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毎日新聞出身で、九州大学大学院教授(当時:都市政策)、法政大学名誉教授(現)の本間義人(1935-)による全総概説。
序章 国土計画とは何なのか 国家権力の計画主題実現の手段
第1章 一全総は国土をどう変えたか
-所得倍増実現で公害列島化
第2章 二全総と列島改造はどうつながったか
-金権体質と権力の集中生む
第3章 三全総は発想を変えた国土計画だったか
-田園国家構想の挫折とテクノポリス
第4章 四全総は何をもたらしたか
-大きいリゾートとバブルの後遺症
第5章 五全総をどう読むか
-変わらぬ公共事業推進の役割
第6章 首都機能移転にのぞまれるのは何か
-一括移転より分散移転-分都が現実的
第7章 あるべき国土計画はどういうものか
-地域自らつくる地域創造計画
第8章 地域主体の計画は可能か
-各地で進む国土計画の分権化
終章 どういう国土をつくるか
-環境、福祉、ゆとりある生活
全国総合開発計画=通称「全総」は、戦後日本の国土計画の中核であり、自民党政権による公共事業への投融資推進の根拠であった。
五全総と呼ばれる「二十一世紀の国土のグランドデザイン」が1998年3月に閣議決定された後の1999年に本書は刊行された。構成としては一全総から四全総までの策定の経緯と内容、それぞれが残した負の遺産を紹介しながら、五全総を批判的に検証するという流れとなっている。本書の内容は各章のサブタイトルを読めば、ほぼ理解できるだろう。
特に中曽根内閣が主導して策定された四全総に対しては厳しい評価をくだす。出版時期が1999年であり、バブル崩壊後の不況真っ只中であり、リゾート法に端を発する無思慮な開発計画が次々に頓挫し、朽ち果ていくのをまざまざと見せつけられていた頃であるだけにやむをえまい。
第6章以降の21世紀に向けた国土計画への提言の部分は、現時点(評者が読了した2015年)からすると色あせた議論という風にうつる。
しかしながら、整備新幹線の凍結解除、リニア着工といった伝統的な交通インフラ整備と東日本大震災以降の国土強靱化を合い言葉にした自然災害対策に莫大な予算がつけられている状況を見るに、「あるべき国土像」と「国土計画」がどこまでいっても「全総的」になっているように思える。
戦後史を語る上で、全総は欠くべからざる要素であり、その概説という点でコンパクトにまとめられている。