紙の本
SF界の巨匠《科学屋》による異色作
2002/03/01 02:11
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:キイスミアキ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ある日から突然、ニューヨークの生活は混乱を極めることとなった。時刻が狂い飛行場は閉鎖、周波数が合わなくなってしまったためにテレビの放送もままならない。
やがて、「時間が本当になくなっている」ことが体感されるようになり、ある科学者が驚くべき可能性を口にする。
「別次元のエイリアンが我々の時間を盗んでいる」
《巨人たちの星》シリーズでお馴染の巨匠、ジェイムズ・P・ホーガンによる作品。の割りには、珍しいことに本が薄い。ページ数は解説やいつもよりも多く挟まれている既刊作品の紹介を含めても、200ページにすら満たない。さらに、物語の出だしからして少し赴きが異なっている。
あとがきを読んで、やっとこの違和感の原因がわかった。この作品は、友人たちとの会話の中から生まれたアイデアを元にして書かれているため、作中のそこかしこに確かなホーガンらしさがあるものの、これまでの作品と比べて妙な違和感が残ってしまう。これだけのことらしい。
違和感と言っても、悪いものではなくて、これまでと違うんだなという程度のこと。それに違和感の原因は内容よりもずっと、ホーガンにして異常なほどの本の薄さに起因しているような気がする。
量子的な調和が乱されているという事態に対して、一介の刑事が《時間の窃盗》という容疑で途方もない捜査を命じられる。このアイデアに、ホーガンは酔いしれてしまったのだろうか。別次元に住むエイリアンを、ニューヨークの刑事が追う。この突拍子のなさは、確かに面白い。
スピノザ、カント、アリストテレス、と哲学者の定義した時間の概念を勉強しつつ、主人公は時間の窃盗を調査していくうちに、何人かの専門家に会って話を聞く。その中には、超科学というよりは疑似科学とも言うべき心霊学の権威が含まれている。彼の胡散臭いことといったらない。SFの巨匠が書いた心霊学の権威が口にする台詞は、使用されている論理の奇妙さからしてとてもよくできている。
物語の中で、ものの考え方を変換するという大役を担っている女刑事のディーナというキャラクターが魅力的。その一方で、他の人物たちの印象がとても薄い。まるで彼女一人だけが顔を持たされているようだった。この作品はあくまで、時間の窃盗というアイデアを小説にすることだけを目的として、簡潔にまとめられた小説だということだろう。
ホーガンが気に入ったくらいなのだから、アイデアの面白さは保証付き。物語性に富み、科学の講義が素晴らしく濃いSFもいいけれど、《科学屋》の書いた小品を楽しむのも悪くない。
電子書籍
面白くないわけではないけれど、単純過ぎる展開
2015/12/22 01:12
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Yuko.A - この投稿者のレビュー一覧を見る
場所によって時間の進み方が異なる(正確には、時間が欠落する)という異常現象が発生、それを解決するというお話。解決を任された人物が科学者ではなく警察官という設定なので、解決策を相談しに行く相手が神父さんだったりして、面白い設定ではあります。ホーガンらしい、[異常現象解明の為の思考実験]の過程が緻密に描かれ(緻密というか遅々としていて、途中で一旦読書放棄しました)、一旦仕組みが分かってしまうと、後は一気に解決。物語の起承転結の「転」がなく、「結」の部分も5分で読み終えてしまうスピード解決です。面白くないわけではないけれど、少し単純過ぎる展開かなと思います。
投稿元:
レビューを見る
局所的に時間の流れが早く(実際には遅く)なると言う事件の解決を命じられた警官、という主人公像が印象的。テンポよくほいほい読めてしまうんで遠出の際に持って行く事多し。この作家の本の中では飛び抜けて薄い1冊では。
投稿元:
レビューを見る
「時間泥棒」と聞いて真っ先に挙げられるのは、やっぱりエンデの『モモ』。ファンタジーという形式を取りながら、現代を的確に風刺した『モモ』を真っ先に思い浮かべてしまうので、本書はちょっと物足りなさも感じてしまう。また、ホーガンらしい緻密な理論構築も、従来に比べて少々甘いような気もする。
それでも、主人公のコペクスキー初め、モイナハン神父やエーリンガー博士など、魅力的な登場人物の描写は、やはりホーガン、と思わざるを得ない。犯人である「虫」を、トラックに積んだ大量のエサで釣って回る、というコミカルな発想も、ハリウッド的で、エンターテインメントとしてはそこそこおもしろいと思う。
