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商品説明
橋川は「戦前」の自己を罪とし、三島は「戦後」の人生を処断した。時代に深く共鳴した特異でかつ象徴的な2人にスポットを当て、日本の思想史の一側面を照射し、なおかつ橋川の業績の一端を鮮明にする。『隣人』掲載を書籍化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
宮嶋 繁明
- 略歴
- 〈宮嶋繁明〉1950年長野県生まれ。明治大学政経学部政治学科卒業。フリーエディターなどを経て、編集プロダクション代表。
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紙の本
時代を語り継ぐために。
2011/06/18 21:31
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和45年(1970)11月25日、市ヶ谷の陸上自衛隊で三島由紀夫は割腹自決した。今でも、それは事件でありながら、文学界のひとつの出来事として日本史年表に記載されている。果たして、三島由紀夫が自決する3日前に亡くなった大宅壮一が元気であれば、どんな意見を述べただろうか。
そして、昭和47年(1972)4月16日、三島の師でもあり、ノーベル文学賞受賞者の川端康成が自殺した。
昭和39年(1964)、東京オリンピックが開催され、昭和45年には大阪で万国博覧会が開催された。オリンピック開催によって敗戦から立ち直った日本、万国博覧会によって経済的にも復活した日本の姿を世界にアピールしたものの、日本赤軍の「よど号」乗っ取り事件に三島の自決事件など、思想的には不安定であることを日本国民に自覚を促した。
昭和47年(1972)、グアム島で旧日本兵の横井庄一さんが発見されたことに戦争が終わっていないことを認識させたが、この年、沖縄は日本復帰にした。札幌冬季オリンピックでの銀盤の妖精ジャネット・リンに湧くことで日本国民は再び新しい時代を見たかったのだが、冷や水を浴びせたのが川端の自殺だった。
振り返れば、なんと忙しない時代だったのだろうか。しかしながら、超特急東海道新幹線のごとき時間の変遷は、「私」という幸せ探しを日本国民の全てがやっていただけなのかもしれない。手始めに、幸せとは物質的に豊かになること、物質的に豊かにならなければ個人の幸せはありえないと、実験的であったかもしれない。国家という枠組みに個人があると信じた日本人に、個人があって国家があると変換した戦後世代の模索でもあった。
いまや、芸能人の自殺に驚かなくなり、むしろ闘病する姿が称賛される。文学者の自殺は皆無に近くなり、むしろ一般庶民の飛び込み自殺が日常茶飯事となった。本書は三島由紀夫の自決に及ぼした橋川文三の影を考察する一冊だが、自殺するのが文学者の特権ではなくなり、老衰による「死」が当たり前になった時代、日本人は「生きる」ということを誰に、どこに求めればよいのかに迷っているのでは思った。三島由紀夫自決から40年が経過した平成22年(2010)11月25日、九段会館大ホールは「憂国忌」に集まった老若男女で満席だった。厳粛な儀式だった。まるで、生き方、生きる意味を自決してしまった三島由紀夫に問いかけるかのような真剣さがそこにあった。
正直なところ、無理やりに学者の論ずる理論の意味を理解しようとした学生時代に逆戻りしたかのような読後感だった。
しかし、三島由紀夫が自決した時代を知っている者として、再読、熟読、三読しなければならない書なのだろう。問われたならば、時代の空気を語れるほどになっておかなければならないのだと。