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紙の本
納豆を侮るなかれ。このネバネバが老若男女の健康に貢献することを、体質的/科学的に実証する納豆礼賛の書
2000/09/04 09:15
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:杉田宏樹 - この投稿者のレビュー一覧を見る
このところ連日のように新聞紙上を賑わせているのが、食品工場の異物混入事故の話題だ。雪印乳業の一連の不祥事に端を発したこれらの事件は、我々消費者の信頼を裏切る深刻な事態に発展しており、まだまだ予断を許さない状況である。そこで話のテーマは“納豆”。日本人にとって、朝食の食卓に欠かせない定番食品の地位を確立して久しい、最も厚い信頼を獲得している健康食品の代表格だ。著者の小泉氏は、酒造家に生まれた農学博士で、食や酒にまつわる著作が多いエッセイストでもある。書名の『納豆の快楽』からして、著者の納豆に対する並々ならぬ入れ込みようが伝わってくるわけだが、とにかく全編これ納豆づくしで、読んでいる途中に納豆料理で満腹になった感覚に襲われるほどだから凄まじい。何しろこの著者、中国とアメリカを仕事で訪れた25日間の旅行のために、何と67パックもの納豆を持参したというのだから、生半可な納豆フリークではない。さらに1か月以上の長旅の場合、自家製の乾燥納豆を準備すると聞くに至っては、恐れ入谷の鬼子母神。納豆を語らせたら、小泉氏の右に出る者はいまい。
いくら納豆が好きだからといって、そんなにたくさん持って行くだけでも大荷物でしょう、と考えるのは常人。ミヤンマー、カンボジア、パプアニューギニアなどを調査した際に、現地のオリジナルな食事を摂取して身体が危険を感知した時、すかさず納豆を食し、一行全員が事なきを得たという複数の事例が報告されると、納豆は薬と同じ効能があるのだなと納得せずにはいられなくなる。本書が優れているのは、著者の感覚と体験に基づいた納豆礼賛に終始するのではなく、食品学的な裏付けを提示した上で、好きで好きでたまらない素朴な納豆シンパという立場を表明していることが、読者の共感を呼ぶ点にある。納豆の美味しさをここで改めて語るのは、日常的に食している皆さんには野暮かもしれないが、本書を読むと納豆調理法の数々が紹介されていて、ひょっとして自分は納豆の本当の美味しさを十分に味わっていなかったのではないかとの気分に襲われる。あの北大路魯山人が、納豆の食べ方について、「納豆の拵え方は、ねり方のことである。(中略)かたく練り上げたら、醤油を数滴落としてまた練る。最初から醤油を入れて練るようなやり方は、下手なやり方である」との記述を残しているとは知らなかった。ぼくも納豆が好きだけど、納豆を器に移したらタレとカラシを入れて一気にかき混ぜるスタイルで何年もきてしまった。入れる順番の加減を変えるだけで風味が違ってしまうとは、本当に納豆とは奥が深いものよ。本書の後半には、納豆スパゲッティや納豆巻きといったお馴染みのメニューに加え、納豆サンドイッチ、納豆雑炊、納豆蕎麦、納豆デザートといったキワモノ(?)まで真顔で記載されているので、料理好きにはチャレンジし甲斐がありそう。納豆が少年の社会問題に対する解決の一助になるのでは、との著者の見解にはぼくも共感を覚えた。このネバネバは日本人の特権である。 (bk1ブックナビゲーター:杉田宏樹/音楽評論家 2000.09.04)