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商品説明
大正の文士たちは、血気盛んで高慢、自信満々だった。斎藤茂吉と永井ふさ子の恋をはじめ、志賀直哉、若山牧水らが繰り広げた当時の文壇スキャンダルを活写する。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
川西 政明
- 略歴
- 〈川西政明〉1941年大阪府生まれ。中央大学卒業。文芸評論家。38年間筆一本の評論活動を続けてきた。「わが幻の国」で平林たい子文学賞、「武田泰淳伝」で伊藤整文学賞受賞。
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紙の本
膨大、緻密な文壇資料の中で甦る女性たち
2010/05/22 17:59
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:碑文谷 次郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第一巻「漱石の死」で、龍之介、潤一郎など大作家たちの赤裸々な私生活を暴露したシリーズ第二作は、若山牧水にはじまり有島武郎までの歌人や小説家の「激しい恋」をメインテーマとして詳細、綿密に活写する。本人はもとよりこの「恋」の相手である女性たちについて素性を明らかにした上で、恋の馴れ初め、顛末、行く末に至るまで微に入り細に渉る執拗なまでの探索、考証は第一巻以上に迫力がある。
例えば「宇野浩二の世界」。最初に深くかかわった女性、伊沢きみ子の生い立ちから父方兄弟3人の履歴や環境(意外にも劇作家飯沢匡氏がこの中で登場する)も追うことによって、彼女のヒステリー性の根源を検証する。そういう丹念な作業のおかげで、若き宇野浩二が「女は魔物だ」というヒリヒリした体験をベースに「私小説の鬼」として着実に作品を作り出してゆく過程に説得力が出てくるようだ。後年、きみ子は「諸処流浪し」た果てに生来のヒステリーが嵩じて横浜で自殺するのであるが、従来の伝記にこの死の真相に触れたものはなかったという。著者(川西政明氏)が神奈川県立図書館で発見した「横浜貿易新報」によって初めて、「苦の世界」の作者を世に送り出した一女性の事故の経緯が明らかになったというが、こういう地道なフットワークは随所に実を結んでいる。
但し、著者は単なる実証マニアではないことは、志賀直哉と「C」の恋愛について述べる件にも明らかだ。すなわち、24歳の志賀直哉が結婚相手として恋心を打ち明け、この結婚に反対するなら両親や祖母までも捨てるとまで決意した相手の「C」について、志賀自身は後年出版される青年時代の日記中に実名を伏せた。しかし「C」の血族の人々は彼女が志賀と恋しあった仲だったことを誇りに思っていることを知った著者は、次のように云う。《いつまでもイニシャルのまま歴史の闇に埋めておくことはない。・・・幻の女性は「岡野 長」という光のあたる場所に出た。》こうして、私たちは「大津順吉」の一篇を「千代」でもなくましてやイニシャルの「C」でもない、生身の岡野長という31歳で夫の赴任先である朝鮮の地で一男二女を残して客死した女性との臨場感ある物語として読む自由を与えられたのである。
膨大、緻密な資料の中で細部の事実を見極めながら、このように著者はゆとりを持って事実とつき合っている様だ。そんな余裕の眼が、様々なスキャンダルにもかかわらず文壇の中で次第に成長してゆく若き作家たちのみならず、彼らとの「激しい恋」を経て自立してゆく女性たちにも活き活きと注がれている。さて私も、永井ふさ子に思いを馳せながら、斉藤茂吉をもう一度読んでみよう。
紙の本
人間らしいっちゃあ、らしいんですけど、当時の作家って何考えていたんだろう、まるで獣だな、本能のままに生きてる、これでよく刃傷沙汰が起きなかったなあ、と思うほど。無論、ゴシップ記事を読んでるようなものなので楽しめるんですが・・・
2010/11/06 18:31
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
