紙の本
青春小説という枠組みには収まりきらない、卓越した人物描写。
2022/03/15 20:29
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投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
極端なほどに負けず嫌いで常に成績がトップでないと気が済まない、宮田。
自身の家庭環境を何よりも恥じており、その事実をひた隠しにするため完璧な優等生を演じる努力を惜しまない、奥沢。
舞台となる女子校の中で頭一つ、二つ抜きん出るほどの優秀な成績を残す彼女ら2人には、教師や生徒たちから期待と羨望の眼差しを向けられていた。
しかし本当の彼女たちは、未来への焦燥や自らの境遇への絶望で今にも押しつぶされそうになっている。
目標や夢に向かって努力することでしか己の存在意義を見出せない彼女たちにとって、今この瞬間は通過点に過ぎない。
全ては未来のため。
大人や世間が言う、「良い人生」を送るために自らの本心を押し殺す彼女たち。
誰にも本心を打ち明けることなく、自らの力だけで未来を切り拓こうと必死にもがく彼女たちの姿は、痛ましいと同時に歯がゆい。
周囲の人間のみならず当事者である彼女自身たちでさえも、いや当事者であるからこそ、そうした苦しみや絶望を背負っているのは自分だけだと思い込んでしまうのだ。
傍らには自らと同じように葛藤し苦悩する人物ばかりなのに。
宮田は奥沢に、奥沢は宮田に対して自らが持っていないものを相手は持っていると、妬み羨む。
自分の欲しい全てを持っている相手が、まさか自らと同じように苦しんでいるとは露ほどにも思っていない。
自分だけが、という誤った認識。
抱える苦しみは違えど、苦しみを抱えている点では同じなのに、それに気付けない。
誰もが孤独でありつつも、顔を上げて周囲を見渡せば同じように悩み苦しんでいる人はいる。
孤独であるという事実は変えられないかもしれないが、同じ孤独を抱えている人が自分以外にもいるという事実にどれほど救われることか。
青春小説の王道でありつつも、老若男女問わず心の琴線に触れる一冊。
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
女子校が舞台となると、なんとなくドロドロしたものがありそうな予感でした、すると、秀才と天才の女子二人の登場で……、しかし、それぞれ、悩みがあって……と展開していきます。宮田視点、奥沢視点、みなみ視点から。
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Amazonの紹介より
12歳の春。東京出身の宮田佳乃は、家庭の事情で北海道にある中高一貫の女子校に入学する。しかし、秀才でプライドが高い彼女には、受け入れ難い進路だった。一方、地元出身の奥沢叶も、新入生総代に選ばれるほどの優等生。パッと目を引く美少女で誰もが羨む存在だが、周囲には知られたくない〝秘密〟があり……。思春期の焦燥や嫉妬、葛藤をふたりの視点で描く、青春長編。
新しく出来た女子校を舞台にした青春物語で、初めてで味わう憧れや勢い、時が経ってからの苦悩や進路など学生時代に味わったモヤモヤ感や焦ったさ、ワクワク感といった心理描写が丁寧でした。
女子校というと、勝手な想像ですが、嫉妬やマウンティングといったダークな部分を想像していました。しかし、この作品ではそういったことは程々に、「青春」を前面にお互い切磋琢磨していく姿が垣間見えました。
大きな盛り上がりはありませんでしたが、逆にリアルっぽくもありました。
主に学校生活の初めと終わり辺りを描いており、所々端折っている感はありましたが、それぞれが味わう学校生活は貴重な体験だと思います。
自分は共学でしたが、女子校は女子校、男子校は男子校、それぞれでしか味わえない「何か」があったと思います。
読んでいて、あの頃の自分に戻ってみたいなとも思いました。
