数学から社会に連なるいくつかの溝
2011/08/14 14:00
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投稿者:ゆうどう - この投稿者のレビュー一覧を見る
「渋滞学者」西成活裕先生による、数学の授業。生徒は、東京都立三田高校の1年生12名。そういえば、新進気鋭の脳学者、池谷裕二による『進化しすぎた脳』(2004年)という本があった。ニューヨークの高校生に大脳生理学の最前線を講義する、という内容だ。本書と同様、こちらも朝日出版社である。同社お得意の企画のようだ。手軽な企画のようありながら、授業を受けてくれる学校と生徒を見つけるのは結構手間がかかりそうだ。もっとも、プラトンやアリストテレスに遡るまでもなく、もともと学問的な著述というのは講義録の類であった。すなわち、そもそも著述(本)とは、学校での講義が原点なのである。
本書のテーマはタイトルどおり数学で、あまり数式を使わずに、微分や三角関数の概念的な部分を講義している。微分は、スローモーションのように現実の動きを分解して考えることであり、三角関数とは、円を転がした時の円周上のある一点の動き方である、といった具合である。カオスとか複雑系につながるセルオートマトンの話も出てくる。
さらに発展して、数学をいかにして社会に生かすか、という点について説く。数学者が象牙の塔に籠ることなく、研究し、明らかになったことをいかに社会で役立てるか、ということである。その最適な例が著者の研究分野である渋滞学なのである。
また、実社会への還元の道筋として、数学から物理学、物理学から工学、工学から実社会という段階を示している。しかし、それぞれの間には溝がある。まず、数学者は理想的な世界を規定して思考するのに対し、物理学者は生の現実を相手にする。物理と工学の間の溝は、Why(なぜこうなるのか)ということに関心が向く理系的な志向性と、How(どうすれば解決するか)ということに興味を示す工学的な志向性の違いである。最後の溝は、研究の成果が社会のニーズにマッチするか、という点である。いくら優れた研究や技術も、社会で必要とされなければ日の目を見ないのである。
西成教授は、社会でいかに役に立つかということを常に念頭において、数理物理学を研究しているのである。
生活に活用できる
2016/12/27 11:40
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投稿者:ミスターマーケット - この投稿者のレビュー一覧を見る
数学は、計算や公式というイメージだったが、
日々のアイデア出しや問題解決などのヒント
となる学問と感じた点は、新しい発見だった。
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もともと高校生への特別講義を本にしているということで
分かりやすく、あっという間に読める。
わたしは数学が苦手なのですが
とっつきやすかったしとても興味を持てました。
こういう先生に数学を習うと
苦手意識も持たなかっただろうな~
数式をしっかり考えながら2回3回読みたい本。
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生きた数学の面白さを如何に伝えるかがこの本の趣旨。イメージ優先なのでわかりやすい。2日もあれば読めてしまう。厳密な記述を好む方にはこの本は必要はないでしょう。数学に興味はあるけど難しそうだなと思う人には特にお勧め。
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今日は数学の本を紹介しました。かと思うと「ひとり懐石料理」で盛り上がったり話題の幅が広くて良かったです。
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高校で挫折した微分が、今さら少し分かった気がした。でもきっと学生時代に聞いても、あまり変わらなかっただろうな。
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こういう考え方で数字を利用すれば、いろんなものごとを解決に持っていく、またはヒントになりますよ。
ということが書かれている本ですが、この本がとんでもなく役に立つことは無いかな(笑)
柔軟な発想を持って、数字というものをもっともっと理解すれば、とんでもなく数字は役に立つということ。
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「数学って世の中の何に役に立つの?」という誰もが持つ素朴な疑問に答えてくれる本。渋滞学という視点もわかりやすくておもしろかった。数学的な厳密さはないが大まかな読み物としてはおもしろいと思う。
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数理物理学、渋滞学が専門の著者による、数学を現実社会で役立てるための入門書。以下要点のまとめ。
・数学とは何か。数学とは公式である。公式とは論理である。「AだからB、BだからC、CだからD」が、論理。「AだからB」の段数が増えていくと、だんだん複雑になってくる。テレビでは、「AだからB」一段で簡単に説明することが求められる。数学ができる人は、「AだからB」の階段を一万段くらい耐えられる。論理の階段1個1個を非常に正確に登っていける。
