商品説明
保育士を辞めてしまった29歳の由真の遊び友達は、フリーカメラマンのハツモ。はっきりいってイケてない。でも一緒にいると心が騒ぎ、女だてらに「すげえ!」と叫びたくなることに出会う。牛の撮影会、大声コンテスト、独りオペラの男……。お金も仕事もないけれど、お気に入りの瞬間をていねいに生きる二人の、のんきでシンプルな物語。
著者紹介
高田侑 (著)
- 略歴
- 1965年群馬県生まれ。「裂けた瞳」で第4回ホラーサスペンス大賞・大賞を受賞。ほかの著書に「うなぎ鬼」「鉄槌」など。
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紙の本
おー、上手い!
2008/11/22 23:59
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カフェイン中毒 - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近、内容重めの小説ばかり読んでいたので、気軽な感じで選んだ本。
「ハートウォーミングな話ね、きっと」と思い、
できることなら「自分探し」なんぞ始めてくれるなよと、主人公に念を送りながら読む始末。
すみません、あまり好きではないんです、そのテの小説。
29歳を目前に、職場で追い込まれてしまって保育士を辞めた由真。
幼なじみのハツモ(野暮ったい小太りのフリーカメラマン)とは遊び友達。
全然好みでない男友達なのに、ハツモといると心騒ぐことばかりでやめられないらしい。
たしかに、通常の男がけっして選ばないであろうスポットでの知り合い多し。
仕事で知り合っても、相手に壁を作らせない魅力でどんどん懐に入り込んでいき愛される男。
うわ、胡散臭いって思いました、最初は。
小説だからって、そんな安易な……とも。
ところが、最初の登場からハツモの虜です。
読めば読むほど「ハツモ、好き!」となってしまい、
由真が彼のことを、幼なじみから恋人へ、やがて結婚を意識する相手へと想っていく過程に、なんら無理がないのです。
読みながら「こんないい男、うっかり逃すなよ、由真」と内心エールを送りっぱなしでした。
「外見で勝負ができないけれど、とても魅力的な男」という設定であっても、
読んでいるこちら側が「ふーん、ヒロインにとってはそうなのね」としか感じられないと、
きっとこういう物語のおもしろさは半減するんだと思います。
なんとなく読み始め、気持ちよく読了できればいいなという程度の心構えだったのに、
途中、号泣してしまいました。
嗚咽が漏れて、なんだか泡食ってしまいました。
ちなみに、そういう物語ではないと思います。
泣いたのも、悲しくもなんともない場面だったし。
私、かなり弱っていたのかもしれません。
登場人物たちのなんともいえない優しさや気持ちよさ、魅力的な姿にKOされちゃったんだと思われます。
アタリの小説読んじゃったなあと、満足とともに次回作にも期待大です。
紙の本
ホラー小説で売り出すことは、短期的にはいいんでしょうが、長期的には疑問です。高田が書くものはホラー、って思っているとこんなにもフツーの小説を書く、それもきわめて現代的な。でもホラーだと思って手を出さない人も・・・勿体ない
2008/11/03 19:03
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
高田については第4回ホラーサスペンス大賞・大賞を取った『裂けた瞳』を読んだきりでした。その作品がどうとか言う前に、基本的に嫌いなんです、私、ホラーが。特に、日本的なじっとりしたものが。ところがです、今回の本、造本からして高田のイメージとは違います。
まずハードカバーではありません。クレストブックスタイルではありませんが、小口をきちっと裁断したお馴染みのソフトカバー。しかもです、色合いが明るい、っていうか地が白。「シャッツがイン」じゃありませんが「ジがシロ」なんです。装画も可愛らしい。担当をみると装画 進藤恵子、装幀 新潮社装幀室とあります。イメチェン?その通り、中身もホラーではありません・・・