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中高一貫の女子校に通う宮田と奥沢。それぞれに事情があって北海道の田舎の学校へ。中学生の無邪気な空気と誰にも知られたくない心の内。友達との時間、比較、焦り。そういうたくさんの感情が様々な場面で顔を出す。理解し合えないと思っている二人が少しずつ変わっていく中盤以降がとくに面白い。中学生から高校生になるまでの間の変化、他人との距離、将来のことと青春小説の要素たっぷりで読み応えのある作品。書店でなんか気になって取った一冊がこんなにも印象に残る作品になって嬉しい。
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二度と帰ってくることのない青春時代への憧れ。若く、多感であることはそれだけで素晴らしいこと。
今になって思うことは娘息子に対して、この価値観を知った上で接してあげること。中学生になったら女に読ませたい。人生は素晴らしい。
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青春小説。
中高一貫女子校の第1期生として入学した2人の主人公。1人は見目麗しく優しく成績も良い子、もう1人は背が高くピアノが弾けて成績も良い子、だけど2人には誰にも話せない秘密があり…という話。面白かったし続きを書いてほしい作品
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読後、メテオラの意味を調べて、「崖の上の修道院」だとわかったときは痺れた。
子供扱いはされないけど、大人たちに守られていて、成長するため、勉強するために過ごすことができる場所。そして家族や家庭以外の自分の居場所。彼女たちにとってあの学校は、外界から隔離された特別な居場所で、崖の上の修道院のような空間なんだろうなあ。
宮田に対する杉本の言葉がとってもよかった。仕事に追われて、社内の評価を気にして、正直現実逃避のために本を読んでる部分もあるけれど、仕事や社内の評価だけがわたしを形作っているわけではないよなあ。
毎日心を殺して過ごしていると、こんな当たり前のことにも気がつけなくなるよね。宮田もそうだったんだろうなあ。
わたしは宮田が目指していたコースを辿ってきた人間で、だから彼女が、本当にやりたいことってなんだろう、将来何をしたいんだろう、とはたと立ち止まるところは本当によくわかってしまった。自分にとってゴールが高いところにあると、そして周りからそのゴールを達成することを強く期待されると、なぜそのゴールを達成したかったのか忘れてしまう。何をやりたいかではなく、「あの学校に入る」というゴールそのものが目的になってしまって、それ以外のことは見えなくなってしまう。
わたしは大人になるまでそんな状態に気がつけなくて、大学を出て、なんなら社会人になって、本当にやりたいことって、好きなことってなんだろう?と考える始末だった。だからその分、ピアノへの情熱を素直に受け止めることができたシーンは印象深くて、うらやましかった。
級友たちの描写もステキだったな。馨が伴奏を宮田に譲るところなんて本当に温かかった。
気が合わないことや、気に食わないことがあっても、級友たちがお互いを尊重しているところは、なんとなく母校に似ていて懐かしかった。舞台となるこの学園も、彼女たちにはとても居心地がいい温室のような場所なんだろう。
なんだかとてもいい本を読んだ。
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すごい良かった、、
自分と比べて他人は眩しく見えるし、今の自分の現状に満足できない時、環境のせいにしたり自分を卑下してしまうことがよくあるけど、自分にとっての当たり前は誰かにとっては手に入れたくても手に入れられない特別なものかもしれないし、誰もが大小さまざまであっても人知れず悩みを抱えながら必死に生きているんだと気づかされた。自分が思い描いていた未来を生きられていなかったとしても、そこで今に根を張って花を咲かせることはできる(解説より)、この言葉に救われたし小説読んだあとに少しだけ人に対して優しくなれると思うから読書って最高の体験だし素晴らしいと思えた、この本に出会えてよかった!!
