紙の本
社会学大家の挑戦状
2015/12/21 06:58
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投稿者:タヌ様 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本は経済学者には評判が悪い。簡単言えば数理・統計社会学では大家なのになんで他分野に侵入して来たかという、経済学者からの気にくわない意識だろう。よって本格的に書評で取り上げたりしないで黙殺傾向にあった。
確かにマクロ経済学にいくつかに対してアレッと思うところもあった。ただ高橋洋一氏のようにマンデル・フレミングと行革だけでも大学教授であり、またエコノミストと評価される範囲で議論が認められているのに、盛山氏の理論建てをとやかく言い、黙殺は経済学の村意識であり、むしろ広範な議論を妨げている。
盛山氏の理論建ては自らの頭で理論を吟味して判断しており、その優れた頭脳は遺憾なく表れている。
ただ処方箋には少しきれが落ちる、結果、この点をかなり考えてしまうことになった。おそらく現実の実証数値とモデル化された理論のギャップというか、ターゲットと政策変数が理論建てほどではなく、政策効果のがっかり実感をおもちでないからだろうか。そんな風に思ってはいる。
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のっけから暗くて沈んでしまう感じの本です。
筆者いわく、
日本経済は脱出不能の四重苦の中にある。
【デフレ。財政難。膨大な債務残高。少子化。】
どれか1つに対応する策を立てると、他の1つが悪化するという、同時解決不可能状態。
デフレから脱却するには需要の拡大が必要。
⇒需要の拡大には減税や政府支出を直接増やすことが必要。
⇒だが、そのためのお金はない。
⇒借金をするにも国債はすでに膨大な金額だ。
⇒政府の歳出を切り詰めたとしてもそれはその分需要の減少となる。
⇒増税すると消費を控えさせてしまう。
⇒少子化による人口減少は需要そのものを減少させる。
⇒それは避けたいが、出産と育児の充実にあてるお金もない。
⇒若年層の所得向上につなげるにはデフレ脱却が必要
⇒それには需要の拡大が必要・・・・・・
と、全般にわたってこのように「もはや打つ手なし」な感じで書かれているので、日本の将来に希望が持てなくなってしまいます。
ですが、いわゆる世間で言われている「噂」みたいなものを、「そうじゃない」「根拠がない」とバッサバッサと切っていくところは、爽快な感じがしました。
以下はそのうちのいくつかです。
・「無駄の削減で景気回復」は神話であって、政府が支出しなければならないものまで削ることは望ましくない。そもそも何が無駄かは、人によって、また社会によって異なる。スパコンは無駄かどうか。宇宙探査は。
・「日本は十分豊かになったのでもう需要が伸びない」なんてことはない。
・1985年のプラザ合意により「1ドル約240円から約120円」という超円高となったその時からすでに、産業の空洞化は進み、国内の仕事は減少してきている。Made in Chinaが増えたのはこの頃。
・本当は当時からの「分不相応」の円高による不況が20年続いているのに、バブルがあったことで、バブル崩壊の後遺症による不況だと間違って認識されるようになってしまった。
・「GDPが増大しないのは労働者の生産性が上がらないから」はウソ。インドとスウェーデンのバスの運転手の賃金は50倍も違うが、それをもって生産性が50倍高いとはいえない。「車1台作るのに100人必要なのか50人でできるのか」という生産性の話と、GDPにおける生産性の話は違う。
・お金が増えても貯金に回してしまう状態の「流動性の罠」は、個人レベルの話。企業は貯蓄するのではなく「設備投資に見合った利益(需要拡大)が見込めないから投資しない」だけである。超低金利でお金が借りやすくなっても借りずに設備投資が増えないのは、儲かる見込みがないから。
・「潜在的成長率」といったものは架空のもの。正確なものは誰にもわからない。
などなど。
それで、結局、筆者としては、四重苦から抜け出すためには、
今後数年間は国債発行により政府支出を増やし需要を確保し、経済の安定的拡大が見込める状態になれば消費税を増���する。
という方向が望ましいらしいです。
内容が正しいかどうかは全くわかりませんが、経済の基本がなんとなく理解できるような気がする本です。これを読んで以来、新聞の経済関係の記事をよく読むようになってます。この先どうなっても、一日一日を一生懸命生きていこうと思いました。
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いろんな人たちの提言や理論をばっさり斬っていて面白い。
景気好転のためには、生産性の向上が必要で、そのためには投資が必要という理論の人。
また小さな政府が良くて大きな政府が悪いという考えは間違いで、正しい大きな政府は正義と思っている人。
最近、北欧の福祉国家関係の本を読んでいるので、この人の考え方は方向性として良いような気がする。
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昨今の経済問題である金融政策、財政赤字、デフレ不況、少子高齢化についてわかりやすく解説してあります。これで新聞の経済に関する記事は読み易くなると思います。大きな政府と小さな政府論が興味を持ちました。願わくば公私協働についての記述が欲しかったところです。
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「行政改革の遅れが、日本経済の弱さの原因のひとつである」という“常識”が、我々の政治や経済を眺める上での潜在意識の中に刷り込まれているように思う。この本はその行政改革の必要性を否定している。
次に、「失われた20年」の犯人探し。これまでに経済学者が述べている要因を並べてくれているので、これだけでも頭の整理になる。
その後に浮かび上がってくる真犯人の姿。“そうだったのか!”と言手を打つ感じ。
全体として、デフレを支える構造を俯瞰することが出来る、いい本だと思います。
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いろんな人の理論などを分析。ほとんど反論というか批判に近いか。
じゃあ自分はどうなん?
