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光炎の人【上下 合本版】
著者 著者:木内 昇
【合本版特典! 『光炎の人』の創作秘話が読める、著者インタビュー付】時は明治。徳島の貧しい葉煙草農家に生まれた少年・音三郎の運命を変えたのは、電気との出会いだった。みなの...
光炎の人【上下 合本版】
商品説明
【合本版特典! 『光炎の人』の創作秘話が読める、著者インタビュー付】
時は明治。徳島の貧しい葉煙草農家に生まれた少年・音三郎の運命を変えたのは、電気との出会いだった。みなの暮らしを楽にしたいという思いを胸に、大阪の伸銅工場、東京の軍需工場と舞台を移しながら、彼は無線機の開発に没頭していく。そうして満州で無線機を実際に使うチャンスをつかむが、ある歴史的事件に巻き込まれてしまい――!? 技術の開発に携わるべきものが守るべき一線とは。圧倒的スケールの超大作!
※合本版の特典として、著者インタビューがついてきます。『光炎の人』の執筆に大きな影響を及ぼした出来事や、この作品に寄せる思いを知ることができます。
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技術開発の在り方とその責任を問う名作
2018/12/10 05:54
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投稿者:美佳子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『光炎の人』は、明治後期から昭和初期の日本の技術躍進期に徳島の貧しい葉煙草農家の三男に生まれ、小学校も卒業していない郷司音三郎が、徳島の池田にある葉煙草工場の職工、大阪の小宮山製造所の職工、大都伸銅株式会社の技師を経て、東京の陸軍お抱えの十板火薬製造所の研究員にまで上り詰める立身出世を描きながら、音三郎を通して技術開発における指標や理念とは何か、理念なき開発がどこに行きつくかを問います。
小学校中退という学歴ながら、自分の興味のあることはどんどん質問して先輩から学び、また図書館に通ったりして必死に最新知識を取り入れ、試行錯誤を続けてたその努力が今一つ報われないまま終わるのはやはり同情できます。自分より学歴のある同僚にライバル心を燃やして、国のためになるような大きなことをして彼らを見返そうとすることに執着したのがやはり道を誤る原因だったのだろうと思います。過分な競争心や焦りの導く先にはろくなことがないということをこの小説は教えているようです。
大都伸銅株式会社時代の音三郎の同僚金海が、「電気は素町人(阿呆)が使っても大丈夫なように安全を確保しなければならない」という理念のもとに安全器を開発し続け、ついに製品化し、外国からも引きが来るほどの商業的成功を収めるところが非常に印象的です。この金海という人は工業高等学校を出ていることをはなにかけ、職工たちを馬鹿扱いするかなり口の悪い鼻持ちならないキャラなのですが、それでも技術者としての責任をよく理解しており、その点に関しては決して信念を曲げないという、なかなか尊敬に値する面もあります。もちろんこの金海の「御託」が音三郎にはうるさく感じられ、また彼の学歴に対する劣等感が刺激され、ライバル心を燃やす余りに変な方へ行ってしまうきっかけにもなっています。この金海がもうちょっと職工を尊重する人で、伸銅一筋の触るだけで銅の表面の状態や空気の含有量まで分かるという職工の駒田のように音三郎が尊敬できるようなキャラであったなら、音三郎の人生も違ったものになっていたのではないかと思わなくもないです。
この長編小説の素晴らしいところは、大正デモクラシーや治安維持法成立の世間の受け止め方、日露戦争や第1次世界大戦と日本の景気や貿易の流れなどが丁寧に描写されているところです。また、音三郎の技術的試行錯誤も丁寧に描かれており、物理、特に電気関係を大の苦手とする私も何やら分かったような気になれるところも魅力的ですね(笑)著者も理系は苦手で、この点には非常に苦労したとのことです。木内昇氏はかなりのチャレンジャーなんですね。
合本版には著者とのインタビューも収録されていて、それによると著者はこの作品を書くにあたって、戦争と技術について思考を巡らせており、東日本大震災と福島第一原発事故が「技術の暴走」についての考察を深めたそうです。
この作品の中では「技術の暴走」はさほどしているようには見受けられませんが、音三郎という技術者は暴走していると言えるかもしれません。そしてその彼の技術を利用して関東軍が暴走を始める図式が見えます。