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桜を待つ春の北海道、キラキラが散りばめられた空気の中の中学生になりたての女の子たち
新設の中高一貫の成績優秀な二人の正反対の女子、天才肌の宮田と優等生の奥沢。二人の学生生活のキラキラにはガラスの破片が混じっていて、それは時々気がつかないうちにお互いを傷つけていた。
極端ではなく「ありそうな」家庭のもめごと、ふとしたときの劣等感、焦燥感に共感した。中学生だった昔のことを思い出す。私も彼女たちだった。
安易な終わり方じゃないのが良かったです。
十代女子に読んでほしい一冊です。きっとどこかに自分を見つけて共感できそう。
志村貴子さんの絵に惹かれて手に取りましたが良かったです(*´▽`*)
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反発する2人の少女の似てるようで似てない苦しみ。個人的には不完全燃焼感が残る。こんな終わり方があるなら、他の物語も途中で終わらせても許容されちゃいそう。この話には続きがあるはずと思える終わり方。
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女子校、ギフテッドな2人の少女と
友人たち
自分も抱えつつ他人が背負ってるかもしれないものに想像力を働かせることの難しさ
他人が個人になっていく過程がすごく良かった
著者も内容も北海道がらみでうれしいです
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本のタイトルがうつくしくて手に取りました。気がづいたら登場人物たちを頑張れ、と応援していました。じゅうぶん頑張っているのに。大なり小なりある、人には言えない、わかってもらえない、と諦めたりつぐんだりしているひみつ。それをほどいたり、紐解いたり、受け止めたり、乗り越えたりして私たちは生きているのかもしれません。
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「金木犀とメテオラ」読了。
北海道の中高一貫校が舞台。
優等生の二人でも思春期ならではの自尊心と劣等感、嫉妬がある。
自分は決して優等生ではないけれど、
中高生のころを思い出して心がヒリヒリした。今思い出すと何でもないようなことが重要に思えた。
彼女たちのその後が気になる。
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親ガチャ。
無い物ねだり。
誰にも言えない秘密を抱えている二人だからこそこんなささやかな奇跡とかじゃなくて王道でも良いからもっと大きな奇跡を起こしても良かったのでは。
構成が悪過ぎるように思う。
主人公二人の家庭の事情を知るために割かれたページ数の多さに対しての救いがほんとに些細なものなので、読んでる身としてはこんなもんじゃ足りねえ〜〜〜〜〜に尽きる。
彼女たちを大人のように背伸びさせる理由があまりにも辛いのにこの結末では正直全然足りないと思ってしまった。
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あなたには、『絶対に、奥沢に首位は取らせない』、『成績だけはこの人には負けられない』と意識し合ったクラスメイトがいたでしょうか?
誰もが辿る青春の道、誰もが迷う青春の森、そして誰もが見る青春の光と影。私たちは誰もが青春時代を過ごして大人になります。あの青春時代があったから、今の自分がいる、そんな強い想いがある人も、そうでない人もいるでしょう。しかし、誰もが辿る道だからこそ、そこには今に続く自分自身の何かしらの起点があったのだと思います。
