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組合vs経営。このテーマでここまでエキサイティング!
2012/07/05 08:01
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投稿者:のちもち - この投稿者のレビュー一覧を見る
一時金と深夜手当、地方新聞社における労働組合と会社経営側の凌ぎ合い。めったに見ないテーマだし、自分自身組合がある会社に属したのは20年前が最後なんで、その距離感を埋められるか多少不安に読み始め。
一般的に言われているような「新聞離れ」という環境の中で、一時金の確保と新聞社にはどうしてもつきまとう深夜労働に対する手当の攻防。組合側の要求も、現場で働くものとして十分理解できるし、会社側の事情も汲めるものがある。自分自身どちらにも寄らずにフラットな位置づけで読んでいたが、これがストーリーに惹きつける要因になったのかもしれない。
組合員の代表として会社側との折衝にあたる委員たちは、その会社の社員でもあり、自らの職務もあるんだけど、このストーリーの中では、委員としての活動に完全に焦点を当てている。内向的で人前でしゃべることすらままならない主人公の精神的肉体的な苦痛を通して、委員長はじめ組合の活動が表されるが、その旧態依然としていつつも、ルールに則った進め方や、組合と経営の間の埋まらない溝をどう狭めていくか、という委員長らの手腕、その「汗」「臨場感」がビビッドに伝わってくる。組合活動の事情に詳しくない自分でも、この「闘争」に手に汗握ったのだ。
決裂寸前までいきながら、窮地を救ったものは、すなわち交渉で最も大事なことは何だったのか。それが少しずつ見えてくる過程も心地よい。少々違和感はあるものの、つい涙腺が緩むような出来事、交渉の場で発言すらできない主人公の成長過程、淡い恋の話し、メインのストーリーと小さなスパイスの効き具合も快い。
人前で話せない、内向的な主人公、という設定も秀逸。会議でもひと言も発することができず、いつものことながら自己嫌悪に陥る彼が、最後に見せたパフォーマンス。睡眠時間を削り、他の委員から刺激をうけながら、それでも集中力を以てやり遂げる姿。彼の気持ちの変化、というところに焦点を当てても、魅力的な読み方ができるのだ。
組合を描いた小説、というとちょっと距離感を感じたり、自分とは無関係と感じるところもあるかもしれないが、実際に組合活動とは縁のない自分が読んでも、相当に引き込まれた現実、おそらく職場などでの組合に多少絡んでいる人は相当にエキサイティングに読めるのではないかと思う。
テーマとして魅力があるかは個別だけれど、直接は無関係なテーマでもここまで読んじゃう、そんなストーリー展開に著者の底なしのパワーを感じます。他の著作も読んでみたい、読み終わった直後からそう感じました。
【ことば】心身ともにきつい仕事を続けるのは、世の中にはニュースを伝える人間が必要だという強烈な自負からです。
過酷な労働条件のもとで働く人たちを支えているのは、このような自負心、プライドなのだろうと思う。「社会のため」と同時に「自分自身のため」にも、このような矜持であるべきだと思う。どんなビジネスのおいても、自分とそして「相手」がいなければ始まらない話。
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もしも宝くじで6億円当たったら私たちは働くのだろうか?1億円なら当然働くと答えるだろうが、6億円となると一生暮らしていくには十分すぎる金額だ。労働の目的の代表的な理由として、私たちは就職活動のさいに「御社を通じて、こういう事をしたい」、「社会に貢献したい」と語る。しかし高校、大学を卒業して就職してお金を得るという敷かれたレールに沿って走っているだけの人は多いだろう。だから給料は多いほど嬉しい。
相反して会社にとって、賃金とはコストでありカットする項目の一つである。近年大手のメーカーなどで何万人削減というニュースを頻繁に聞く気がする。会社員と経営者は根本的に同じ方向性を持ってビジネスを進めていく必要があるが、その方向性が一緒のようでずれて平行線になっていたり、全く別のベクトルに向かうこともある。本書では、経営陣VS労働者という泥臭い部分が書かれている…。
音楽を愛し揉め事を嫌う気弱な新聞記者、武井涼。憧れの文化部への異動をエサに、組合執行部に入るよう口説かれる。恐る恐る足を踏み入れた未知の世界は、怒濤の洗浄だった――!五百名の組合員の声を背負うプレッシャー、百戦錬磨の経営陣の圧力と迫力に押しつぶされそうになりながらの必死の戦い。「20年後、うちの会社残ってると思うか?」『盤上のアルファ』でのデビュー以来、最注目の新人作家が新聞社を退社して書いた渾身の長編小説。
