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これはいち舞城ファンの感想なんですけど、舞城作品って物理攻撃に近い気がする。読んでいる間中ずっと、胸倉を掴まれてブンブン引きずり回されてる感じ。この感覚は短編であるほど強いような。
じゃあ「ホラー長編」であるところの本作はどうだったかと言うと、やはり何か恐ろしく強いものに首根っこを押さえられているようで、早い話が途中で読むのを止める事ができませんでした。
影、暗闇、真っ黒坊主――……。
突如現れる黒々とした穴が、主人公たちの日常を侵食する。
主人公?主人公かあ。うーん難しい。
3つのパートは「中島さおり」「堀江果歩」「中村悟堂」という人名を冠してはいるんだけど、それぞれの物語を語るのは名前の人物自身ではなく彼らにぴったりと寄り添う「誰か」で、でもそれは何でも知っている神様みたいな存在って訳でもなくて割と普通の人間っぽくて、だからこそその「誰か」が用いる二人称に愛を感じて切ないのです。
それはさておき、その「誰か」が次のパートにバトンタッチされて行ってるくさいので、やっぱり主人公ということでいいのかな。とにかくこの構造がすごく面白いなーと思いました。
他の作品でも繰り返し扱われる「怖い想像が悪い影響を持つ」っていうテーマも本当に怖い。生理的に怖い。でも読んじゃう。怖いもの見たさって怖いなあ。もう「怖い」しか言ってないけど。
今まで自分の中で舞城王太郎と云えば『煙か土か食い物』が一番好きだったんですけど、そのランキングがちょっと変動するかもしれない。それくらい面白かったです。
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舞城らしく息継ぎなしでドバババーッと突き進む一人語りはでも自分語りじゃない。
優しいまなざし。
応答のない愛と、見守られてることさえ気付けない人生と。
ホラーで文学で、ズッズッて中に入ってくる。
話し言葉が音のように流れ込む。
流れ込むものを何度も噛みしめる。
離れがたく、愛している。
読者は器が与えられ干渉できない物語に何処までも寄り添える。
歯痒くて、勇ましい希望の物語。
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投げっぱなしで不条理だけど、読んでる間の不快感がすごい。ホラーは理屈じゃないので、ホラーとしては良作なのかもやけど、ミステリ好きにはしんどい構成‥
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“これだ。今、ここだ。”
舞城王太郎の長篇をきっちり読むのは二作目になる。初めて読んだのはブルータスに載った短篇で、シンプルながらももどかしい少年少女の恋愛譚にニマニマしながら読んだと記憶するが、長篇は縁あって薦めていただいた『煙か土か食い物』だ。このデビュー作にあたる一冊で舞城王太郎を語るのはどうかとも思うが、私は率直な感想として言葉遣いの「上手い」人だと思った。一見ぶっきらぼうな語り手から垣間見える知性は隠しきれない舞城王太郎という書き手の言葉であると感じたのだ。気になったならまあ読んでみてよ、と言っておく。
さてそれから何年も読まないまま疎遠になっていた舞城王太郎だが、何の気なしに本屋をぶらついてこの『淵の王』を立ち読みした。最初に覚えた違和感は帯に長篇と記しながら目次を眺めると三者の名前が連ねてあり、何やらその三者の物語を書いた短篇のように見えたことである。無論内容を確認しないで感じたことではあるのだが、この引っかかりを覚えておくことにして買って帰る。
最初の一篇「中島さおり」を読んでみるのだが先に覚えた違和感は拭えない。この物語は中島さおりの物語として一つ完結する。しかし短篇だろよコレは! という感覚がどうしても取り除けないのだ。