そんな青春に、あなたは何を思い浮かべるでしょうか?どんな光景がそこに思い浮かぶでしょうか?汗を流した部活動の日々、親には内緒の友達との逃避行、そして心の奥底に秘めた先生への想いなどなど、人によって何に青春の時間をかけたかは異なります。しかし、共通するのは、それが人生の中でもかけかえのない時間だったということ。二度と戻ることのできない大切な瞬間の連続だったということです。
さて、ここに北海道にある『中高一貫の女子校』を舞台にした物語があります。地元だけでなく東京からも新入生を広く受け入れてきたその女子校。この作品はそんな女子校に一期生として入学した生徒たちを描く物語。そんな中に『東大一直線ツートップ』として意識し合う二人の女子の物語。そしてそれは、そんな生徒たちが青春の煌めきの中にそんな時代を駆け抜けていく様を見る物語です。
『この度、めでたく築山学園の一期生となりました皆さんにふさわしい、晴天に恵まれましたことを…』と語る壇上の来賓挨拶を『射るような目で』『睨みつけ』るのは主人公の一人、宮田佳乃(みやた よしの)。『来賓挨拶のあとには、入学生代表挨拶がある』、『それは普通、入試成績一位の者が任されるものではなかったか?』と思う宮田は『突然、自分の名前が呼ばれるという奇跡を』願います。しかし、『入学生代表挨拶。一年一組、奥沢叶(おくさわ かなえ)』という司会の言葉の後、『奥沢叶が壇上に上がった瞬間、宮田の妄想はかき消え』ます。『群を抜いて見目がよかった』という奥沢は『桜を待つ、北国の春が訪れた今日この日』と式辞を読みます。『たしかにこいつが入学生総代だったのだろう』と確信する宮田の耳に『あの子、すっごい可愛いね』、『めっちゃ頭よさそ~』と隣の生徒の声が聞こえます。『とんでもないところに来た』と思う宮田は『自分をこんなところに追いやった父親を改めて恨』みます。去年の梅雨のある日、『知らない私学のパンフレット』をテーブルの上に見つけた宮田は、『私立築山学園中学高等学校、と書かれた冊子』を『どこか噓くさく安っぽい』と感じます。嫌な予感がする中、リビングに現れた父親は『来年、北海道に出来るんだってさ。中高一貫で、寮もあるって』と話します。それに反発する宮田に『毎日毎日、疲れて帰宅しておまえのヒスに付き合うのも限界なんだわ』、『お父さんはもう決めたから』と言うと仕事に出掛けてしまいました。『離れたいのはこちらとて一緒だ。しかし、今更どことも知れない田舎の新設校に行くなんてあり得ない』と思う宮田。そして、入学式の後、『委員会と係、何やる?』と、入学式の時に話しかけてきた森みなみと話す宮田は、『学級委員の奥沢さんと北野さん。早速ですが、進行よろしく』と担任が言うのを聞きます。『奥沢叶はその圧倒的な存在感で、優等生の座に落ち着いてしまった』と奥沢を見る宮田。そんな宮田は『ここにいるのは中学受験に敗れた落ちこぼれと、何も知らない田舎の子どもと、あるいはわざわざここを選んだ変人のどれかなのだ』とクラスメイトのことを思います。『どうして自分がこんなところにいるのだろう』と思う一方で、『だけど自分はここですら一番を取れなかったのだ』とも思う宮田は、『東京大学に行きたい』、『東京へは絶対に戻る』と思いつつ『窓の外の白く澱んだ景色を』睨み続けます。場面は変わり、『寮の半地下にあるレク室』で、宮田の耳に耳慣れない言葉が入ってきました。『特待生って馨と奥沢さんの二人だけなの?』と『特待生』についての会話を聞いた宮田は『入試の上位二名が、奥沢叶と北野馨?』、『自分が二位にも食い込んでいないことはあり得ない』と思い、翌日、『まだひと気のない時間帯に登校』し職員室へと向かいました。そして、そこにいた担任の落合に『入試の結果について知りたいんですけど』と話しかけ『自分の点数と順位が知りたいんですけど』と詰め寄ります。そんな宮田と、『入学生代表挨拶』をした奥沢叶。北海道に新設されたばかりの『中高一貫の女子校』を舞台にした二人の青春を描く物語が始まりました。
