紙の本
ダイナミックな知識をいかにマネジメントするか?
2003/03/18 14:45
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投稿者:ひろっち - この投稿者のレビュー一覧を見る
知識はいまや組織の競争力におけるひとつの源泉と言われている。資産の運用や人材のマネジメント同様にナレッジ・マネジメントの必要性が説かれ、様々な試みがなされている。だが、知識は資産のように固定化したものではない。知識には文書化された形式知もあるが、文書化、オフィシャル化が困難な暗黙知も存在する。知識は金銭的資産や他の資源にくらべ、非常にダイナミックな性質をもつがゆえに、そのマネジメントにも困難がつきまとう。だが、組織が他の組織との競争力を高めようとすれば、もはや知識のマネジメントを抜きには考えられない状況にきている。これまでのナレッジ・マネジメントは主にIT部門主導で行なわれてきた。莫大な資源をITシステムに費やしたが、出来上がった知識ベースは役立たないことが多かった。最大の原因は情報と知識を混同したことによるものだった。知識はスタティックな情報の集合ではない。もし、ある人物が自分がたくさんの本を読んで膨大な医療知識を身に付けたから、あなたに手術をしてあげると申し出たとしたら、あなたはその申し出を受け入れるだろうか。多くの知識は実践を必要としている。現場での実際の経験上、実践的に活用された知識がこそが生きた知識となりうる。本書はそうした知識のダイナミックな面に着目した上で、そうしたダイナミックで実践的な知識のマネジメントを可能にするシステムとしての「実践コミュニティ」を紹介している。
本書で紹介される「実践コミュニティ」は主に3つの特長をもっている。それはまず1.共通の「知識領域」の共有によって組織され、2.この領域に関心をもつ人々の集まりである、基本的に自主参加型の「コミュニティ」という形態をとり、3.そして、最後の参加する人々がこの領域内で効果的に仕事をするために生み出す共通の「実践」を有していることである。ようするにコミュニティに参加する人々は、自分たちの業務上必要な知識の「領域」を共有して集まり、「コミュニティ」内で知識の共有、文書化、検証などを行ないながら、それぞれの業務における現場での知識の「実践」のなかで、知識を実際に活用、練磨をしながら、また現場から得たものをコミュニティ内にフィードバックする。組織の中で、業務部署やプロジェクト・チームなどに所属する個々人が、部署やチームを超えて、共通の知識「領域」を求めて集まる「コミュニティ」の存在により、「実践」に有効なダイナミックな知識の開発、育成、共有を実現しようとするものだ。基本的にそれは個々人を媒介とした、部署やチームといった業務関連集合体と、知識の共有、育成を目的としたコミュニティの二重構造を組織内に確立する試みである。
本書は、この実践コミュニティを中心とした、組織内のナレッジ・マネジメントの有効性を、数多くの事例を紹介しながら説いている。組織内に自主性を重んじたコミュニティをおくことで、非管理的な知識のマネジメントを実現する手法を紹介している。知識はそのダイナミックな性質上、文書などのスタティックなツールをその担い手にすることは完全にはできない。ダイナミックな性質をもった知識を担うのは基本的に人間でしかありえない。だが、その人間を単なる知識の保存庫としてマネジメントしようとするなら、その試みはうまくいかないだろう。知識を得て、それを活用しようとする時、個人は基本的にみずからの好みや価値観に大きく依存するはずだ。それを従来の管理型のマネジメントでしめつけ、コントロールしようとしてもうまくいくはずがない。それゆえ、ここで描かれたのコミュニティのマネジメントによるナレッジ・マネジメントは従来のマネジメントの考え方さえ大きく変えることになるだろう。あるいは、もはやすべてのマネジメントは大きな意味でのナレッジ・マネジメントだといえるのかもしれない。
紙の本
出版社コメント
2003/01/28 16:30
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投稿者:翔泳社 - この投稿者のレビュー一覧を見る
コミュニティ・オブ・プラクティス(実践コミュニティ)とは、あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団のことである。
これからの知識創造時代に必要なこの理論とその実践を、豊富な事例(世界銀行、ロイヤル・ダッチ・シェル、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ゼロックス、ダイムラークライスラーなど)を挙げて説く。
解説は、ナレッジ・マネジメントの第一人者である一橋大学大学院の野中郁次郎教授。