私事ですが社会人一年目なので、労働組合と経営陣とのやりとりに関して全く見当もつかない。しかしながら、著者自身が新聞社で働いていたこともあり、ストーリーに生々しさが感じられ、話が受け入れやすい。ストーリーが扱うテーマ自体が地味なので、読んでいて楽しくはないかもしれない。
働くっていうことは何なのか私はまだ23歳なのでわからないが、守るべき人ができたらお金も大事になってくるのかもしれない。あと10年くらいたったら読んでみて感じるところがあるかもしれない。
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塩田武士の新刊であちこちの書評でも結構良い評判をとっているが、会社物語。内容は新聞社の秋闘交渉を機に組合活動に引きずり込まれた一人の記者が、交渉の過程を目の当たりにして成長していく過程を描くものだ。
著者はかつて神戸新聞者の記者であったことから、恐らく当時の経験が少なから本書に反映されているであろうとは容易に想像がつく。だが、果たしてこうした組合物語が今の時代にどれだけ通じるのであろうか?個人的には今から30年前に就職した会社がこういう組合活動をやっていたという記憶が残っているが、その後同社を辞めてからは一度もこうした組合活動を身近に感じたことは無いし、社会的にも既に組合活動は完全に過去のものになっているではないだろうか。
作者が敢えてこの時代に組合活動の教科書的な内容の小説を書いているのか意図が良く判らないが、失われてしまったものへの郷愁を誘う目的だったのだろうか?それとも真面目に本書で語られる組合活動内容とその議論の的である一時金、深夜労働手当などに何らかの意味を持たせようとしているのだろうか?
まさか逆に、夜間8時から10時までの間の新聞社の「深夜」労働割増金について不当に高待遇であると世の中に訴えるために本書を書いているとも思えない。新聞社の常識がどれだけ世の中からの乖離しているのかの距離感が掴めていないのではないかという違和感がつきまとって離れない。
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『がんばりましょう』と言うと上からだし、『がんばってください』と言うと相手に任せっぱなしに聞こえるので、『ともにがんばりましょう』という言葉で締めくくる。
労働組合がある会社を知らないので、入り込めるかなぁと思いながら読み進めました。
自分自身財務とかスタッフ系に長くいたので、労働組合側の主張ってわがままだなぁといい子ぶってる自分に気付き、自身にこのようなことが降りかかった時にきちんと自己主張が出来るのか、人任せにしてしまったり、面倒だから交渉しないなんて事にならないだろうかと、深く考えさせられました。
主張しないと損をするという『これまけてえや』と気軽に言う関西人気質みたいなものかなぁと思いましたが、私自身関西出身で、確かに家電量販店でも一言『まけられへんの?』と聞かずにおられない。
そんな軽い感じで読めちゃうのですが、意外と奥が深いかも。
さて、もう少し書いてみます。
価値ある情報を毎朝自宅に届けるというビジネスである新聞業界。
ネットが普及し、アメリカではどんどん廃業が進んでいるとか。
日本でも同様に新聞広告の価値が下がり、折込チラシも一時期よりかは随分と減っている。
スマホが普及しだすと更に電子版なるものに移っていくが、その場合新聞広告というものが取れるかというとそうではないだろう。
宅配する必要がないので折込チラシで収益を下支えする必要もなくなる。
でもネットからの情報は無料というなんとなく暗黙のルールというか価値観が醸成されつつある中、新聞業界の先行きについて不安に思う人も多いだろうし、経営者であれば可能な限りコストカットしないといずれ立ち行かなかくなると考えるのも自然。
そんな中みんな頑張っているし、生活もあるしという中で、それを守るための主張はものすごく熱い。経営側はそんな思いをホントに大事だと思って交渉をするのか、どうしようもないんだからと言えば相手が納得してくれると思っているのか…
気持ちのいい関西弁でのやり取りが続く文章は、懐かしさを感じつつ読めました。
読後感としては、完璧な人間はいないが、完全なる悪人もいない。
基本的にみんな良い人、一緒に頑張れるってイイコト。というあったかい気持ちになれました。
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労働組合を描いた物語。団交がひたすら続き、読んでいる方も疲れちゃう。
しかも、残業代カットとか普通に行われているこのご時世に、ここって、すごく恵まれた職場に思えるんですが・・・
