「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
- カテゴリ:一般
- 発売日:2018/11/20
- 出版社: 松籟社
- サイズ:20cm/252p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-87984-369-2
紙の本
宰相の象の物語 (東欧の想像力)
恐怖政治を布く強大な権力者が、ふとした気まぐれから一頭の仔象を飼いはじめる。街中を無邪気に暴れまわる象は、人々の憎悪を集め…。権力への民衆の忍従と抵抗を描いた表題作をはじ...
宰相の象の物語 (東欧の想像力)
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
恐怖政治を布く強大な権力者が、ふとした気まぐれから一頭の仔象を飼いはじめる。街中を無邪気に暴れまわる象は、人々の憎悪を集め…。権力への民衆の忍従と抵抗を描いた表題作をはじめ、ボスニアを舞台に紡いだ全4編を収録。【「TRC MARC」の商品解説】
旧ユーゴスラヴィアを代表する作家イヴォ・アンドリッチの作品集。
表題作「宰相の象の物語」は、権力者の横暴を耐え忍び、それに抵抗する民衆の姿を描いた中編。恐怖政治を布く強大な権力者が、ふとした気まぐれから一頭の仔象を飼いはじめる。街中を無邪気に暴れまわる象は、人々の憎悪を集め――
ほかに、アンドリッチが自らの「小祖国」ボスニアを舞台に紡いだ3作品、「シナンの僧院に死す」「絨毯」「アニカの時代」を収録。【商品解説】
目次
- 宰相の象の物語
- シナンの僧院に死す
- 絨毯
- アニカの時代
- 解説 イヴォ・アンドリッチ─作家と作品─ (栗原成郎)
収録作品一覧
宰相の象の物語 | 5−77 | |
---|---|---|
シナンの僧院に死す | 79−97 | |
絨毯 | 99−117 |
著者紹介
イヴォ・アンドリッチ
- 略歴
- 〈イヴォ・アンドリッチ〉1892〜1975年。ボスニア生まれ。外交官、作家。61年ノーベル文学賞を授与された。著書に「ドリナの橋」など。
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
みんな無邪気である。それゆえリアルで恐ろしい
2021/02/14 20:26
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:りんご - この投稿者のレビュー一覧を見る
表題作『宰相の象の物語』(1947年初出)について。舞台は現在のボスニアヘルツェゴビナのトラヴニク。1697年~1850年までオスマン帝国ボスニアの州都がおかれていた。時代設定はオスマン帝国末期にあたる1820年代とされる。当時、中央集権国家をおしすすめていたオスマン帝国は中央から(それまでの暢気でお人よしの宰相にかわって)新しい宰相をトラヴニクに派遣する。新しい宰相はどんな人物だろう、とうわさ話に花をさかせる民衆の間に、やがてこの人物の残忍な一面を物語る情報がもたらされる。それは、それまでトラヴニクで有力な支配者層であった貴族たちをことごとく虐殺したというものだった。一方で、新宰相はほとんど人前に姿を見せず、得体の知れなささと尾ひれのついたうわさ話とで、この宰相の残忍なイメージは人々の間で肥大化していく。そんなおり、宰相は異国の珍獣である「象(フィル)」を飼い始める。もちろん、トラヴニクの人々はまだ実際の象を見たことはない。悪意のない象は城館の外の町で無邪気に遊んでいるだけだけど、その遊びは商店街のいたるところを破壊してしまう。町の人々は、象の背後にいる宰相の残虐さを恐れ、手出しすることはできない。みんなの憎悪は次第にその象やいつも象といっしょにいる飼育者、宰相の召使に向かっていく…。
権力を行使する側である宰相は自分の職務に忠実である。趣味も、世界のペンや紙の蒐集くらい。だが、民衆に対しては無関心である。一方で、権力を行使される側である民衆は真偽ないまぜのうわさ話で権力者の正体を見極めようとみんなで盛り上がりつつも、翌日にはそんなことさっさと忘れて自分の生活に汲々としている。そのコントラストがうまく描かれている。筆者は、宰相の心の内を意図的に秘匿しながら、市中で無邪気に暴れまわる象に抑圧者と被抑圧者の接点をつくり出して、両者の緊張関係をより不穏に描くことに成功している。また、しばしばちりばめられているうわさ話は、当時の空気感を立体的に浮かび上がらせている。作品序盤に、とある豹のエピソードがでてくる。過去にトラヴニクに赴任していた宰相は豹を飼っていた。宰相の召使はその豹に、日常的に強いお酒を飲ませ、麻薬をまぜたお菓子を食べさせていた。そのうち豹は歯が欠け、病気の家畜のように毛が抜け落ち、肥満して発育不全になった豹は毎日中庭でねそべって、やがてみじめに死んでいく、というものだ。このエピソードは作品全体、また筆者が体験したナチスドイツ支配下の抑圧者-被抑圧者の絶妙な緊張関係を表象しているような気がした。
日本ではあまり知られていないノーベル文学賞作家の傑作である。