主人公は私、城井由美、10月に29歳になります。保育士の資格をとって7年で、勿論、独身。今も両親、弟と四ツ谷の一軒屋に暮らしています。脳梗塞を患ったK-1好きの祖母も一緒くらしていますが、問題は父親はです。彼はマイペース人間、というか集中すると周囲が見えなくなることがしばしばあります。これには母親もなかなか慣れなかったそうです。由美はその状態を「抜けて戻ってこない」と呼びます。
ハツモこと初茂一幸は、由美の小学校時代からの幼なじみで、小太りのカメラマン。とはいえ彼は自分の好きなことをし、気にいったものだけを撮影して暮らしています。ハツモの容姿はともかく、彼の生き方や彼が案内する奇妙な場所は、他人はともかく由美は気に入っています。そんな彼は子供や動物、一度取材にいっただけの人たちから気に入られるという特長があります。
基本的には、周囲から見れば限りなく恋人同士である幼なじみの関係を、由美の側からのヤキモキした気持ちで描く連作小説で、各話に小さな謎が必ずありますが、ミステリとして読むよりはおくての青春小説、として読むほうが正しいでしょうし、気持ちよく読了できるでしょう。
空気を読むことのできない父親、以外に気配りをしている弟のほかに、気になる登場人物を書けば、まず沙耶がいます。由美の高校時代からの親友で、長身、スレンダーな美女で、バンドをやっていて、ギターを弾いていた無口な男とあっさり結婚して妊娠してしまいます。夫の和馬の実家は茨城の潮来で佃煮屋を営んでいて、実家に戻るという夫に従うべきか悩んでいます。
樋山一成は有名なプロカメラマンで、ハツモの師匠ですが、現在は、休養中。ハツモが一人前になったのは一成のおかげですが、現在のハツモの写真のよさを認めた上で、本当にプロとしてやっていくためには、好きなものだけを写しているだけではダメだと思い、仕事を彼にふります。
最後がスナック「みみずばれ」のママです。ママ、といっても会社を定年退職してからオカマバーのママとなった明るいオジサンで、いい意味でハツモのことが好きです。映画にしても原作の雰囲気を壊さずにいいものができると思うのですが、そのとき、儲け役は沙耶と、このママさんでしょう。どなたか、映画にしてください!
各話の簡単な内容ですが
第1話 オムライス:保育園を辞め無職になった28歳の由美を久しぶりに誘ったハツモが連れて行ったのは千葉の牧場。そこでハツモは牛の撮影をして、帰りに寄ったのが小さな洋食屋、そこで食べたオムライスのおいしいこと・・・
第2話 ポテト:無職になって四ヶ月、29歳になった由美がハツモから打ち明けられたのは、彼も失業してしまったということ。そんな時、由美の前に現れたのは昔好きだった平沢先輩。相変わらずカッコいい先輩は彼女の家に上がりこみ・・・(大声で牛を何匹鳴かせることができるかというコンテスト。リフォーム会社の営業、ハンバーグを食べずに大好きなポテトだけ注文するハツモの嘆き)
第3話 青いザリガニ:最近、ハツモに元気がない。原因は師匠の樋山から振られたフィリピンでの仕事にあったらしいとは分かるものの、彼は口をつぐんで何も語らない。周囲のだれもが心配するなか、由美は真相究明に乗り出すが・・・(凧揚げや、一度青いザリガニがとれたことで騒がれた小さな池でのザリガニ釣りと地元の子供たち、新しくみつけた財団の仕事と中館さんのこと、送別会で打ち明けられた息子さんのことと、保育士に戻りなさいという言葉)
第4話 フェイバリット:保育園に再就職した由美をハツモが連れて行ったのは日光の山中。道中で由美がそれとなくハツモの気持ちを確かめると「結婚?無理無理無理無理無理」とつれない。落ち込んでいる由美の家に沙耶が子供と家出をしてきて・・・(新しい保育園で問題児の存在、静岡で芝生を栽培している現場、その美しさ)
です。初出ですが、新潮社は相変わらず
〈初出〉
本書は、【新潮ケータイ文庫】で二〇〇五年十一月から二〇〇七年九月にかけて断続的に配信した作品に加筆修正をしてまとめたものである。
と、初出と加筆修正をごったにして一文にしています。何とかならんもんかのう、文芸の新潮社の名が泣くぞ・・・