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なにを隠そう、私は91年から05年にかけて連続14年間労組の中央執行委員という役職をこなして来た者である。別に好きでやっていたわけじゃない、好きでやるはずがない。毎月まる一日会議で潰れ、下手をすると関連会議や合宿、労働交渉、集会等々で、休みや仕事が終わった後の半分以上が潰れるのである。「私の青春を返せ」と言いたい。(←それでも何故やっていたか。成り手がいなかったのと、使命感、そして世界が広がる面白さである)
この小説は無謀にも、そういう労組活動そのものをまるまる描いている。労組員500人と言えば、私の所も正規(1番多い時は)500人、パート800人だったので、似ているとも言える。
ここでは、執行委員は一年交代だと云う。まあ、そんな所もあるだろう。しかし、いかにも非現実的な処が散見する。ろくな専従もいないのに、あまりにもスムーズに引き継ぎが行われる。新執行委員はみんなベテランのように労組の仕事をこなしている。それから、一般的に非労組員は、労組活動に無関心だ、この小説にもそういう記述はある。しかし、一般労組員があまりにも労組に協力的だ。新聞社社員となれば、忙しい仕事の代表選手だ。労組活動に見向きもしなくて当たり前だと思えるのであるが、なんと毎月の央委員会の前に支部長会議が成立し、中央委員会が実出席でほぼ全員で成立して、物凄く活発に意見が出るなんて、私の処ではあり得なかった(100人に6人の役員配置は妥当。本来は分会がないといけない。それにしても、分会長会議でも100%近い出席率は凄い)。こんな戦闘的な労組が果たして存在するのか。
また、これは提案ですが、回答がでてからやっと職場の声を経営にぶつけて事態が進展する場面がありましたが、団交は提出団交の時に「現場の意見」を最も出すべきです。私の処では、提出時に800人団交をした事もあります(←今は昔)。
経営者の対応や、交渉の推移もあんなもんだと思います。小説で読むとひつこいぐらい同じようなことを議論しているようにみえるが、労組対経営では、力関係では最初は情報量、人事権、等々で経営の方が上なのだから、あとは「団結の力」しか武器はないのです。ひつこいぐらいの議論がなくては、勝てないのが現実。(労使協調の労組とはそこが違う)普段、表に出る事のない労組活動をよくぞ小説にしてくれました。そのことだけは、感謝します。
これは、秋季闘争でしたが、最もきついのはいうまでもなく春闘です。是非とも春闘編まで頑張って下さい。ともにがんばりましょう。
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話し合いって難しい。話しているうち、相手の話を聞いているうちに本当に大切なことが分からなくなってしまう。
まして、立場が正反対の人が相手の場合、理解できないことも多い。
こんな状況の中で、自分が言いたいことを主張し、相手に分かってもらう。そして、相手の立場も理解しつつ、話し合いをまとめていく。
こんなにも大変でパワーのいることがあるのかと驚きながら読んだ。
話し合い。
自分の意見を理解してもらうこと。
人の意見を理解すること。
この本を読んで、そのすべての難しさを感じた。
同じことをやってみたいか。と聞かれたら、はっきり言ってやりたくはない。でも、やり遂げた時の達成感はすごそうだ。
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やっぱり塩田武士は間違いなく面白い。
「将棋」「クラシック」ときて、三作目は「労働争議」。
でも全然カタくない。 あちこちに散りばめられた笑いは、本当に面白い。 「笑える」というレベルじゃなく本当に笑う。
でもこの著者の凄さは笑いだけじゃなくて、物語自体の面白さもあるし、読むと「あぁこういう事が伝えたかったんだな」とストレートに響いてくる所。
まさか、ああいう場面で泣きそうになるとは思わなかった。 でも、いいシーンだった。本当に。
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それまで興味の無かった組合の役員に抜擢されてしまった若手記者の奮闘と成長そして恋。
元新聞社勤務の作者だけに、労使交渉での現場の主張は切迫感あり。
声を荒げる人や自己主張の強い人が苦手なので
文章でも言い争いの場面はザワついた気持ちになった。
巻頭の主な登場人物に
遥が載ってないのが一番の疑問。
【図書館・初読・8/10読了】
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関西の地方新聞社を舞台にした労働組合小説。
はっきり言って超異色ジャンル。
まあ、面白ければ良し!
