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愛の領分
著者 藤田宜永
妻に先立たれ、一人息子を育てながら静かに仕立て屋を営む中年の男。28年ぶりに突然現れた、かつての親友。その妻で、むかし男が恋焦がれた女。そして35年ぶりに訪れた故郷で出会...
愛の領分
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愛の領分 (文春文庫)
商品説明
妻に先立たれ、一人息子を育てながら静かに仕立て屋を営む中年の男。28年ぶりに突然現れた、かつての親友。その妻で、むかし男が恋焦がれた女。そして35年ぶりに訪れた故郷で出会い、男が年齢差を超えて魅かれる絵描きの女。度重なる再会が、互いのあやうい過去を明らかにしていく。許したいけど許せない、忘れたくても忘れられないことが4人には多すぎた……。大人の男女の愛憎、心の陰影を妖しく描いた直木賞受賞作。母親への想いを綴った、自伝エッセイも収録。
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紙の本
臆面もなく同じような作品を書き続けることができる、というのが直木賞作家であることの証なら、なんてつまらない賞なんでしょう。藤田が例外であることを望みます
2006/05/08 21:06
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「妻に先立たれ、息子と暮らす仕立て屋の淳蔵。彼の前に旧友の高瀬が突然現れた。高瀬の妻美保子と関係を持ったことのある淳蔵の心は穏やかではない」恋愛小説。
戦略的に恋愛小説を書いていると豪語する作家の直木賞受賞作ですが、その傲慢な宣言に、もう読んでやるか、と思ったのは私一人。ま、小説さえ良ければ文句は言えないんですけどね、結局『絵画修復師』あたりが頂点だったかな、なんて思ったりして・・・
東京の港区白金でテーラー・ムサシを営む宮武淳蔵。彼は妻に先立たれ、21歳になる息子 信也と2人暮らしをしています。彼の元に、昔の遊び仲間 高瀬昌平が現れました。28年ぶりの再会ですが、探偵を雇ってまでして彼の店を探し当てたという昌平の真意が見えて来ません。淳蔵と高瀬の妻美保子が関係をもったことがある、ということは昌平には知られていないはずです。
そうした淳蔵の不安をよそに、高瀬が持ち出したのは、美保子が重症筋無力症となり、昔のことを思い出しては淳蔵に会いたいと言っているということでした。既に終わったこととして片付けてきたことが、今になって自分に降りかかってきます。昌平の服を作るという口実で、高瀬夫妻が住む上田の塩田平を訪ねた彼を待っていたのは病み衰えながら、昔の恋にすがる美保子の姿でした。
そして、淳蔵の父親が経営していた旅館で働いていた太一と、その娘の佳世の出会うのです。佳世の母の千代子は、淳蔵が子供のころに密かに恋心を抱いた女性でした。その面影を残す佳代、今は画を教え、何とか画家としても暮らしている彼女との出会いが、2人の運命を大きく変えていくのです。
昌平との過去、美保子との不倫、佳世の起こした事件、父親 太一の不審な動き。そして淳蔵の息子 信也の心の底、亡くなった妻の思い。それらが絡みながら、銀座、軽井沢などを舞台に愛の劇が繰り広げられていきます。過去とは、一方的に縁を切ることの出来ないものなのでしょうか。
53歳の男と、39歳の女、2人が巻き起こす恋の波紋。こうかくと如何にも美しい物語に思えるのですが『艶紅』のときと同様、決してすっきりする話ではありません。まず、淳蔵が自分の意思を殆ど見せずに、巻き込まれていく姿が、あまりに受身で、いい加減こういう男ばかり書くのはやめてほしい気がするのです。
50代の男は、不倫やその類のことしか出来ないのか、渡辺淳一にしてもそうですが、いい加減手垢にまみれたこの手の話しを繰り返し書いて、「戦略」などというのは、無能な経営者の戦略談義ににて、傲慢どころか噴飯もの。しかも、『絵画修復師』にみられた文章の香というものすらこれ以降の作品では消えうせています。北上次郎はこの前後から藤田の作品を絶賛しはじめますが、私には皮肉としか聞えません。同工異曲の濫作より、もっと心の底から納得できる恋愛小説を読みたいものです。