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加害者家族と被害者家族の苦しみ
2019/10/01 20:14
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ルカ - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは、加害者家族と被害者家族の物語。剣道を介して、出会ってしまった息子達。
ある日突然何かの拍子で、皆、当事者家族に成り得る。どちらの家族も重い十字架を背負う。
自分は笑ったり幸せになってはいけないの? 付いて回る怒りや苦しみには、どう向き合えば良いのか?
こういう事を深く考えるきっかけになった。重いテーマに、剣道が非常に効果的に働き、とても熱い小説になっている。
作者の筆力が今回も冴えていて、素晴らしかった。
電子書籍
夏の陰
2020/02/24 15:53
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投稿者:ハム - この投稿者のレビュー一覧を見る
被害者家族と、加害者家族の難しい立場の話で、単純に割り切れない難しい考えさせられる話になっていました。
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知ってる地名が多く出てくるので読んでみる。
第三章までとラスト~エピローグの熱量の違いは期待しすぎたからかもしれない。
第一章でかなり心の体力を奪われる…。
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剣士の表紙に「夏の陰」というタイトル。「陰」ってどういう意味なんだろう、「影」ではない意味は、と思いながら読む。
機動隊員を射殺した男の息子と、射殺された機動隊員の息子。剣道を通してあいまみえたた15年後。その数分間の二人の全てがまるで目の前で繰り広げられているようで。
機動隊員が撃たれた理由、「なぜ」の本当の意味を2人が知る時は来るのか。
あぁ、私が今すぐに教えたい、2人の今までの人生を取り戻すために伝えたい、という衝動。
いや、知らなくても乗り越えたのかもしれない、ふたりはもう。竹刀を交えたあの数分間の心のやりとりで。
私は、あの場面を読みながら実写版のピンポンのとあるシーンを思い出しました。卓球と剣道、全く違う競技だけれど、真剣勝負の本当の意味で命を懸けた戦いというのは、相手の心と自分の心が繋がるものなのかもしれない、と。
加害者家族がSNSなどで激しいバッシングを受ける。罪を犯したのは本人であって家族じゃない。なのになぜここまで叩かれるのか。
仕事を失い、学校にいられなくなり、近所からも隠れるように引っ越しを繰り返す。自分に何かできたんじゃないかという後悔、自分にも「罪人」と同じ血が慣れている恐怖。先の見えない絶望と、家族への怒り。
けれど、被害者家族にも同じことは起こっている。内容は違っていたとしても、そこにあるのはいわれなき攻撃。家族が死んだのになぜ笑って元気に過ごしていられるのか、という「正義」の問い。
「影」にはあるが「陰」には「光」がない。
いつか2人が光の中で自分の影を振り向く日が来ることを祈らずにはいられない。
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「夏の陰」
二人の宿命。
犯罪が生む悲劇を題材にし、死に囚われた二人の新たな生への出発が描かれている。花火が効果的に使われており、グッと締めるラストはお見事で、最後に伏線回収までされている。二人も良く練られていて、キーマンである柴田の存在は効いている。
殺人者の息子・倉内岳と倉内の父に殺された機動隊員の息子・辰野和馬は、共に死を抱えて生きてきたもの同士。二人は剣道を生きるために、強くなるために続け、自分のために、心を折るために、剣を振るう。
加害者の家族、それも岳は自身を人質に取られ、銃口を父に向けられた、と被害者の家族、そのどちらに立つべきか。自分は何も悪いことはしていないのに、家族だったという理由で、転居し、人目につかずに生きてきた岳。母までにも、父の顔を思い出すから会いたくないと告げられる。その心情を想像すると辛いものがある。
一本で、強い父を目指して剣道を続けてきた和馬の心情も強く伝わる。人生はいきなり変わると岳は呟くが、それは和馬にとっても同じこと。一瞬のうちに父を失い、転居を余儀なくされ、従姉からは、何故父が死んだのに笑っているのか、と罵られる(この従姉には納得はいかないが)。