と思ったら、私は経済学者ではなく、社会学者だからと逃げるところも・・・
最期の章でようやく自分の考えを展開。
まず増税ではなく、国債発行でデフレを乗り切る。
それから増税を。
何ら目新しいことはなかった・・・
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学者、行政、政治家、アナリスト、マスコミ、評論家らが、日本のクアドリレンマ 四重苦 に対する解を出せずに経済論戦を繰り広げている。円高とデフレ、財政難、債務残高問題、少子化についての巷の議論を総括。筆者の解は竹中平蔵氏のそれに似る。
本書の考察は、これまで私が読んできた巷の経済論の分析、総括ともなっていた。とても納得感があり、かなり真実に迫ってきているのではないかと感じる。
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問題提起の仕方、問題の分析・整理の仕方、分かりやすい解説の仕方、どれをとっても素晴らしいし、マクロ経済という一般的には退屈な分野の話をとても面白く語ってくれている。
ただ、まとめの部分がいただけない。
日本経済が陥っている四重苦、デフレ不況・財政難・国の債務残高問題・少子化問題に対する処方箋を提示する部分なのであるが、結局、一時的に国債発行額を増やして景気を刺激し、税収を増やす。また、景気が回復した時点で消費税を含む増税をする。これらを工程表としてあらかじめまとめておき、提示した上で実行する。かいつまんで言えばそんな内容だと理解した。
そのこと自体は目新しいアイデアではない、例えば亀井静香でも言っている。目新しいアイデアではないけれども、別に悪いアイデアでもないと思う。そうなれば良いよね、とは思える内容だ。
ただ、工程表の中身が甘いのと、実証的でないところが、がっかりの原因。
2011年に国債発行額を大幅に増加させ⇒景気を刺激する⇒結果として2012年の名目経済成長率を4%見込む、というところが出発点なのだけれども、そんなことが実現するの?実現するとすれば、どういうロジックでそうなるの?という部分が全く説得的でないのだ。
素晴らしく面白い前半と、ややがっかりの結論。
でも、問題の分析やその提示の仕方はエキサイティング。読んで損はないと思う。
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絡みあう四重苦=財政難、デフレ、累積債務問題、少子化
無駄削減だけでは経済成長はしない=何に使うかが問題
失われた20年の犯人はプラザ合意以降の円高
潜在成長率とは後付の理論
規制緩和は需要が伸びることによって活力源となる=携帯電話とタクシー業界
国債の日銀引受と市中引受の効果の違い
小さな政府は誤り=社会保障などの分野は大きな政府が必要
生産性の向上は投資から生まれる
政府の投資によって民間の需要が喚起されないとケインズ政策は生きない
まずはデフレからの脱却=そのためには国債の増発=一時的な財政赤字が必要
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国債増発によるデフレ解消後、増税によって少子化対策や社会福祉の充実といった未来への投資を行うことで経済成長が望めるであろうという主張。
最近「経済成長は必要か否か」という問題が取り扱われることが多いように感じる。この本でも名目GDPなど指標を用いて触れているが、経済全体のパイの拡大によって本当に私たちは幸せになれるのだろうか。
本書で示されている中長期ビジョンについても、考える余地はまだまだある。
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盛山和夫氏は、理論だけやっていたり、理論も知らずに数値を弄るだけの社会学者じゃないので、信頼感があります。ただ、新書だけに詳細な議論が省かれているような気がして、少々?な部分もあることも確か。
例えば、増税について、累進課税の議論がびっくりするくらいお座なりで、かつ継ぎ接ぎだらけの歪な税制度には全く触れられていない。そんなにあっさり消費税の税率アップでいいのかって気がしますがね。
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本書は社会学者による経済書とのことだが、日本経済の混迷をわかりやすく解き明かしているように思え、高く評価できると感じた。
「失われた20年」ともいわれる日本経済の現状については多くの経済学者が著書のなかでそれぞれがそれぞれの主張を行っており、まさに百花繚乱の状況のように思える。そのなかでも本書の主張は、うなづける箇所が多いと感じた。
