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忘却城 炎龍の宝玉
著者 鈴森琴
死者を蘇らせる術で発展した亀珈王国。儒艮が塾を開くために買ったのは札付きの幽霊屋敷。引っ越し初日から怪奇現象が多発し、同居する金魚小僧をおびえさせていた。そんな折、瀕死の...
忘却城 炎龍の宝玉
忘却城 炎龍の宝玉 (創元推理文庫)
商品説明
死者を蘇らせる術で発展した亀珈王国。儒艮が塾を開くために買ったのは札付きの幽霊屋敷。引っ越し初日から怪奇現象が多発し、同居する金魚小僧をおびえさせていた。そんな折、瀕死の炎龍が飛来。王都を大混乱に陥れる。神をもたない亀珈王国にとって、炎龍は至高の存在だ。龍語を解するのは蘇った死者と生きた人間の間に生まれた界人だけ。そこで急遽儒艮が通訳官に指名される。彼はいまや大切な家族となった金魚小僧のため、ある目的を胸に役目を引き受けるが……。独特の世界が読む人を引きつけて放さない〈忘却城シリーズ〉第3巻。/解説=井辻朱美
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紙の本
愛しているよと言えるまで
2021/01/21 13:41
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:usa_0814 - この投稿者のレビュー一覧を見る
亀珈(かめのかみかざり)王国という、死者を蘇らせる術を用いる国で、生者と死者のあいだに生まれた界人の儒艮が、私塾を開くために幽霊屋敷を手に入れたところから物語は始まります。ようやく塾を始めたと思いきや、死にかけた炎龍が都を訪れると、界人として龍の言葉を解する儒艮に王宮から声がかかります。
シリーズものの続編で、名前も舞台も設定も特異な世界でのお話にも関わらず、初めて読んだ読者が理解できるようにとにかく丁寧な描写や説明がされていることに感心します。界人の儒艮と、彼が連れている金魚小僧という少年が、これまでどのように生きてきてどのような経緯で一緒に暮らすことになったのか、この国の歴史がどのように続き、どのように政が行われているのかなど、あるいはこの世界の技術や生き物や風俗その他、とにかく丁寧に描かれていることに脱帽します。
巷にあふれるファンタジー小説と呼ばれる作品が、「魔法とかモンスターとか知ってるよね?」と言わんばかりに、何の説明もなく語られがちなことを思えば、本来これだけの親切さはあるべきだと思います。
ですが、この世界が好きでたまらない人にはご褒美でしかないこれらの描写が、あまりに丁寧すぎてそこまで語らなくてもいいですよと思わされたのも事実で、たとえば「千金全席」という単語はこの世界における「満漢全席」の意でつくられた言葉だと思うのですが、言葉の由来まできちんと説明してくれるおかげで世界観や雰囲気がよく伝わってくる一方で、話の筋とは必ずしも関係ない言葉をここまで描写する必要はあるだろうか?と思わされてもしまいます(私はこういうのは好きでたまらない人なので尚更)。
そして肝心のお話は、やや世間ずれした知識人の青年に引き取られた少年が、愛する(敬愛する)青年のために成長するという流れで、定番といえるかもしれませんが、だからこそ読んでいてしぜんに好感を覚えますし引き込まれます。むしろ見事だと思ったのは、登場人物一人一人の内面の描写で、素朴な感情から歪んだ愛憎、半ば狂気にまで達した性格までよくも描きわけられるものだと感心するしかありません。
この作品の中に登場する、愛している、という感情が、人も獣も人外も含む登場人物それぞれまったく別のものとして描かれていることを知ると、最後の「愛しているよ」も彼だけの言葉であることが伝わってくるのは見事としかいいようがありません。
人にすすめるなら、描写が丁寧すぎるのでこの半分の長さで綴ってほしい作品です。自分が読むなら、この丁寧な描写を隅々まで味わいたくなる作品です。