二人のどこにぶつけていいか分からない怒り、どう消化して良いか分からずに抱える苦悩を図ると、どちらにも立ちたい気持ちになる。しかし、この気持ちは、岳と和馬が対峙する試合で昇華される。二人は陰から出て自分のために生きていくときにきていることを真剣勝負の場で語り合う。 罪が齎す苦悩や苦痛、そこから見えてくる息苦さは、二人の試合で浄化され、次なる生き方に繋がっていくのだ。岳と和馬は、また決して会うことはないだろうが、二人はこの試合を忘れることはないだろう。
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隠れるように静かに生きる主人公、岳。加害者家族であり、被害者でもある彼の心。父と同じ血が流れることに苦しみ、何故自分ばかり?と嘆き、恨み、それでも差しのべられた優しさに報いるように生きる様は、とても切なく、また力強い。死の重さ、生の重さ、罪の重さ、まざまざと考えさせられた。優しくまとめたエピローグが、すき。
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亀岡市内の運送会社で働く倉内岳は、仕事のかたわら剣道クラブで鍛錬を重ねる日々を送るが、これまで大会に出たことはない。岳の父はかつて息子である岳を人質としてアパートに立てこもり、警察官を射殺した直後に自殺した。父の暴力から逃げて、母とふたり隠れるようにひっそりと生きていたのに、それでも世間の目は岳を「殺人犯の息子」としてしか見なかった。
岳は、今度は他人の視線から隠れて息をひそめて生きるだけだ。自分の人生のすべてを諦めて。
しかし岳に剣道を教え、彼を世間から守り続けた恩人が病に倒れたとき、その願いをひとつ引き受けることになる。
彼の願いは岳の全日本選手権京都府予選出場。自分の剣道の腕は、いったいどこまでの実力なのか推しはかる。そしてそれは、事件の陰にうずくまり、隠れ続けた日々を捨て、自分の人生を歩んでいかなければならない時が来たという意味でもあった。
予選を勝ちあがった岳と決勝で対戦する剣士は京都府警の通称「特練生」と呼ばれる剣道のエリート、辰野和馬。彼こそが、岳の父の凶弾に斃れた警察官の息子だった。和馬は事件以来、父の死への疑問を抱き続け、ひたすら強さにこだわり、加害者の家族である岳への憎悪をつのらせる、頑なな青年となっていた。
事件から、すでに15年の歳月が過ぎていた――。
ある夏におきた立てこもり事件。その犯人と、彼に射殺された警官。彼らがそれぞれに遺した息子たちが生きる、地獄の季節。同じ日、同じ場所で加害者と被害者という違う立場で「父」を喪った彼らは同じ剣の道に縋った。
すべてを諦めるしかない。誰かを恨まずにいられない。そんな風にしか生きられなかった彼らの激情の発露のままに、決勝の場で激しくぶつかる竹刀が砕けて散る。打突の痛みは防具を超えて骨を貫く。
事件の加害者と被害者、さらに彼らの背後に連なる家族の存在に焦点を当て、しかし本質は周囲を取り巻く人々の無自覚の罪と罰を問う問題作。
最後の一行まで、必ず読んでほしい。
KADOKAWAさんの文芸情報サイト『カドブン(https://kadobun.jp/)』にて、書評を書かせていただきました。
https://kadobun.jp/reviews/759/90e9cae6
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☆☆☆2019年8月レビュー☆☆☆
久々に読んだミステリー。登場人物に感情移入して読むことができた。リズム感のある文章で、スラスラ読めた。最後は希望をもって終えているのもいい。
こういう物語が読めることは、生活を豊かにする素晴らしい読書体験だ。
この作家さんの次回作にも期待したい。
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犯罪者の息子と加害者の息子。
互いを相容れることなど決してないだろう。
息をひそめるように生きてきた犯罪者の息子、岳。
岳の父親に打たれて亡くなった警察官の息子、和馬。
どちらにもそれぞれの深い苦しみと哀しみがある。
それでも私は
父母の愛を知らない岳に感情を揺さぶられた。
和馬はちょっと、んー、ちょっとかなり
卑屈になり過ぎな感じも。
それでも、辛いよねぇ。
最後の二人の剣道の試合が山場なんですが・・・
和馬の警察剣道は勝つために必要なんでしょうが
試合中の怒涛の感情のやり取りがあるのなら
足ひっかけたりしないでほしかった。
理想だけれど。
剣道の試合では足ひっかけたり、
審判に見えないところでちょっと小突いたりはよくあります。
サッカーとかでもそうでしょ?
