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日本のゲノム政策がどのようにして進められてきたのかが克明に描かれている。最先端を行っていた科学者が、日本省庁の戦略ミスによって世界に取り残される危機感・・・。臨場感あふれる書き方も良かった。
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ヒトゲノム・・・一度は耳にしたことがある言葉だと思いますが、ヒトゲノム解読の国際プロジェクトにおける日本の貢献度は極めて低いものでした。
それはなぜか?
もともとこの分野における日本の取り組みは世界でも主導権を取れるようなものでしたが、それを阻む官僚組織や大学内での派閥・・・
ほんの少しですが、バイオ関係の仕事に携わった者として、身につまされる思いがする一冊です。
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* ゲノム解読の体制整備「too little,too late」
o 貢献度;アメリカ59%、イギリス31%、日本6%
o 官僚の保守性⇔生命科学の最先端の独創性
o 特許政策→研究成果を国ではなく民間へ
o AMBOに対する文科省のあいまいな態度→ワトソン激怒
o 科技庁の予算→文科省管轄の大学には使えない
* ゲノムの仕組み・研究内容
o ゲノム解読;文字の羅列が分かっただけ。文字の発見に近い?
o 遺伝子の機能、たんぱく質の働き方;文章の構造の解読
o バイオインフォマティクス;仮想細胞によるシュミレーション→実験データ獲得が簡単に
o ゲノムネットワーク;遺伝子とたんぱく質の相互関係を解読
* 今後の戦い
o 基幹技術の特許獲得戦争
o ライフサイエンス特許出願数;米39%、中20%、欧18%、日17%
o 大学院生の流動化→大学院生の労働力化・囲い込みの禁止
o 若手研究者の研究時間確保
o 先端機器開発の遅れ;日本の研究室の機器の6~7割は欧米製、科研費1700億円の6~7割が流出
o バイオベンチャー企業数;米2000、欧2500、日324
* 名称
o NIH(アメリカ)
o エンコード計画(アメリカ);ゲノムの意味を解読
o GSC
o タンパク3000プロジェクト
o X線装置からNMR装置へ(最新の解読機器)
* 雑感
o 官僚が科学技術の審査をするのは厳しい→専門性、ボトムアップ・保守という性質
o 政治主導で予算枠を区切って科学技術の推進をする専門機関作るべき
o 日本総合科学会議?http://www8.cao.go.jp/cstp/budget/index.html
o 研究者出身の政治家の割合が少なすぎるのでは?
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メディアでは日本人がノーベル賞を受賞すると暫くは科学ブームが起こる。
医学をはじめ生命の本質を理解すべく世界各国が協力してヒトの30億対ある
遺伝情報(ゲノム)を解読した、いわゆるヒトゲノム計画が2003年に終了した。
この計画への日本の貢献度は6%。しかし、この計画を70年代から提唱したのは日本人だった。
本書は、計画をリードしたにもかかわらず最終的には”6%”へと凋落した
背景には何があったのかを、専門家でなくても理解しやすく、社会政治背景を
含めて淡々と分析している。この国の失敗の本質がみてとれるのではないか。
(大分大学 学部生)
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1980年代にヒトゲノム解読の先鞭を付けた日本だったが日米貿易摩擦によるバイ・アメリカン、いまだに続く物理学と生物学の領域争い、少ない予算、文部省と科学技術庁に分かれた管轄争い、そして何よりも大学教授の発明に対して特許を認めない当時の方針もありプロジェクトは進まない。
一方のアメリカはプロパテント政策を推進しまたヒトゲノム計画ではDNA二重螺旋発見のジェームズ・ワトソンが中心となり予算を獲得し日本を抜きさる。元々親日家だったワトソンだがヒトゲノム計画への資金供出をしぶる日本の官僚機構に対しては怒りを隠さず、金を出さなければ解析データーの利用は認めないと脅しにかかり、一方でアメリカ議会に対しては当時進んでいた日本の脅威をたてに研究予算をぶんどる。
最終的に全ゲノム解読の日本の貢献は6%とアメリカ59%、イギリス31%に比べるとごくわずかとなった。
ゲノム解読の高速化の転換点となったのがそれまでのx線に変えてDNAの塩基に蛍光体で目印をつけてレーザーで読み取る方法で埼玉大の伏見教授が1982年10月に学会発表している。83年4月に特許出願するが科学技術庁から国家予算による発明に対して特許による独占権は認めないと待ったがかかり84年1月に特許を取り下げる。(ちなみにこれが法的に認められるのは1998年、アメリカのバイ・ドール法が発明は大学に帰属すると決めてから20年遅れている)その後、日立製作所の神原が蛍光式シークエンサーを発明し84年に特許出願するが奇しくも84年1月にカリフォルニアl工科大学が同じ特許を出願していた。特許はアプライド・バイオシステム(ABI)に譲渡され、日立はこの特許をすり抜けることができずライセンスを受け共同開発をするが日本の販売権のみでそれ以外の販売権はABIを買収したパーキンエルマーが握った。
ヒトゲノム解読は2003年に解読がすんだが実際にどの遺伝子がどういう機能を果たしているかの研究はまだまだこれからでタンパク質の立体構造を解析するタンパク3000プロジェクトでは日本が先行している。
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2004年刊。
ヒトゲノム解読における国際研究協力は日本人研究者に苦い薬を飲ませた。すなわち、当該研究の黎明期、英を含む欧州は勿論、米国に引けを取らず、いや米より先行ランナーであった日本の研究陣は、日本国内の要因と、大量の人員動員(前提として、厚みのある研究陣)と経済的支援(国からの資金援助は勿論、民間からのベンチャーキャピタルも)が可能な米国発の要因で煮え湯を飲まされる結果に。
この過程とここから浮かび上がる日本の大学等研究機関と研究結果の産業化への問題点、ポストゲノムでのリベンジの実が語られる。
まとめると、
① 学際的研究に対する先輩大学人の無知無能(言い過ぎではないと思う。不平は兎も角、黙殺放置ができないのは何故?。まして足を引っ張る画策とは)。
② 機械的処理が可能な領域を、人的処理で行うことに価値を置きすぎる弊害(アジア太平洋戦争時の日本陸海軍の如き)。
③ 予算配分の硬直化と、大蔵省(当時)の理工学と産業化への知見欠如。
④ メンツだけを重んじる官僚体質と、予算の固定的な官庁割り。
⑤ 予算獲得に向けた大学人の政治性の欠如(対民間においては、大学人のプレゼン能力の欠如と、予算獲得の急所を外す説得相手)。
⑥ 人材育成の硬直化と、大学院生が教授その他の小間使いと化している
点が問題点として浮き彫りに。
しかし、これらは相当前から問題視されてきたものではないのか、との印象も強い。
もっとも、ただやられっぱなしというわけでもなさげで、ポストゲノム、特にゲノムを基礎とした蛋白質の応答関係は爾後の課題のようだ。
となれば、現代的課題、就中IPS細胞はこの問題を反面教師にできたのか。そしてその他の分野はどうか?。経済産業関係書としては少し古いが、そういう疑問も湧かせる良書である。