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(2010.05.07読了)(2010.04.21借入)
太平洋戦争中にアメリカの日系人は、砂漠の強制収容所に収容されて暮らした。それまで暮らしていた家は立ち退かされ、所有していた財産はほとんどすべて放棄するしかなかった。ドイツ占領下のユダヤ人と同じような、・・・。ガス室での虐殺はなかった点は異なるけれど。
この戯曲は、カリフォルニア州マンザナ強制収容所を舞台にしたものです。
収容されるまでの状況や収容での日常生活などが演じられることを期待していたのですが、ちょっと違っていました。
収容所の一部屋に5人の女性が集められ、「マンザナ、わが町」という芝居を上演するように依頼されたというのです。
「マンザナとは、スペイン語で『林檎園』のことだそうです。」(10頁)
ソフィア岡崎、オトメ天津、サチコ斎藤、リリアン竹内、ジョイス立花、の5人です。
ソフィア岡崎は、ロサンゼルスの日本語新聞主筆でアマチュア劇団のリーダー
オトメ天津は、西海岸を巡回する移民農婦上がりの女流浪曲師
ジョイス立花は、映画女優
リリアン竹内は、歌手
サチコ斎藤は、ステージマジシャン
●捕虜交換船(46頁)
あの船に乗ることができるのは、日本にとってよほど大事な人か、さもなくばアメリカにとってよほど危険な人間か、そのどっちかに限られる
●真珠湾以来(47頁)
商店は私たちにものを売ってくれなくなり、「ジャップ」という声とともに石が飛んでくるようになった。肉親や大切な友達と切り離され、住むところを奪われ、仕事を奪われ、汗の結晶でありまた頼みの綱の銀行預金も押さえられ、そして子どもたちには学校さえなくなってしまった。
●食費の支給(49頁)
アメリカ背府から一人当たり1日38セントの食費が支給されている
●サチコ斎藤は、中国系アメリカ人(135頁)
わたしはエミリア・メイ・チャオリンといいます。中国系アメリカ人です。
カリフォルニア大学の人類学研究所助手。自分たちの戦っている相手はいったい何者か。人類学会がその調査を国務省から命じられ、マンザナへやってきたわけです。
●中国に対する日本(158頁)
日本が中華民国に21カ条の要求を突き付けられた中華民国の大総統は、「日本人はわれわれを豚か犬、あるいは奴隷のように扱おうとしている」といって涙を流しました。
●ルーズベルト大統領へ(169頁)
閣下の指令によって、日本人移民とその子孫は、財産をすべて奪われました。ヒトラーもまたユダヤ人の財産を没収しました。あなたはヒトラーとそっくりです。
また、閣下は日本人の血をひくすべての人間に商業活動を禁じました。ヒトラーもまたユダヤ人にあらゆる商業活動を禁じています。
さらに、わが国のほとんどの州では日本人の血を引く者と白人との結婚を禁じています。ヒトラーもまたユダヤ人との結婚を禁止しました。
●色はなんだって美しい(200頁)
「黄色は美しい(アジア人)」「黒も美しい」「白だって美しい」「赤も美しい(インディアン)」
井上ひさしは、アメリカだけを責めるわけではなく、日本が中国でひどいことをしていることも忘れないようにと言っているようです。
井上さんは、2010年4月9日、肺がんのため死去されました。冥福を祈ります。
☆関連図書(既読)
「親愛なるブリードさま」ジョアンヌ・オッペンハイム著・今村亮訳、柏書房、2008.07.10
(2010年5月8日・記)