紙の本
本の形而上学(良書独り善がり主義)ではなく、唯物論(物流への視野)を。
2008/12/07 00:55
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は、筑摩書房にて、営業部というよりおもに物流部門を歩んだ人。70年代末の同社倒産前に就職し、その倒産劇に居合わせている。のち取締役まで勤め、2007年に病没。本書は、同社の書店向け通信「蔵前新刊どすこい」の末尾に書かれた「営業局通信」をまとめたものである。「業界人向け」という色彩が濃いものの、著者の言いたいことは、門外漢の人でも本に関心のある人であれば理解できることと思う。
出版業界を見る点で、著者の立ち位置は二重に興味深い。一つめは「物流」部門を主に歩んできたこと。二つ目は「筑摩倒産」という貴重な経験を経ていることである。
従来の出版業界ものというのは、「編集者」の立場からのものが圧倒的に多い。内容の善し悪しや著者とのつきあい・人間関係といったものになりやすい。この場合、論を立てると「やっぱり良書を」となる。一時期、話題をまいた『誰が本を殺すのか』もこの「良書主義」の基本線は変わらない。
しかし、この資本主義下において本も「商品」である。いや、商品になったからこそ、これだけ広まったのでもある。くわえて、委託販売や再販制などなど、出版業界は一般にはわかりづらい物流制度によって成り立っている。出版業を支えているのは、実は「良書」ではなく、こうした物流までも含めた「制度」なのである。この点を物流畑専門の著者は直截に突いている。本書のもとは書店向けでこの点がざっくり説明されているが、補注も充実しているので,一般向け入門書としても十分に読めるだろう。
さて、老舗出版社として倒産を経験し、のちに取締役まで至ったということは、著者は「筑摩復活」の立役者の一人といってよいのだろう。単なるビジネス書であれば、この「成功談」が中心になるが、業界向け通信であったことは、その弊を免れている。むしろ、倒産へと至る筑摩書房の内情に対してはとても批判的である(当然か)。同様に、(元の記事の執筆中にあった)2001年の取次「鈴木書店」倒産についてもその目は厳しい。「なぜか」は本書を読まれたい。
「良書」というカードを使うと、意外にも世間の目はやさしくなるようだが(だからといって本が売れるわけではない)、あくまでも出版というのは産業の一つであること、そしてモノであることを、著者は教えてくれる。
投稿元:
レビューを見る
蔵前に本社のある出版社で、営業をしていた田中さんの本。
著者は最初に出版社の倉庫に配属され、出版界の流通問題に独自の視点を持つに至りました。
自社の本を売るだけでなく、業界全体のためエンドユーザーのため、多くの改革に携わって来られたんですね。57歳にして世を去られた著者に変わって、同業界他社の人たちが注釈をつけているのですが、それがみなことごとく切れのいい文章なんです。
注が素晴らしく、注を書いた人が著者とは別人で複数である「どすこい出版流通」。著者がどんな仕事人だったか偲ばれます。
投稿元:
レビューを見る
ちくま書房が好きだからおもしろかった。田中さんがとっても素敵な人で、こんな上司がいたらいいのにと思った・・・orz
投稿元:
レビューを見る
この本がこのような形で出たことに感謝。今は当たり前のインフラも切り拓く人がいてこそ。帯にもあった倉庫のくだりは、ぐっと来た。そして自分を恥じたよ。
投稿元:
レビューを見る
2009/11/03-11/07
天神
ためになった…(この3点リーダがあらわす感じ)。メーカーだよな、出版社も。でも単に製造業でもないし、というところが良く書かれている。頭がいいというか、切れているし冷静。昔の話もいい。こういう人がいれば。ってちょっとベタ褒め
投稿元:
レビューを見る
業界用語が難しい…とか思うところはあったけれど、ところどころにある筆者の辛辣な意見がすごくぐっときました(良書なんてねぇよ!みたいなのとか…)。
あとは、「本当のバカはパターン化された思考しかできな人のこと」、というのも全くその通りだと思います。バカにはなりたくない…。
投稿元:
レビューを見る
出版流通について、出版社の商品管理に携わり、営業も担当した著者が書いた一冊。
再販制度など、かなり特殊な部分があるので、出版関係の基礎知識がないとわかりにくいところはあるかもしれません。
どうやって自分の手元に本が届くのか、なぜ注文してから本が来るまで時間がかかるのか、いろいろ不思議な点がクリアになります。
この本が書かれた当時よりもネット書店の比重が高まっており、電子書籍関連の話題が頻出するいまの状況を、この人はどう読んだだろうと意見を聞いてみたい気持ちになった。
投稿元:
レビューを見る
著者の人柄や仕事ぶりが伝わってくる。
業種は違うけれども、こんな上司の下で働きたい。もしくはこんな上司になってみたいものだ。
早世は残念。
投稿元:
レビューを見る
出版・本に関する本
筑摩書房の営業通信、1999年~2007年までのものを註釈をつけて出版したもの
「たぬきちの野良犬ダイアリー」で、出版や書店など本の世界に興味がある人、現在働いている人は一度は読んでい置いて欲しいと書いてあったので、読んでみる
内容はというと
基本的には営業部長が書いているだけあってやはり業界人向けの内容
専門用語も多々出てくるが、もうすでに関連本を読んでいるのでそこは抵抗なく読めた
良くある「昔は良かった」的な論調ではなく、過去のやり方の長所短所、現状の問題点、改善点、改善したところ、著者の経験、業界事情などなど、内部からではいないと絶対に分からないような内容が多く、しかもそれが親近感溢れる視点で述べられていて、非常にためになった
出版されたの2008年7月だから、今はまた状況が全く違うのだとは思うが、電子書籍が本格的なブームにあってきた中で、本の世界がどのように変わるのか、自分なりに考えていく上でとても参考になる
特に細かい実務について伺い知れる箇所があってそこが業界外の人間からすると新鮮だった
あー、どうにかして本に関わる業界の仕事に就けないものかなあ
投稿元:
レビューを見る
出版流通のことがわかった!! という類の本ではないけれど、出版業に携わる人はみんな読むべき本。倉庫勤務経験を活かして業界の流通、営業の在り方を切り開いていった著者を知り、私は出版社のなかで何を武器に何をもたらせるのかを深く考えさせられた。
投稿元:
レビューを見る
おもしろかった。『蔵前どすこい』のあの欄に載せる文字数なだけあって無駄なく書かれていて、その連なりなのでどんどん読める。もっと早くに手にするべきだった。
投稿元:
レビューを見る
図書館について考えたくてどかどか借りてきた本、3。
出版状況クロニクルとはうってかわって、今度は出版側からみた出版についてのあれこれ。出版状況クロニクル読んだ後は「なんか出版系もうやばいな働きたくないな」って思ったけど、この本読んだら「出版ちょう楽しそう働きたい」ってなった。用語の説明もたくさん入っていて、だいぶすらすら読めるようになってきた。もう少し出版系について勉強できたら、もう一度読みたい。
■
経済的にーとか国際的にーとか考えると暗い気持ちになりがちだけど、やっぱ本を扱う仕事というものにロマンを感じてしまうなって思った。どちらの感情もバランスよく持てるひとになりたい。
投稿元:
レビューを見る
故・田中達治さんの業界向け日誌をまとめた本。
本を扱うにあたって商流・物流の整備の大切さや上手く活用された際の情報の有用性が感じられる。
また、著者の出版に対する思いが言葉にしていなくとも溢れていて心地良い。
投稿元:
レビューを見る
筑摩書房で長きにわたり図書営業に従事した故・田中達治氏が書店・取次向けの業界誌(?)のメッセージコラムをまとめたもの。図書営業の世界のことはさっぱりだったので、基本的な知識を知る上でも参考になったが、版元の営業マンがここまで軽快かつ辛口に業界に進言できるというのは現場の現状を的確に捉え、かつ先を見据えたいたからにほかならない。いままでの業界の当たり前に果敢にぶつかり、流通インフラまでも構築した。版元の営業と取次、書店の不思議な関係が魅力的にも映るのは、田中氏が指摘するように各プレイヤーが共同でメディアとしての出版業界を支えているからだろう。