■目次
第1章 実践コミュニティについて−今なぜ必要なのか
第2章 実践コミュニティとその構成要素
第3章 実践コミュニティ育成の七原則
第4章 発展の初期段階−実践コミュニティの計画と立ち上げ
第5章 発展の成熟段階−実践コミュニティを成長させ、維持する
第6章 分散型コミュニティという挑戦
第7章 実践コミュニティのマイナス面
第8章 価値創造の評価と管理
第9章 コミュニティを核とした知識促進活動
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ウェンガーさんの書いた”Community of Practice"の日本語版。「実践コミュニティ」をいかにして創造するか。面白いです。
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学習する単位=実践コミュニティとして、コミュニティ的な考えの組織への適合を試みた画期的な書籍であろうと思います。その意味で、『学習する組織』の上位的な位置づけに見えます。コッター言うところの組織におけるインフォーマルなネットワークによって作られた単位が実践コミュニティ(Community of practice)と言えますが、コッターの言う改革のためのネットワークと違うところは、実践コミュニティそのものが学習し、成長し続ける存在としたところで、『学習する組織』と全く同じ主張が見られます。またその単位が、生物の生存のように、誕生→成長→成熟 と段階があると言う指摘も『学習する組織』に共通しています。違いは、本書は組織に置いてどのようにコミュニティを位置付け、どのように扱っていけば、継続的な学習に繋げられるかを論じている点です。『学習する組織』では、学習単位をコミュニティとは限定しておらず、なんだかの組織単位の中における学習のためのツールについて論じていると言う感じでしょうか。しかし、『学習する組織』における「自己実現」を突き詰めると実践コミュニティ的な動きになると言う点で、それぞれ同じ価値基準で組織をミクロとマクロでとらえたような、一つの目標に対する相互補完的な解説の関係のようです。
本書では、実践コミュニティは、1) 領域 2) コミュニティ 3) 実践と言う3つの構成要素から成り立つとし、各成長段階における、それぞれについての運用方法を提案しています。とりわけ、実践コミュニティをサポートする「コーディネーター」の必要性を説いています。コッター的な文脈であれば、コミュニティ・リーダーがコミュニティを引っ張り、コーディネーターが実組織とのリンクや、ビジネスとの整合性といった、コミュニティの構成員が気持ちよく動けるように、縁の下の力持ちとしてのマネージメント的な役割を実行します。それらを、ゼロックス社や、フォード社と言った事例を交えて解説しています。『学習する組織』もそうですが、これらインフォーマルなコミュニティによる学習単位のアイディアは、寧ろアフターファイブや社内運動会などの<会社以外の>コミュニケーションを重んじてきた日本的企業経営にヒントを得られているように見えます。それらが分析され、こうして米国の企業で、まさに「実践」されて体系化され、Apple、Googleを代表するような米国ビジネスの成功に繋がっているとするならば、とても皮肉なことです。
本書の最終章では、世界を学習する単位として捉え、世の中を複数の実践コミュニティの集合体とする試みを述べています。そして、最も実践できる単位として企業組織を選んでいる(に過ぎない)とまで言っています。この文章には、個人的にはとても共感しました。社会起業のような実践も、実践コミュニティのインスタンスと考えるのは、私だけではないでしょう。世の中が本当の意味でボーダーレスに学習していく姿になっていくことが、本書の隠れたゴールでありましょう。
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社内コミュニティを構成し、知識経営を推進するための実践的教科書。
10年ほど前の書籍ですが、社内コミュニティの教科書として、組織の壁を越えられず、従業員同士の有機的な結びつきに課題を持たれている企業にとっては、学ぶべきことが多く記された良書だと思います。
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会社員であれば、読む価値があるのであろうが、大学生にとっては役に立つ可能性は不明である。卒論での参考文献にはならないであろう。
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2007/6/7
現在,大学で週一回,ビブリオバトルと言う名の,
書評会と研究会の融合会みたいなことをやっている.