中島さおりという女の子はどこにでもいそうな女の子で誰でもが持ち得る正義感を秘めた女性である。噴火の被害に遭う人を助けに行けないかというちょっと変な子でもある。
“私は光の道を歩まねばならない。”
彼女が無意識に吐き出したとされるこの言葉には不浄を寄せない正義が宿っているのだが何やら断片的で説得力に欠ける。や、たしかにいい子なんですけどね。
続く「堀江果歩」では序盤、芯のある少女が自らの努力で成功を獲得するサクセスストーリーが描かれる。ほろ苦い恋愛模様などもあり、それだけでもシンプルな作話として成立している。そこから徐々に異質さが混じり合って正体不明の邪悪さと対峙することになるのだが、この構造は前の一篇「中島さおり」と共通する。
ここで言ってなかったことが一つ。この『淵の王』の語り手は「意識」である。誰ともわからない人物が題に上がる「中島さおり」や「堀江果歩」の物語を描写していくのだ。この「意識」達は度々現れる正体不明の邪悪さと対立する「正義」として在る。しかし「意識」達は実に無力で見守ることと語ることしか出来ない。「意識」らの想いはその暗黒たる悪の前で無残にも打ち砕かれる。
こう見ていくと救いの無い話である。それぞれの正義が得体の知れない悪意に打ち倒されるのを眺めるしかないのは読者も同じだからだ。もどかしい気持ちや切なさを私はどこかで共有することになる。
さて最後の一篇「中村悟堂」である。コレについては読んでくれ。舞城王太郎という作家が仕掛けた意地悪な装置が音を立てて駆動し始める。よくわからない言葉の断片が紡ぎ出され「正義」の輪郭が露わになっていく。冒頭に掲げた引用を思い出してほしい。この『淵の王』はそこに辿り着くための物語であった。なるほどこれは確かに長篇だ。無闇に賛美したくはないけれどしてやられたという気になる。私は気づけば「中島���おり」や「堀江果歩」が繋いだ「中村悟堂」を応援していた。もう一つ言えばそれは初めからそうだったのだ。そしてそこに辿り着く。というわけで読んでください。
さてさて『淵の王』の淵の王とは誰であるか。私はこう考える。今この瞬間ギリギリのところに立っているあまりにも弱々しい彼(もしくは彼女かもしれない)は寸分の正義によって自らの幸福とやらを保とうとしている。そんなことを無意識にやっているのだ。毎日毎日。
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『ディスコ探偵〜』に、続き舞城マイジョー作品三作目。一体これは何を読まされているのだろう?不思議な感覚だ。まず語り手が不明で、話も『ディスコ〜』並みにぶっ飛んでるし。帯の五次元突入!!は正解だと思う。
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名前のない二人称は主人公を愛し、慈しみ、彼らの魔と悪への対峙を見守る。二人称のその無力さが、読む者が必然的にもつ無力さとシンクロするため、読後に不思議な余韻を残すのだと思う。
ストーリーにわかりやすい対立構造をもつ「さおり」と、インパクトのある強敵と格闘する「悟堂」に比べて、「果歩」には明確に対立する敵や実体化した敵が登場しない。広瀬や絵の少女がそうかというと違う気がする。強いて言えば自分自身の意識下にある何か、または健全な外観からは見えない悪なるものである。それに気づかない者は、恐らく生涯気づかない。また気づいたときには「怖いことを考えることそのものが、悪い影響を持つ」というテーゼのもと、すでに手遅れになっているのである。
つまり「深夜百太郎」を完成させた舞城は、もういろいろと手遅れなのかもしれない。でもきっと、「果歩」のラストで二人称が消えかけたときのような執念をもって復讐のチャンスをうかがっている。
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不気味なだけでオチが!
正体ハッキリしない系オチ!