“北海道の中高一貫の女子校を舞台に、ままならない思春期の焦燥や少女たちの成長を描く、書き下ろし青春長編”と内容紹介にうたわれるこの作品。安壇美緒さんの二作目の長編小説として2020年に刊行されています。”青春長編”という言葉だけで遠い目をしてしまうさてさてですが(笑)、流石に自身が経験したことのない女子校が舞台ということで、そんなには惹かれないかな?とも思いました、しかし、駄目でした。ああ、青春だよ、これ、という読後感に浸ってしまった私。しかし、そんな余韻にも十分浸り終わりましたので、レビューを始めたいと思います(笑)。
この作品の舞台は、『私立築山学園中学高等学校』という北海道南斗市(もちろん架空)に新設された『中高一貫の女子校』が舞台となります。『北海道内外から広く生徒を募っている』ことから地元以外、東京からも寮生活前提で入学者がやってきます。そんな北海道という地には同じ日本でも違った景色が思い浮かびます。では、まずはそんな北海道らしい表現を追ってみたいと思います。
・『正方形の格子窓の向こうには、大きな山が聳えていた。人の手で作られた築山地区とは違う、本物の山だ。その山の上は、まだ雪に白んでいる』。
→ 入学式直後という季節の教室からの景色の描写がこれです。四月に雪の描写が許される北海道ならではの、かつ、この表現だけで広大な大地が目に浮かぶ絶妙な表現です。
・『湿度のない乾いた風が、白樺の木々の間を吹き抜けていた』。
→ 『乾いた風』とはよく使われる言葉ですが、そこに『湿度のない』という言葉をさらに重ねて修飾するところが強い印象を残します。『白樺の木々の間を吹き抜ける』…絵になりますね。
・『熟れた柿のような夕陽が、向こうの山へ落ちていく』。
→ これも凄い表現です。『熟れた柿のような夕陽』、海に沈む夕陽の表現ではなく、ビルの間に沈んでいく夕陽とも違う、大自然、まさに北海道に沈む夕陽ならではの表現だと思います。
これらの表現は、そんな風に目の前の景色を見る登場人物の心の中を表しているとも言えます。デビュー作「天龍院亜希子の日記」では数々の比喩表現で魅せてくださった安壇さんですが、この作品では舞台を北海道にした意味を存分に感じさせてくださっていると思います。
そんな物語は、作品冒頭に主要登場人物9人の簡単な紹介がなされています。この作品のように冒頭に人物紹介がなされる作品というと、恩田陸さん「ドミノ」、「ドミノ in 上海」のように大量の人物が圧倒的分量の物語の中に登場する作品で例があります。この作品は文庫本384ページとそこまで分量は多くなく、登場人物も少なくわざわざ人物紹介が設けられているのが不思議な気もします。しかし、物語を読む前に一通り目を通すことで見晴らしは確かによくなります。では、そんな紹介の中から主人公となる二人の女子生徒の記述を抜き出してみましょう。せっかくですので、ここに記述されていない点を”+”で補足します。
・『宮田佳乃 全国コンクールで入賞するピアノの腕前を持ち、成績優秀でプライドが高い。東京出身だが、父との折り合いが悪く、北海道に新設された築山学園中学校の寮に入ることに』。
+ 『宮田先輩は背ぇ高くて暗いからカッコいい』
+ 『東京大学に行きたい』と願い、『東京へは絶対に戻る』と強く決意している
・『奥沢叶 容姿端麗で人当たりがよく、誰からも一目置かれる優等生。築山学園中学校の入学式で、新入生総代を務める。地元生まれで、母と二人で暮らしている』。
+ 『絵を描くのが好き』
+ 『この家を出て進学をして就職をして、今ここにあるすべてを捨てて、何の事情もない何の問題もない、純粋な女の子になるんだ』と強く願う
この記述から分かるように、宮田と奥沢という二人の生徒は全く異なる属性を持つ人物として位置付けられていることが分かります。物語ではそんな二人の唯一の共通点である『学力』でお互いを強く意識する様が描かれていきます。この作品は、
・〈宮田美乃 十二歳の春〉→ 宮田視点
・〈奥沢叶 十二歳の夏〉→ 奥沢視点
・〈宮田と奥沢 十七歳の秋〉→ 宮田と奥沢の視点が順次切り替わる