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大阪の地方新聞社の労組を舞台にした団交物語(笑。労組のない中小企業に勤務する俺にははなかなか新鮮でした。大手は大手でまた大変なんですねぇ。ま、楽な仕事なんて政治家くらいなもんですか。
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私の職場も一応組合あり、加入もしているが、活動に参加することは少ない。このご時世、経営する人は、会社を潰さないよう考えるのが仕事。当然ながら、社員の賃金や手当てのカットを考えるだろう。でも、会社を支えているのは社員。カットによりモチベーション低下や離職する人がでたら、それこそ会社存続できなくなるし…難しい。
組合の意見もそうだそうたと共感し、経営側の言うこともうなずけた。
そしてふと、自分の職場も30年後、存在してるかなぁと考えた
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これは著者にとってなじみの深い、関西の大手地方新聞社を舞台とした労働組合の物語。
言ってみれば、今はやりの「お仕事系」小説の変わり種ということだろう。
そこはかとなく散りばめられた関西ならではのユーモラスなやり取りや、カリカチュアされた人物描写に東京もんとは一線を画すという矜持を感じるのは私だけだろうか。
内気で軟弱、文化欄で音楽記事を書くことを夢見る主人公の武井は、入社6年目の社会部記者。取り柄は筆が早いということと動物好きというところか。口先達者な先輩記者に囲まれての下積み生活のうさは、ネタ探しを兼ねた動物園の散歩で晴らしている。そんな夏のある日、あやしい人影が後をつけてくる、、、、
逃げる武井を捕まえたのは、新たに組合委員長に就任したばかりの寺内。狙いをつけていた教宣部長候補者が大怪我をしたというので、なぜか武井に白羽の矢が立ったのだ。逃げることの出来なかった武井は、文化部への転勤というエサと中途での辞退も可という約束に乗せられて新執行部の一員として活動する羽目になる。
そこから始まる、苦闘の日々が具体的なエピソードとともに語られていく、、、
地方新聞社らしい労使交渉のやり取りのさなかに、登場するちょっとおかしなエピソードはやはり関西ならではのもの。ふにゃふにゃした武井が次第に成長していく姿を追うグローイング。ストーリーとしての一面も、、、
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「敵は倒すためにあるんやない」「なんのためにあるんですか?」「歩み寄るためや」……組合の執行委員長寺内のことばは初めて交渉を体験した若い武井に沁みてくる。交渉の際に現場での声が次々に出てくるあたりが圧巻。
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いーんだけど、物足りない。読者の満足度という欲望は恐ろしいものですね(苦笑)
時折みせる文章の作者特有のキレの良さは、更に増してますね。
物語としては、一応一本の線になるのだけど、構成の流れに揺らぎを感じた。練る時間が足りなかったのかなと同情したくなる。
しかし、この調子で徐々に伸びて行って欲しい。今後も追跡する作家に入れときました。