そこで,Y君が紹介した,コミュニティ・オブ・プラクティスが第一回のチャンプ本に選ばれたので,斜めに読んでみました.
ハーバードビジネス書なんすが,実践コミュニティという部署を横断した比較的インフォーマルな組織をつくることで,
知識の伝播と創造を助けようという話.
僕自身の経験から言っても知識労働者が得る情報は定常業務の中ではいまひとつリッチにならなくて,
組織を抜けたところに初めて共鳴できる人材がいることが多い.
そういう意味で重要だとおもう.
IT使った一時前の形式知一辺倒なナレッジマネジメントに対する対立軸として非常に重要だと思う.
ただ,本書の言及できている点は実践的であり,深みや理論はそんなにないという感じもしました.
どーなんでしょうか.
ビジネス書と学術書はやっぱりベクトルが違うなあ.
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企業の内外での実践コミュニティに関する本。
かなり前にコミュニティ・オブ・プラクティスという概念を知って、それをイメージしながら、会社を超えた実践・学習のコミィニティを作った。
が、恥ずかしながら、こっちの本は、これまで読んでいなかった。
遅ればせながら、読んで、今となっては、当たり前な感じかな〜。
コミュニティの運営の難しさと面白さが、「そうそう」な感じでまとまっている。
新しい発見はあまりなかったけど、これから何か始めようという人には、参考になると思う。
この本の良いところは、コミュニティの良いところだけでなく、問題になりやすいところもちゃんと書いてあること。
そこもしっかりおさえるのは、とても大事。
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「流れる水は腐らず」と言うが
経験や技術、言葉では表せないような暗黙知は
『対話』という流れに乗せると
さらに高いレベルに磨き上げられ、新たな展開をみせる
『対話』は、その参加者に責任も主体性も規律も寛大さも求めるものだが
その覚悟を持って対話をすれば、持っている知識が磨かれ展開する
覚悟が持てなければ、対立して終わる
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既存の組織をまたいで、「有志」が「実践する」コミュニティを作ることの事例や、あり方を書いた本。
この本での実践コミュニティはどちらかというと「共通の技術基盤を持っている技術者が集まる」的なものを想定して書かれている感がありますが、有志活動にも十分通じるものがあります。
コミュニティを意味のある、継続的なものにするには放し飼いじゃだめで、
・4章に書かれている「コミュニティの発展と初期段階」では、
参加者に価値を提供できると認識されること(機会を逃さない)
・6章の「分散型コミュニティという挑戦」では、物理的距離が離れたコミュニティの難しさと必要なしかけ(上下関係を取り払い、F2Fの機会をつくる)
・7章の「コミュニティのマイナス面」では、コミュニティで起こる不調:コミュニティは参加者とそうでない人の間に境界を作るので、それが過度に排他的になったり、既得権益抱え込み集団になったり。
あたりの観点は「コーディネーター」がいないとうまく回らないよね、改めて思いました。
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「実践コミュニティ」=共通の専門スキルやある事業へのコミットメント(熱意や献身)によって『非公式』に結びついた人々の集まり。プロセスは予め計画可能。プラクティスとはプロセスとプロセスの間に行う仕事。
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原題は"Cultivating Communities of Practice"。CoP は開発するものでなく耕すもの!
社内のナレッジコミュニティ運営者だった2003年に読み、強く影響を受けた本。あらためて読んでも、いまに活かせる示唆がたくさんある。
2013年の今は企業に閉じない(実践)コミュニティが多く運営されるようになっている。以下に抜書きした点を整理して、それらの活動にも活かしていきたい。
<キーフレーズ>
★実践コミュニティとは何か(p.33)
実践コミュニティ(コミュニティ・オブ・プラクティス)とは、あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技術を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団である。
★構造モデル:「領域、コミュニティ、実践」(p.63)
実践コミュニティには多様な形態があるが、基本的な構造は同じである。実践コミュニティは、次の3つの基本要素のユニークな組み合わせである。一連の問題を定義する知識の領域(ドメイン)、この領域に関心を持つ人々のコミュニティ、そして彼らがこの領域内で効果的に仕事をするために生み出す共有の実践(プラクティス)である。
★コミュニティは学習する社会的構造を生み出す。強く結びついたコミュニティでは、メンバーが互いを尊重し信頼しているために、相互交流が活発で、豊かな関係が育まれる。メンバーは自発的にアイデアを共有し、無知を露呈し、厄介な質問をし、注意深く耳を傾けようという気になる。(略)コミュニティがなぜ重要な要素かと言えば、学習が理知的なプロセスというだけではなく、帰属意識にかかわる問題でもあるからだ。学習には頭だけでなく、心も必要なのである。(p.64)
#ここ、特に重要。「無知を露呈」できる安心感のないところではコミュニティは育たない!
