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商品説明
資本主義の発達と共に、娼婦が街を闊歩しはじめた! 娼婦の家計簿、ヒモの存在、娼婦の営業活動など、19世紀パリの娼婦の文化史を、小説、写真、豊富な資料で綴る。『角川学芸WEBマガジン』連載を書籍化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
鹿島 茂
- 略歴
- 〈鹿島茂〉1949年横浜市生まれ。明治大学国際日本学部教授。フランス文学者。エッセイスト。「馬車が買いたい!」でサントリー学芸賞受賞。ほかの著書に「悪党が行く」「パリ、娼婦の館」など。
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紙の本
ツタン・カーメンの王墓発掘として知られるカーナヴォン卿こと、第五代カーナヴォン伯爵が娼婦の話に登場するなんて、思いもしませんでした。でも、時代を考えたら日本の有名人だって・・・
2011/12/19 20:32
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
白黒ではありませんが、同系色の濃淡写真で、中央にはボンデージ風のファッションに身を包んだポッチャリ型の女性。時代や地域性もあるのですが、少しもお色気を感じないのは、写真の女性のせいか、私の偏見か。やはり、私は少女時代のようなスレンダーな美女がいいなあ、なんて思ったりもします。ブックデザイン関係者の名前を列記すれば
装丁 芦澤泰偉
扉絵 岸リョーサ
Yva Richard Lincontouranable dominatorice en cuir et fouet dans les maisons,1930
ちなみに、カバー後の写真は、フランス語全く駄目な私でもなんとなくわかります、1932年に発行されたランジェリーカタログに出ていた写真らしい。ふむ、さすが発祥の地、今のものといっても通用するデザインではあります。でも、こういう本はカバーむき出しで読むのは、やはり恥ずかしい。女性が車内で持っていても気にならないカバー、っていうのも少しは考えてほしいかな。帯には
*
シャンゼリセ、ブローニュの森、
アパルトマン。
資本主義の発達と共に、
娼婦たちが街を闊歩しはじめた!
19世紀のパリを彩った欲望の文化に迫る
小説、写真
豊富な資料で綴る
娼婦の文化史
*
と書いてありますが、写真の数は思っていたより少なくて、ええ? と思いました。で、私としてはやはり美しい高級娼婦の姿を写真で見ることが出来るのは嬉しい。例えば33頁のエミリエンヌ・ダラソン、なんとも不思議な雰囲気をもっと美少女のような女性。でも、困るんです、この人の名前ってその頁の本文に出てきません。出てくるのは頁を1枚めくった31頁。じゃあ、写真のある頁に登場するのは? マリー・デュプレシスなんです。出版社の言い分はあるんでしょうが、下手としか言いようのないレイアウト。
で、「高級娼婦への道」の最後で取りあげられ、「娼婦の「向上心」」の章の中心人物であるマリー・デュプレシスの写真は? これがない。まあ、私にしてみればエミリエンヌ・ダラソンの実際の顔を確認できただけでも感謝すべきなんでしょうが、なんだかなあ。で、この本に登場するもう一人の美女、それが51頁のリアーヌ・ド・プージィで、これはまたなんとも凛々しいお姿。で、こちらは文章も同じところにでているので分かりやすい。
実は、高級娼婦のポートレイトが本文中にあるのは、この二枚だけ。勿論、カバーにはふくよかな女性が載っていますが、正直、なんじゃこれは、という感じ。ほかにも、高級といった感じはしないこの手のご婦人がでている集合写真はあと数枚あって、なにも娼婦は美人ばかりじゃあない、普通の容姿の女性も沢山いたんだ、ということになって安心する向きもあるのでしょうが、私にはピンときません。
ところがです、本文中にこれらのタイプについての説明がちゃんとしてあるんです。参考までに引用しておけば
*
では、三人が象徴する三つの典型とはいかなるものだったのか?
「フェルナンドは『金髪美人』を代表していた」
ようするに、金髪で太り肉の、顔にはそばかすのある典型的なコーカソイドの代表だったのである。
「ラファエルは、マルセイユ生れ、港々を流れてきた女で『ユダヤ美人』という、なくてはならぬ一役を勤めているのだ」
ユダヤ美人とは、黒髪、黒目の情熱的なスレンダー美女のことで、「牛の髄の脂肪で艶をつけた真黒な髪の毛は、こめかみの上で鉤形をつくっている」のが特徴だった。
「あばずれ」というあだ名のついたローザは、「ころころとまるく肥り、全体が腹だけで出来ているような女で、それに極小の脚が附いている」というから、あまり格好のいい美女ではない。しかし彼女は、「朝から晩まで、しゃがれ声を出しては、ワイセツな歌と、センチメンタルな歌を交互に歌う」陽気な娘で、「笑声ときては、さながらキンキン声の瀑布で、ひっきりなしに爆発する」というから、要するに酒の入った場をもり立てるのに不可欠な明るい娘だったのである。
*
となります。モーパッサンの短編『メゾン・テリエ』に書かれているそうですが、ほかにもゾラ『ナナ』『獲物の分け前』、プルースト『失われた時を求めて』、コレット『私の修業時代』、バルザック『娼婦の栄光と悲惨』といった著名作家の作品から、ルイ・フィリップ『ビュビュ・ド・モンパルナス』、アラン・コルバン『娼婦』、ジャン・ロラン『メゾン・フィリベール』といった著作への言及や、それらからの引用も沢山あります。それとは別に、この本の中で繰り返し書かれることがあります。
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どんな分野でもそうだが、不景気の大波が襲ってきたときに生き残れるのは、価格帯が一番上のグループと一番下のグループであり、中間的な価格帯のグループはすべて淘汰されてしまう。
外食産業を例に取れば、何週間先でも予約の取れないミシュラン三つ星のグループか、さもなければマクドナルドということになる。
*
なんだそうで、売春の世界もこの例外ではないそうです。ただし、それ以外にもこの世界には大きな流れがあって、それが〈はじめに〉の次の言葉になっていきます。
*
だが、ここで逆に、娼婦は世界で最も最後まで残る職業かという問いを発してみると、どうも、そうではない、という気がしてくる。
将来において、女性の高学歴化と高収入化がさらに進み、「仕事と金」を男性以上に所有する女性が過半数を占めるようになったら、果たして娼婦稼業に敢えて身を投じる女性がいるだろうかと疑問に思うからだ。(中略)
前資本主義的段階の農耕社会では娼婦の数は多くはないが、資本主義が加速して都市化が進むと娼婦は急増する。しかし、資本主義が爛熟し過ぎると逆に娼婦の数が減り始めるというパターンが普遍的に見られる。はっきりとした統計はないが、女性の社会進出の著しい社会では娼婦は減少の傾向にあるはずだ。
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だそうです。ちなみに、私が驚いたのは、51頁に登場するリアーヌ・ド・プージィ嬢についての文章のです。このリアーヌ嬢には『わたしの青いノート』という自伝もあるし、『高級娼婦 リアーヌ・ド・プージィ』という本もある有名人だそうですが、ここに、えっ、という記事が出てきます。
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「カーナヴォンは変態だった。倒錯者だという噂だった。それでも彼はわたしを愛してくれた・・・・・・。彼は甘美にして恐ろしい愛人、魅力的で、冷酷で、優雅な愛人だった」
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というのがそれで、カーナヴォンといえば、ツタン・カーメンの王墓発掘として知られるカーナヴォン卿こと、第五代カーナヴォン伯爵、ジョージ・ハーバートなんだそうです。おお、有名人が・・・。