世界設定ハッキリして欲しい派だからスッキリしなかった。
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舞城王太郎やっぱしんど〜おもいながら読んでいたけどさいごの怒涛の展開で気づいたらちょっと泣いてたしやっぱりええわ〜っていうのが読後一番の感想
ゾッとする感情も、愛も、あったよ今回も
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twitter文学賞受賞作ってことで。舞城作品は、だいぶ前に『煙か~』を読んで以来。それなりに楽しめたものの、読書巧者がこぞって誉めそやすほどには入れ込むことが出来ず、数作品買ってはみたものの、どうにも手が伸びず、今まで距離を置いてきてしまっていた。自分も読書キャリアを経てきたし、作者もどんどん円熟度を増しきてるだろうし、っていう風に双方の良い条件が重なったおかげもあってか、本作は上記作品よりも遥かに楽しめました。内容は、珍しい(そして難しいであろう)二人称で描かれる、中編×3編から成るもの。各主人公の背後霊的な”淵の王”目線で、ちょっとホラー寄りの物語が語られる。登場人物の造形やら、ホラーの味付けやらがそれぞれに絶妙で、あまり長くない作品の中に、それぞれの人生が濃縮されてつまっているのも良い。俄然、彼の他作品にも興味が沸いてきました。
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日本語のリズムは相変わらずとても小気味いい。
デビュー作の「煙か土か食い物」を読んだ時には、樋口毅宏氏あるいは町田康氏を想起したが、今回は古川日出男氏あたりをイメージしてみたり。
しかしやっぱり一冊丸ごとまとまりで振り返ると、物語として"閉じた"感がないので物足りないと思ってしまう。
序盤から中盤にかけてストーリーに引き込む力はあるし、文章そのものも気持ち良いんだけど、読了した時にトータルでのカタルシスが得られない。
今作は裏表紙の紹介文に"ホラー長編"とあったけれども、どうやっても3つの中編が並んでいるようにしか見えなくて、私の読解力の問題かもしれないけれど、それぞれの間に有機的なリンクは見出せなかった。
もっと乱暴に言ってしまうと、あくまで"雰囲気もの"として力でゴリ押しされてしまったかのような感さえあった。
要するに、実にもったいない。
…と思いつつ、まだ「深夜百太郎」が気になっているのでまあ今度読んでみようか…。
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どう評価すべきか迷う小説はだいたい良い小説だ。傑出したリーダビリティ、その速度から突如脱線する筋の奇妙さ、ロジカルな会話、などなど舞城らしさを感じずにはいられない。登場人物たちは何と闘っていたのか?僕は物語そのもの、想像力そのものだと思う。彼らを葬るのはだれか。作者か読者か、それとも。
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凄い!
舞城王太郎さん。
デビュー作の「煙か土か食い物」で度肝を抜かれたが、そのあとは意味がつかめない作品が多くてご無沙汰してましたが、久しぶりに手に取りました。
怖い。というより不気味。
個性的な3人が理不尽に異常な世界に引きずられる物語。
そもそも誰が語っているのか分からない。
二人称かと思ったがそうでもない。守護霊的なもの?
●中島さおり 「私は光の道をあゆまねばならない」18歳の秋に宣言した彼女は友人の危機に……。
●堀江果歩 負けず嫌いで努力家の少女はマンガ家を目指して……。
●中村悟堂 諦めない。呪いだろうが、怪異だろうが、友人を救い、惚れた女を取り戻すまでは!
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どうしてなのか自分でもよく分からないけど、読み終わった後しばらく心に居座り続ける本がある。これもそうだった。
話は3つに分かれていて、それぞれの主人公を見守る『何か(もしくは誰か)』が物語を語る珍しい二人称の小説。
色々な解釈の仕方があるだろう。こういう不思議な掴みどころのない話は。
『これはこうだからこうなのだ』というほとんどの人が辿り着くような明確な結論はなく、悪意の近くに吸い寄せられるように現れるブラックホールのようなものの正体も、そしてその空間をいったりきたりする裸の男が誰なのかも分からない。
文章なのにそれらはわたしの頭の中でビジョンとして居座り続けるから、ついついそのことについて考え続けてしまう。
自分のやりたい道を迷わずに、ずんずん進んでいく人の物語を読むのは、とっても気持ちのいいもんだ。例えそれが、ところどころ身震いするような恐ろしい話だったとしても。
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久々の舞城作品だったので楽しみにしていたのだが、読書のスピード感と文章のややこしさがマッチせず、ホラー小説で口語体(舞城口調)で、あのリアルな高校生がダラダラだべるような癖になる文章が、語り部の分からぬ視点のスイッチに時々置いつかずに妄想世界から振り落とされた。
その視点こそギミックであり、短編集のような本作が、どうしてこれで長編なのかと、ペラペラめくりながらまだ悩む。そうするとホラーにミステリー要素がベッタリ、いやネチョっと塗りついて、ホラーが気味悪さになり、ただのエンタメグロシーンみたいになってしまう。
物足りないというのも違うが、舞城作品は、もっとその疾走感、つまり盛り上がりと共にグイグイ読むスピードが上がってページ捲りまくる読み方が好きだったので、少し期待と違った。
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読み出すと止めることができなくなるほどの勢いがあった. 読んだという読まされたと言った方がしっくりくると思う.悪い意味ではなく. 内容としては、常に主人公と共にいた存在は次の話の主人公なのかなと.