投稿元:
レビューを見る
高校時代、ラジオで聞いたのが最初なのですが、最終回を聞き逃し、ずっと気になっていたので小説を買ってしまいました。途中まではとても面白いんだけど、最後が「そんなオチ!?」って感じ。まぁ長年のモヤモヤがなくなったという点で、よかったかな☆
投稿元:
レビューを見る
題材としては初期SFに近い空気を感じつつも、題材への切り口はアメリカSF的な空気も持ち合わせている不思議な一冊。すんなり読めるけど、練りこまれた良質な作品でした。
事象の考察への切り込み方はホーガンらしいなという印象。ここらへんは星を継ぐものと同じかおりを感じました。印象的だったのが以下の一文。
「分かりませんね」とコペルスキーは答えた。「そいつはあなたの専門でしょう。ですが、なんでも頭から否定して、スタートする前にブレーキをかけようとするより、まず可能性を認めてその根拠を検討したらどうです? そして、どこに考えが落ち着くかを見てほしいですね」
この一文のすぐ後にもある通り、帰納的に考えるのではなく演繹的に考えるべきだという事を、ホーガンは星を継ぐものでも書いていた記憶があります。
ここらへん、ホーガン節だなぁとか思いました。
投稿元:
レビューを見る
SF好きとか世間様に公言して憚らない自分ですが実は古典、いわゆるクラシックな名作や大御所を全然知らなかったりします。と言うわけでそろそろ補完しよう、とまず薄めの本を購入して見ました。
物語の導入部分は推理小説みたいです。お話の核へとつながるのが非常に上手だな~と。時間が進み方が変わってしまう、と言うのも面白い。何せ登場人物が非常に魅力的です。あんな神父様ならキリスト教に改心してもよいかも知れない。うん。
投稿元:
レビューを見る
これがホーガン作品?
悪い意味で意外な作品。
あちこちで時間が短くなっていく。正確なのは巻き時計だけ。いったいどうなっているのか。
結論を読んでもぴんとこない。異次元の虫が時間を食っている? くだらないのひとこと。
投稿元:
レビューを見る
名作「星を継ぐもの」に比べると、物足りなさは残るもののやはり面白かった。私はホーガンの描く、数字や定理だけで表しきれない哲学的な表現部分にも心惹かれます。
働いて手に入れたいものは時間ではないのか?などをはじめとしてストーリーとは無関係ながら、心を刺激してくれる言葉がそこここにあると思うし、そういうものを読むたびに、SFってやはりロマンって気がします。
投稿元:
レビューを見る
なんとも奇想天外な発想。ブラウンを思わせるようだ。「星を継ぐもの」とは別人のようだが、ところどころハードSFの香りを残しているところがらしいか。
投稿元:
レビューを見る
ニューヨークの各地で時間が遅れていく。
とある学者は「エイリアンが時間を盗んでいるのだ」と主張するが…?
短めのお話で、若干突拍子もないオチではあるので、人によっては「え?」と思うかも。
人物描写が多めで、登場人物が魅力的に思えます。
個人的には面白いと思いました。
投稿元:
レビューを見る
ニューヨークの時間が何者かに盗まれている!?という導入部は、おバカSF的でいかにも面白い。そのまま時間泥棒さがしのバカミス(お馬鹿ミステリー)展開かと思いきや、意外にもスマートな解決法。それでも赤方偏移うんぬんは馬鹿馬鹿しすぎる(笑)。爆笑しながら楽しく読みました。
時間が盗まれる(消えていく)というテーマをファンタジー的に扱うとミヒャエル・エンデの「モモ」になるし、コメディにすると筒井康隆の「急流」になりますね。ホーガンの回答は新しい切り口だと思います。別次元の宇宙生物の設定はアシモフの「神々自身」を思い出させるところもあり。
「時間泥棒」には時間の流れ方の差による劇的展開は特にないので、ウラシマ現象のような時間SF特有のドラマを期待するとちょっと肩透かし気味かも。
投稿元:
レビューを見る
http://shinshu.fm/MHz/67.61/archives/0000306329.html
投稿元:
レビューを見る
ホーガン入門(?)として短くてさらっと読めそうだと思い読んでみたのだけど…
ちょっとさらっとし過ぎだったかな。
つまらないわけではないものの、事件がうまいこと解決し過ぎな感否めず。
投稿元:
レビューを見る
ある日突然ニューヨーク中の時計が遅れ始めた。
ある物理学者は「何者かによって時間が盗まれている」という仮説を立て、一人の警官が問題解決に立ち向かう。
時間が題材だがタイムトラベルやパラドックスを題材としていない珍しい作品。
作者のホーガンには有名な「星を継ぐ者」三部作があるが、本書は内容的にもページ数的にも息抜きにピッタリ。