でも、私はこれが大嫌い。
そんなのするくらいなら負けてもいいじゃんと思ったりする。
勝つ剣道、警察剣道はそんな感じだと聞いたことありますが・・・
美しい剣道の所作が好きなんだけどなぁ。
そしてエピローグで泣けた。
剣道形の美しさや剣道の稽古、試合の描写はとても良かった。
2人の若者がどうか光をみつめて生きてほしいと
願わずにはいられない
とても心に残る作品でした。
装丁の剣士の右側からの立ち姿、
この角度が好きだなぁ。
初読みの作家さんでした。
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エピローグは、もしかしたら不要だったのではないか。また、登場人物達は、あまりに頑なではないか。
けれど、それは承知で読ませる。
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別居中だった父親が銃を持って自分を人質に立てこもり、警察との膠着状態の末、機動隊の一人を射殺しその後自殺した。そんな過去を持つ岳は息を潜め生きてきた。一方で射殺された機動隊員の一人息子和馬もまた過去に囚われ憎しみを懐に生きてきた。そんな彼らが剣道の試合で相見えることとなる…。岳視点の1章も和馬視点の2章も息を止め自分の心臓の音を聴きながら読み進めることになりました。3章以降は期待値が上がり過ぎたこともありあっさり読んでしまいましたが、とにかく素晴らしい筆致の作家さんです。今後の作品がますます楽しみです。→
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剣道ものは避けて通れません。剣豪ものではなくてあくまで剣道。
誉田哲也の「武士道」シリーズが本当に本当に好きで完結した時は悲しかったです。
そしてこの本は装丁からして剣道愛を刺激されて即読みでした。
殺人の加害者、被害者の双方の息子が剣道という共通の道で出会ってしまう。どうしても消える事は無い憎しみや悲しみをどうやって乗り越えていくのか、乗り越える事が出来ないのか。
剣道もしっかり書かれているし、加害者の息子が背負う大きすぎる十字架も、被害者の息子の癒えない傷も重厚に書かれていると思います。
ボリュームの割に整理されたエピソードがしっかりプロットされていて、僕的には大分好きな文体です。
まだ2作目のようなので期待大です。
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15年前の立てこもり事件で人質となった加害者の息子岳は、その後の人生を隠れるように生きてきた。
恩人柴田の元で続けていた剣道で、被害者の息子和馬を知ることとなる。
加害者家族と被害者遺族。
どちらも想像を絶する人生を歩むことになった。
岳は両親の愛情にも恵まれず、結果加害者の息子と言うレッテルを貼られ、その運命を恨まず受け入れていることに疑問を感じるほど不幸だと辛くなった。
一方和馬の癒えない傷の深さにも悲しくなる。
ただ、機動隊所属の父親の死を、別の捉え方が出来なかったとの疑問も感じた。
殉死なのだから、名誉でもあるはずで、そう思えなかったのは、助けた相手が犯人の息子だったからか。
複雑な心理であることは間違いないが…。
そして、エピローグ。
この事実は誰も知らないこと。
竹刀を持つ幼い二人の子供の姿が目に浮かび、胸が熱くなりました。
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倉内岳と辰野和馬が剣道で相対する物語だが、それぞれの出自が複雑だ.岳の父 浅寄准吾の暴力に愛想をつかした母と岳は逃げ出したが、居場所を突き止められ岳は拳銃を持った父の人質になり、母を探して飛び出したが保護してくれた警察官を父は射殺した.人殺しの息子として蔑まれることを嫌って岳は亀岡に移り、柴田や植木の支援で剣道を始めた.一方、和馬は幼いころから父の指導で剣道を始め、父の殉職を乗り越えて、京都府警で第一人者となった.ただ、父を殺した犯人の家族の存在を許すことができず、岳も剣道をやっていることを知り、対戦を望んでいた.剣道の経験はないが、試合の記述には真に迫るものを感じた.岳と優亜、和馬と楓のやり取りが緊張した物語の清涼剤かな.
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父にの暴力により苦しめられてきた倉内岳。その父が警官を射殺してしまう(その後父は自殺)、それ以降、目立たぬよう過ごしてきた岳。運送会社に努めながらも父同様暴力的にならぬよう剣道を極めていた。自分を剣の道に導いてくれた恩師・柴田の願いにより、選手権に出ることになる。そこで、父が撃った警官の息子と対戦することになる。
加害者の家族、被害者の家族がぶつかるもの。どちらも痛々しかった。殺されて、後に残されてしまった人の悲しみ、その悲しさ、深さは計り知れない、しかし、その家族の方と向き合い、戦うとき(しかも、喧嘩ではなく、剣の道での戦い)の心情が強く描かれていたと思います。大きなる苦しみの山を越えて、一歩踏み出せたところで終わり読後感は良。エピローグがよかったね、つながっているのね。