★図4-1 コミュニティの発展段階(p.116-117)
実践コミュニティは持続的に発展していくものではあるが、われわれはコミュニティの発展には5つの段階があることを発見した。潜在、結託、成熟、維持・向上、変容である。(略)
コミュニティの発展は個人の成長と同じで、順調に進むことは稀で、痛みを伴う発見や困難な変遷、辛い経験からの学習などを伴うことが多い。(略)本書では、それぞれの発展段階に起こる問題点を、「2つの相反する方向性の間の、緊張関係」として説明する。コミュニティが発展するためには、これらの緊張関係に、一つ一つ順に取り組んでいかなければならない。
#以下は、図4-1 中の各段階での「発展を促す緊張関係」。なるほど!!
# 潜在…発見/想像
# 結託…孵化させる/今すぐ価値をもたらす
# 成熟…集中/拡張
# 維持・向上…所有/受容性
# 変容…終わらせる/存続させる
★コミュニティを立ち上げて、組織内のさまざまな領域を担わせるだけでは十分ではない。立ち上げたコミュニティが有効に機能しなければ、意味がないのだ。(略)戦略的な知識推進活動に取り組んでいる組織のほとんどが、コミュニティを構築し維持する能力を持つことの必要性を理解してい��。このような支援は2つの側面から与えなければならない。それは、支援専用のユニット??われわれは「支援チーム」や「コーディネーター・コミュニティ」と呼んでいる??を作ること、そして教育を行うことの2つの側面である。(p.297)
#ここで、コミュニティ・マネージャー・コミュニティの価値が出てくる!!
<きっかけ>
1回目は、各社のKM推進者4人で集まった頃に読んでいたのを覚えている(2003年1月に読了の記録あり!*)。2003年に読んだ本のうち個人的ベスト(えぇ本 of the Year)に選ぶほど影響を与えられたみたい。
その後、周りに薦めまくって誰かに貸したところ行方不明になり2冊目を購入。いまも、コミュニティ運営についてのバイブルだと思っている。
*…2003年1月当時のメモ(PalmV で移動中にメモしたもの)
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■コミュニティ・オブ・プラクティス/ウェンガー他 -1/?
・デザインの3要素
領域
コミュニティ
実践
・超える
・育成の7原則
進化を前提とした設計
内部と外部の視点
さまざまなレベルの参加
公と私の空間
価値に焦点をあてる
親近感と刺激
リズムを生み出す
・発展段階
潜在、結託、成熟、維持・向上、変容
・プロセスとプラクティス
・実践こみゅにてぃの効果
デトロイトの自動車
ボストンのフルート
・CoPの繁栄
自発的かんよ
内部の指導力の芽生え
・競争相手の存在!
・野村さん監訳!!
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組織のケイパビリティ獲得の手段として戦略的なコミュニティ形成の有効性を説いています。
ナレッジとは整理された静的な形式知だけでなく、人々の交流の中に動的に存在する暗黙知で構成されるというのは言われてみるとなるほどと感じました。
とはいえ自社に落とし込んで考えてみると、直接的に収益を産むことはない実践コミュニティの開発に組織がコミットメントするというのはなかなか難しそうです。
80年代の日本企業の活躍の背景にも同様の実践があったとのことですが、もしかすると分析され体系化されていく中で小難しい解釈として本書に落ちてしまっているのでしょうか。あまり身近な事例としては感じられませんでした。