シリーズなのでこの巻だけを採り上げる意味はありませんが、素晴らしい装幀です。カバーの色、うっすら浮かび上がる章のタイトル文字、シリーズタイトルと巻のタイトル、著者名の並べ方と字のサイズ、カバー表でタイトルなどを囲い込んでいた罫線がそのままカバー折り返しまで伸びていって、そこに内容紹介がはいるあたりのデザインの上品で、格調の高いこと。でも、岩波はこの装幀者名を明かすことはありません。ふむ、何でだろう・・・
カバー折り返しの言葉は
*
大正の文士たちは、大逆事件以後の時
代閉塞の状況を打破しようと、血気さ
かんで高慢、自信に満ちみちていた。
斎藤茂吉と永井ふさ子の恋をはじめ、
志賀直哉、若山牧水、島木赤彦、里見
とん、宇野浩二、広津和郎らの恋の実相
を、資料を博捜して探る。さらに、志
賀直哉と里見の絶交、葛西善蔵に秘
密を暴露された広津和郎の困惑、久米
正雄や佐々木茂索らが逮捕された文士
賭博事件、花形女性記者波多野秋子と
有島武郎の軽井沢心中など、文壇スキ
ャンダル事件を活写する。
*
です。最初にざっくり目次に目を通しましょう。
第八章 若山牧水と大田喜志子
若山牧水の三浦半島北下浦移住 牧水と大田喜志子の桔梗ヶ原の思い出 牧水の喜志子宛求婚の手紙 ほか
第九章 広津和郎の秘密
『奇蹟』の道場主義 広津和郎と神山婦くとの不幸な結婚 広津和郎の大きな秘密 舟木重雄の純愛 ほか
第十章 島木赤彦と斎藤茂吉
赤彦と静子の出会い 丹の花の恋 妻不二子の歌 堀内卓と望月光の死 桔梗ヶ原の別れ 歌壇制覇の夢 ほか
第十一章 志賀直哉と里見とん
稲ブランクリーという女性 「C」との恋と結婚の道筋 Cの本名 「大津順吉」神話 志賀直哉の女遊び ほか
第十二章 宇野浩二の世界
小説の鬼 伊沢きみ子の一族 炸裂するヒステリー 「蔵の中」と「苦の世界」で宇野浩二デビュー モデルの猫イラズ自殺 ほか
第十三章 有島武郎と波多野秋子の心中
波多野秋子と春房 秋子の生い立ち 夫は忘れられず、愛人は捨てられない もう一度寂しい日本の秋を見て死にたい ほか
参考文献
女好きの男たちが、ほかに仕事も出来ないから、とりあえず自分の情事を暴露する、それを同じように女好きであること以外に何も出来ない男たちや、自分が学生であるところに胡坐をかいて何もしようとしない男たちが支持する、それが私小説ではないのか、この本を読んで浮かんでくるのは明治・大正と続く作家たちの志の低さと下半身にモラルもしまりも何も無い垂れ流し人生です。
写真が多いのが嬉しいです。本の目次には記載されていませんが、奥付の前頁に写真の出典一覧がでています。大正の文士たちが血道をあげた女性の姿形を実際に見ることが出来るのは、下品といわれようと私の好奇心を満たしてくれます。いくら文章で美人と書かれていても、写真を見ればそれが嘘か本当かは一目瞭然のわけですから。
写真としていいのは130ページの白洲正子を写したもの。美人は、29頁の園田小枝子、64頁の栗林茂登、122頁の永井ふさ子、188頁の山中まさ、190頁の遠藤喜久、221頁の村上八重でしょう。写真ではその美しさが全く伝わらないのが波多野秋子、229頁を見ても、「この人が?」っていう感じです。でも、この人が行くだけで「書かない」と言っていた人気作家・巨匠たちが原稿を渡してしまうのですから、よほど魅力があったのでしょう。
それにしても、この本に登場する人間で、その行動を肯定できるのは、有島武郎くらいではないでしょうか。あとはみんな薄汚い。なかでも人格を否定したくなるのが志賀直哉です。こんな人間を小説の神様呼ばわりする必要を私は感じません。なんていうか、古いタイプの典型的な官僚、いや政治家で、自分の利益以外になにも考えない男。もちろん、倫理観や道徳観といったものは微塵もありません。法律に守られた犯罪者といえるでしょう。
ま、志賀だけをやり玉に挙げるのはどうもおかしくて、男社会の掟に守られた犯罪者という点では、斎藤茂吉・若山牧水・島木赤彦・里見とん・宇野浩二、だれを取っても同じでしょう。現在であればスキャンダルにまみれた下半身に締まりのない男として社会的に抹殺されているはずです。こんな連中の作品を名作として崇めたてまつる文学界というものの前近代性にあきれ果てます。
文壇史という名のゴシップ史。