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商品説明
春秋時代の書籍成立から印刷本の誕生をへて明末の書物普及までの、二千年にわたる書物の文化史。書物を作る・売る・読む・蔵する等、出版の諸相に光をあてるとともに、知や社会との関係に注目し、全体像を描き出す。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
井上 進
- 略歴
- 〈井上進〉1955年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程中退。現在、名古屋大学大学院文学研究科教授。著書に「顧炎武」「三重県公蔵漢籍目録」など。
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紙の本
西欧に先立って書物文化を確立し印刷術をも始めた中国の長大な歴史を辿る
2002/04/18 22:15
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投稿者:佐々木力 - この投稿者のレビュー一覧を見る
印刷術と言えば、人は直ちに15世紀ドイツのグーテンベルクの活字印刷術のことを思い浮かべるかもしれない。しかし、最初の印刷物は韓国にあり、その直後のは、わが国の法隆寺にある。韓国の仏教印刷物は西暦751年に刷られ、グーテンベルクより700年は早い。そう言うと、東アジアのはせいぜい木版印刷であろうという反論が予想される。なるほど現存印刷物はそうだが、陶版や金属版のも知られていた。グーテンベルクのは、可動活字を合金で作製して書物を大量生産できるようにし、その後の西欧文化を大きく変えたのが新規な点なのである。このことは、カーターの名著『中国の印刷術』(平凡社東洋文庫)でも確認されている。本書の冒頭には、グーテンベルク直後の印刷本を見た中国人が、「何だ明版ではないか」と言って、それほど有り難がらなかったという痛快な話が紹介されている。と書けば、中国の悠久な出版文化の歴史がいかに面白いか想像がつこうというものである。
本書は、古代の竹簡の時代から、紙の発明を経て、木版印刷が普及し、さらにそれが一時的に衰退し、再度明末に隆盛を迎えるといった歴史を淡々と叙述している。印刷技術史というよりは、書物文化史と言った方がよいであろう。所々に面白いエピソードも紹介されており、たとえば白楽天が大変な「受験秀才」であった話などは愉快である。また、どれほど書物の生産が高価であったか、にもかかわらず筆写の時代から印刷書の普及によって、ある知識人が書物文化の低劣化を嘆いた話などが興味深い。著者にはもっと先に筆を進めて清朝時代や現代にまで歴史記述を成し遂げて欲しいものである。
しかし、省みれば、今、書物文化は大きな転換期を迎えている。コンピューター・メディアの登場によって「活字人間」は肩身の狭い思いを強いられつつある。新時代をいかに迎えるか心構えを作るためにも、本書は面白い読み物になるであろう。ちなみに、現代中国では若者たちが真剣に本を手にとり、本が売れているそうである。日本の書物文化の衰退と対照的な現象ではある。 (bk1ブックナビゲーター:佐々木力/東京大学教授 2002.04.19)