という三つの章から構成されています。そんな物語の中で、『全員、東大コースみたいな塾』と説明される『六啓館』に通っていた宮田にとって『北海道の僻地の無名校に行くこと』は、『人生から降りたと思われ』るほどのことでした。そんなまさかの進学先で、『入学生総代』になれなかった屈辱。物語は、その先に『絶対に、奥沢に首位は取らせない』、『次は必ず、奥沢に勝たなければならない』と奥沢のことを強く意識していく姿が描かれていきます。それは、『成績優秀でプライドが高い』という人物紹介に浮かび上がる宮田のイメージそのものです。一方の奥沢は『母と二人で暮らしている』という説明の中に人知れず悩みを抱えています。『奥沢は家のあれこれを、誰にも言ったことがない』というその内情の先に『成績だけはこの人には負けられない』、『ライバルなんて、爽やかに言わないでほしい。これは戦争だ』と宮田のことを強く意識していきます。しかし、宮田の原動力とは異なり、その思いは『持てる能力のすべてを使って、この人生から脱け出してやる』という、全く違うところから湧き上がっていることがわかります。このパワーの源の違いが物語を格段に面白くしていきます。読者は視点の切り替えによって双方のパワーの源の違いをはっきり意識した上での読書となる一方で、当人同士にはそれが見えません。これは、そんな青春を駆け抜けてきた者全てに言えることです。人は他人の人生の裏にあるものは決して見えません。あくまで目に映る相手の姿をもってそんな相手を理解していきます。そして、そんな意識の度合いにおいて青春時代、特に中学から高校という多感な時代はその感覚が非常に繊細です。この作品では、前半二章を中高一貫校入学直後の二人それぞれの視点で見せ、後半一章では卒業を翌年度に控え、その先の進路で悩むことになる高校二年の秋という絶妙な時間設定の上で前半から四年が経った二人の姿を描いていきます。安壇さんはそこに彼女たちは新設校の一期生であるという設定を入れています。つまり、前半では誰も上級生のいない環境でゼロから学校を作り上げていく絵を描き、後半では下級生が入ってきて先輩となった彼女たちの姿が描かれるという背景が上手く物語進行に取り入れられているのです。そして、そこに描かれるのは、女子校ならではの雰囲気感。そんな物語にはこんな一文が差し込まれるシーンも登場します。
『逸る心臓を押さえながら、初恋の輪郭へひた向きな想いを投げる』。
『初恋の輪郭』というたまらない表現の先にある感情までをも描いていくこの作品。そんな物語は、最終章で『合唱コンクール』という舞台を彼女たちに用意します。学園を舞台にする作品で『合唱コンクール』は感動直結間違いなしの強力な武器です。私が読んだ作品では宮下奈都さん「よろこびの歌」、「終わらない歌」の圧倒的な感動の物語は思い出すだけでも胸が熱くなります。そして、この作品の『合唱コンクール』もそんな青春の舞台の結末には間違いのない感動を届けてくれます。
『孤独で辛くて怖いのは、この世で自分だけだと思っていた』
そんな日々の先に、
『人が思うよりもずっと、この世で奇跡は起きるから』
そんな言葉の意味を深く思う二人の物語。その先にも確かな人生が続いていくことを強く感じさせる二人の物語。嗚呼、これぞ青春!そんな思いの中に本を置きました。
『とんでもないところに来た、と宮田は思った。そして、自分をこんなところに追いやった父親を改めて恨んだ』。
『理想的な学校生活を手に入れることが出来た奥沢は、それに満足すると同時に、時々激しい嫉妬にも駆られた。宮田のような、本物を目の当たりにする度に』。
それぞれの想いの先に新設の『中高一貫校の女子校』での日々を送る宮田と奥沢。この作品では、”学園もの”ならではの魅力たっぷりに二人の青春の光と影が鮮やかに描かれていました。安壇さんらしく、登場人物たちのリアルな会話の���面が多数登場するこの作品。舞台となる北海道の魅力満載に描かれてもいくこの作品。
それぞれが抱える悩み、苦しみに真正面から向き合う宮田と奥沢。そんな二人の細やかな心の動きの描写の先に、青春物語らしい十代の少女たちの輝きを見た、そんな作品でした。