「日本が抱える四重苦」では、(a)デフレ不況問題、(b)財政難問題、(c)国の債務残高問題、(d)少子化問題を取り上げ、この4つの問題を「この4つの課題を同時に解決したいのだが、ひとつの課題を解決しようとすると他の課題の状況が悪化してしまう」とし、「クァドリレンマ(四重苦)」と表現している。まさにそのとおりではないかと思った。
本書は、その課題の内容を一つ一つ詳細に分析し、その問題をどのような優先順位で解決すべきかを主張している。その結論は「まずはデフレの脱却から」というものなのだが、説得力があると思った。
また、本書の「潜在成長率」についての主張は興味深かった。日本経済の成長率が低迷していることへの供給を重視する経済学者の見解として、潜在成長率の低下が原因であり、それへの改革がなければ、いくら需要を増やすために財政を投入してもいずれは潜在成長率のレベルに収斂してしまうから規制緩和が必要だという主張がある。それに対して、本書では「潜在成長率とはフィクション」であり、「それまでのトレンドを外挿して推定したものに過ぎない」と明確に断言しており、こちらのほうが説得力があると思った。
ただ、本書の最後に「具体的な戦略政策」のシュミレーションが載っているが、4㌫の名目成長率の想定は甘すぎるのではないかと思う。また現実の経済戦略には世界経済の動きやマクロ経済をも視点に入れた戦略が必要だろうから、本書のようにデフレ対策を最初に行えば、すべてうまく
四重苦が解決できるほど単純ではないだろうと思った。
しかし、本書は混迷する日本経済を見る視点として、読みやすく、わかりやすく、問題をすっきり整理できる良書であると思った。
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社会学者による本であるが、社会学のみならず、経済学の視点も踏まえて、社会保障の財源をどのようにまかなうか、増税はどのタイミングで行うかを考察した良書。ベスト候補。
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プラザ合意がもたらしたものは、アジア諸国での生産と競合する国内産業の衰退。地方に立地した労働集約型の加工組み立て工場は閉鎖、スーパーに並ぶものも廉価な中国製やベトナム製となってしまった。公共工事は地方経済をある程度支えはしたが、国家財政は有限であり、いつまでも続くわけではない。また、自動車、鉄鋼、家電、精密機器といった輸出産業は、二倍になった円レートでも国際競争力を維持するために必死の経営努力を続けた。しかし、その努力とは、結局のところ人件費の圧縮を中心とするコスト削減であった。戦後最長となったいざなみ景気の中にあっても労働者が豊かさを実感できなかった所以がここにある。加えて部品調達も安くするため膨大な雇用が海外に脱出することとなった。1990年から2005年にかけて最も従業者数を減らしたのは農林漁業を除けば製造業となっており、雇用の場を失った製造業従事者はサービス業などの第三次産業へと流れ、その分野の賃金水準の低迷をもたらすに至っている。日本は今、デフレ不況、財政難、国債問題、少子化問題の4つのクァドリレンマ(四重苦)にあるという。著者はクァドリレンマを踏まえたうえで、とりあえずは国債問題に目を瞑るとし、最終的には増税することとしている。具体的な工程表を示し論拠は端的明瞭であり信頼に耐えうるものと考える。著者の専門は社会学なのではあるが、多くの経済書を検証し、それぞれの論理の誤謬を著者名書名つきで論駁し、自らの議論を進めている。高橋氏、野口氏その他一流のアナリストがけちょんけちょんにこきおろされている。すこぶる笑える。政府の無駄をギリギリまで絞り取った上でなければ増税してはならないという議論に対しては、それは結果として永久に絞り取り作業に専念することになり、必要な投資がどんどん先送りされると指摘する。ぎりぎりまで無駄を搾り取るなどという神学的議論からは、即刻脱却すべしと訴える。けだし名言である。名言といえば、こんなフレーズもある。再生は不可能かもしれないという覚悟は必要かもしれないが、覚悟することとあきらめることは別であり、覚悟したからといって、あきらめなければならないということにはならない。思わず・・・・。
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日本経済がかかえる4つの問題がそれぞれ同時に解決するのが難しい、だから財政問題は置いておいて経済成長とデフレ解決を先にしようという論は納得感はある。
ただ、国債を日銀が引き受けるのが問題ないという点の根拠が薄弱に感じる。他の国がやっているから問題ないというわけではないし、そもそもアメリカの大規模な量的緩和などの影響が将来的にどう影響してくるかは不明。国際的な立場も異なるので、日本としては慎重で良いと個人的には思う。
また、国債を増発して経済を活性化するというが、問題はどういう手法で経済を活性化させていくかということで、そこまでの議論がされていない点も残念なところ。