・数学者はだまされにくい。「AだからB」という仮定があやしければ、疑うから。よく「健康食品でこんなに痩せました!」という広告があるけれど、そういうものにだまされなくなる。もともと痩せやすい人を選んだかもしれないなど、背後に隠されている前提に気づきやすくなる。因果関係を逆にたどって、背後にある前提条件を暴くことができるようになる。
・物理学では「何故こうなるか」が重視される。実社会と関わる工学では「どうすれば解決するのか」が重視される。
・微分は、物事を細かく分割して、スローモーションで解析する手法。積分は、微分のミクロ断片を積み重ねて、未来を予測する手法。どちらも実際の社会問題を解決するのに非常に役立つ数学。
・人間が集団になると、強大なエネルギーが生まれるが、衝動性、無批判性、道徳性の低下も見られる。
・人生は全てトレードオフ。工場で商品を作る時、できる限り正確に作りたいし、同時にスピードもあげたい。正確さとスピードは、トレードオフの関係にある。正確に作業しようとすれば、スピードは下がる。スピードを上げようとすれば、正確さが犠牲になる。どちらも100点満点を取ろうとするのはないものねだり。人生そう甘くはない。
・「正確さ、スピードどちらも70点でそこそこ満足しましょう」という考えを専門的に表現すると「複数目的最適化」となる。最適化したい目標が複数ある場合、どう行動すべきかを解く。解析や確率論などの分野で研究されている。
・あることが無駄かどうかは、「目的」と「時間」を決めることで判定すればよい。「いつまでに役立てばいいのか」という期間を設定しないと、無駄かどうか決められない。世の中無駄だらけと言う人は、この期間設定が短い。世の中無駄なものなんてないと言う人は、期間設定が長い。
・現在の社会システムは、経済成長を前提にしている。雇用など様々な社会問題は、経済成長すれば解決する問題ばかり。成長には限界があるので、経済成長なしでやっていける振動経済、「かわりばんこ社会」を推奨。景気がいい時と悪い時を交互に、周期的に繰り返す。好景気と不景気の波とは違う。景気の波は、長い周期で来る。もう少し小さな振動で、トータルで上に向かわない、成長率0%で小さくゆらゆらしている社会をイメージ中。
(所感)
高速道路の渋滞緩和で有名になった数学者による一般向け数学入門書。学会で渋滞学の発表を初めてした時は、聴衆0人だったとのこと。絶対負けないという強い気持ちで渋滞学の研究を粘り強く続け、現在は世界中の国々から、問題解決を求められる���場になった。
微分と積分なんて、実社会から遊離した純粋数学、使えるとしても理数系の専門分野限定ないと思っていたけれど、人生や社会の諸問題の解決に微分と積分が使えるとわかった。スローモーションにして出来事の断片を見つめる微分的思考、ミクロ断片を積み重ねることで未来に起きるだろう変化を予測する積分的思考。学生の頃は嫌いで、公式丸暗記だった微積分が、実生活に役立つテクノロジーになった。
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渋滞学を専門とする数学者が、高校1年生達に4日間に渡り「数学がどのように役にたっているか」を解説した記録。創り出された類型的な生徒ではなく、生身の学生相手なので、この形式にありがちな白々しさを消している。
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西成活裕東大教授がおくる,12人の高校1年生への4日間の特別授業。西成教授は,「厳密さといい加減さの両方がわかる,人間臭い数学ができる人こそが,今の社会に本当に求められている人物だと思う」と語ります。
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面白いと思ったのは、みんなが利己的に行動するのではなく他人を思いやって譲りあうと、社会全体での幸せ度が上がると数学で証明できる、という話。とんでもなく役に立つかはわからないけど、数学のイメージは変わる本だった。
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高校生への講義を本にしたもの。数学が私たちの日常にどんなふうにかかわっているか実感できます。ちょっと数学を勉強してみようかなと思わせる一冊。
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深いところはともかく、概要は文系の私にも理解できた本。数学の概略(代数、幾何、解析)、数学と実社会のあるべき関係(数学→物理→工学→実社会で、それぞれフィードバックをかけたループとなる)が述べられ、数学の重要性やそのポジションが分かった。また、実際の問題解決に必要なことは、1.対象の絞り込み、(何が問題か?)、2.(仮定する)、3.問題点を定量化する。という科学的問題解決へのアプローチの基本を再確認させられた。著者の今後の渋滞学の発展を期待しております。
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区画整理の換地計算式(権利価格式)が量化式であることを提唱し「価格」と「面積(地積)」の二律背反的な関係がこの本の「トレードオフ」の問題として述べられている『妥協するところ』が量化定数を与える。しかも存在量化でなければ数学的意味に乏しく全称量化の取り扱いは。数字的なつじつまあわせである。このことは。『とんでもなく役に立つ数学』に語られた事例の事象への数学への導入時の大切さを感じた。
量化式は、ネットの「文芸思潮」「作品の広場」「エッセイの広場」の
『量化って』を参照して下さい。