紙の本
待っていた文庫化。
2013/08/17 23:03
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投稿者:nekomata - この投稿者のレビュー一覧を見る
オリジナル短編が最後ではなく、途中に挟まれていた。
題名が変わったのがちょっと気になっていたら、こう来たか。
最後の短編の題名を表題にする理由は分かった。
署長の言葉と態度しか決め手はないけれども、
完結編とあるし、ちょっと残念だな。
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『ウラジオストクから来た女 函館水上警察』文庫化に当たって、書き下ろし短編『嵐と霧のラッコ島』を付け加えた一冊である。オリジナル単行本に、微妙なかたちでおまけをつけて、読者の散財を促すのが商法であるならば、これには賛成できかねるが、こと高城高の短編一つが加わるのであれば、ぼくにとってはそこには市場価格では測れない価値があるとしか言いようがないので、出版社の目論見通りになるのは悔しいのだけれど、この作家の短編一つに740円、別に決して、惜しくはないのである。
さて本書全般の詳細は『ウラジオストクから来た女』のレビューをご参照願うとして、ここで付け加えられた短編『嵐と霧のラッコ島』についてであるが、これは函館というよりも、ラッコ島こと得撫(ウルップ)島を舞台にした水産会社の海獣猟船の遭難事件である。魚とりの漁船ではなく、ラッコの毛皮を求めての海獣猟という辺りに、時代特性の感を禁じ得ないところだが、それ以上に、未だ、千島列島が明治八年以来日本領となっている中、測量もされず、日本の辺境のようなかたちで放置され、経済的にも一部の民間会社しか着目していないという状況、その状況下で起こる海獣乱獲といった未統制の北の海こそが、ここでは浮き彫りにされている。その辺りが本書にて着目されるべきところであろうか。
この事件を通して、日本の政治が眼の届かない当時の領土を放置したままにしていること、一方で遥かに遠い国の英国あたりが先に測量し、各国が乱獲をしている状況について、登場人物のひとりに憂えさせているのだが、現代に移し替えた北方領土問題についても、歴史的に意味するところを見定めてみようとすると興味深いことに、日本の歴史的国策の無雑作であった有様が、今更ながら浮き彫りになってくると思う。
敢えて完了したシリーズに新しい一篇を加えさせたのも、当時より、次の年には渡米を考えていた五条というシリーズ主人公の肚づもりと、その後に彼を見舞う運命との無常を語ると同時に、上のようなニッポン国の、地方を顧みない中央支配的構図に対する、作者ならではの反旗的意味合いがあったのか、と敢えて考えさせられる、これは文庫改訂版なのであった。
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(収録作品)ウラジオストクから来た女/聖アンドレイ十字 招かれざる旗/嵐と霧のラッコ島/函館氷室の暗闇/冬に散る華
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文庫書き下ろし『嵐と霧のラッコ島』、それと『函館氷室の暗闘』が良かった。
明治時代の函館を舞台にしたハードボイルド小説という、レアな題材に心惹かれる。ミステリーとしての出来栄えは、本作よりも優れたものは数多くあろうが、作者の過去作を含めた一連の世界観に一票。