君の自由に属するものでなく、本能の命令によって君はそう思わされていることにならないだろうか』
と、この話は、自由が本物の自由なのかはいつでも疑いうるということ、また自由の及ぶ範囲が自由自身にまで広がっている、という途方も無い問いかけにつながっています。
始業式にいきなり「君のスカートが短いのは本能の命令だ」と聞かされた中学生たちの反応を考えると(笑)
現在の自分の状態で特に心に残ったのは以下です。
『あまりにつらい体験は、消化することもできないまま、
異物のようにそこにありつづける。
それでも、それらとともにしか私たちの人生はないのです』
『ほかの何ものからも命じられたわけではないことを、
自分自身の力で実現する。そうやって自由を手に入れる
プロセスこそが学ぶこと。それはいつか必ずや失われる人生を輝かせるための方法』
言い回しに独特の味わいがあります。知的刺激を受けると同時に温かい気持ちになる本です。こんなお話が聞ける中学生たちがうらやましいと思いつつ、一度聞いたきりで理解できた中学生はほとんどいなかったのでは、と心配にも。
文字で出版されたことでお話をじっくり味わい、なぐさめを得たり、勇気を思い出したりするひとは多いと思いました。
また、宇宙のおわりはどうなってるの?といったことを考える仕方を教えてもらえたのも収穫。
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中学生に向けて発した哲学をベースにしたメッセージ集。
決して簡単な本ではないと感じたが、考えることの大切さは分かる。
日々「今」を大切にして、自分の頭でしっかりと考えたい。
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哲学者だった筆者が急遽中学校の校長をやることになり、それをキッカケに著わした本。
哲学というよりはお説教って感じで、まさに「校長先生の退屈な話」という感じでした。途中で断念。。。
決してこの本の内容が悪いという話ではなく、読むタイミングが悪かったです。自分に子どもができて、育て方を真剣に考え始めたぐらいに読むといいんじゃないかと思いました。
中学生という多感な時期に何を学ぶべきなのか。それを本人たちに伝えるのは非常に難しいことだと思います。そんな難解なテーマと日々向き合っている先生たちってすごい。
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斎藤慶典『中学生の君におくる哲学』講談社、読了。「なぜ、勉強しなきゃいけない?」--そう立ち止まったとき、人は哲学し始め本当の自由を獲得する。恣意性を避け、自分の頭を使い言葉を使って探求することを、中学校校長になった哲学者と共に考える。
http://bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2181223
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慶応義塾中等部の校長を務めることになった著者が、中学生に向けて哲学を語っている本です。
著者の本は、これまでにも何冊か読んでいますが、粘着度の高い文体と結びついた粘り強い思索のスタイルに魅力を感じていました。しかし本書では、中学生に向けて語るというかたちをとっているために著者特有の文体が用いられておらず、平板な印象を受けてしまいました。
いくつかのテーマでは興味深いと感じるところもあったのですが、中学生にとって身近な話から哲学的なテーマへと進んでいくというスタイルがあまり成功しているとは思えませんでした。